余談(30)





スコアブックを開くと、そこには理解不能の記号がびっしり書かれていて、反射的に開いていたページを閉じてしまった。 ……なにこれ。
いつものスコアはどーした!? いつも篠岡がつけてくれる、オレにも判読可能なスコアは!
……と思っていたら。

「あ、それねぇ、阿部くんが付けてくれたんだよ!」

阿部、お前とうとうこんなワケ分かんない暗号を……。いやいっそ新言語と言ってもいいんじゃないのか? これはあれだ、究極の野球バカ(しかも、頭が良いタイプの野球バカだ)にしか通じない『野球語』とかいうやつに違いない。
そりゃ、お前みたいに頭良いタイプの野球バカならいいけど、オレは普通の頭の野球バカ(しかも阿部と比べると軽度の)だから、こんなスコア付けられても解読できねぇんだよ!
……と思っていたら。

「凄いよねぇ、阿部くん。わたし、こんなに詳しく書いてあるスコア、見たこと無いよ!」

いや、篠岡、そこは褒めるところなのか? だって解読できないんだぞ。こういう野球語は阿部専用スコアでのみ使用可、ということにしてだな、部のスコアは今まで通り篠岡がつけてくれるとありがたいんだけど。
ほら、対戦校のデータ纏めるときに困るの、きっと篠岡自身なんだし。
……と思っていたら。

「3回裏のこのアウトの所とか、ややこしい状況だったのに、阿部くんのスコアだとすぐにわかるよね!」

うん? 篠岡、もしかして阿部の野球語スコアを読めるワケ?
…いやまあ、篠岡が阿部とモモカンの超濃い野球話に入っていけるぐらい野球バカ(重度)ってのは知ってんだけど。
それにしても、これ、読めちゃうワケ? マネジって、マネジって……っ!
……と思っていたら。

「阿部くんに教えてもらって、わたしもちゃんとこういうふうにスコアつけれるようになるね!」

いや、それは是非ともやめて下さい。
……オレも阿部に教えてもらうかな……。