余談(23)





頭を使うと甘いものが欲しくなるってホントなんだな。
実感を伴ってそれを知るのは、大抵試合のあとで、苦労して立てた配球を、ノーコンエースの調子に合わせて調整して、打者を見て調整して、ってことを繰り返していると、一試合で驚くほどに消耗してしまう。
その上、かのエース殿は、そのノーコンぶりで、一瞬たりともオレに気を緩めさせないのだから、なお始末が悪い。
うっかりすると、捕り損ないをくらって退場、ってことにもなりうるから(これがホームに突っ込んできた走者との接触よりも確率が高い。このキャッチャー殺しめ!)一試合終わる頃にはオレは知恵熱みたいに頭が痛くなって、なんかもう色々と限界になってしまう。
こんな状態じゃ、ダブルヘッダーなんて以ての外だよなぁ。

で、今日も今日とて、限界まで酷使した脳みそが疼痛を訴え、試合が終わったと同時に、オレは木陰で頭に濡れタオルをのっけて寝ころんでいるわけだが。
毎度これだと、なんか対策考えないといけないかなぁ。
つか、元希さん、今日も荒れてたなぁ。
……と、足音が近づいてくる。

「タカヤー、お前、またへばってんの?」

あ、元希さん、ダウン終わったんすか。

「お前、もちっと鍛えねーとダメなんじゃねぇ?」

それは自覚してます。
でも、元希さんのコントロールがもっと良くなったら、オレの苦労も半減するんですけどね。

「ったく。おら、口開けろ」

へ? なんすかコレ……、チョコレート?

「疲れたときには甘いモンがいいんだってよ」

はぁ、そりゃ知ってますけど……

「ありがたく食っとけ」

ありがとうございます。つか、持ち歩いてんですか、これ。
貰っといてなんだけど、オレ、チョコレートはあんまり好きじゃ無いんですけど。
じんわりと口の中に濃厚な甘さが広がって、普段は好まない味なのに、疲れているとおいしく感じるから不思議だ。
そもそも、なんでこんなの持ち歩いてんだろ。
元希さん、キシリ噛んでるくせに、甘いもの好きだからなぁ。お子様味覚め。
……と思っていたら。

「口開けろ」

今度はなんですか。

「いーから口開けろっての」

ジャラリと音がして、開けた口に二粒の。
噛むと口の中がヒヤリとするようなそれは、いつも噛んでるキシリトールだろう。

「甘いモン食べたあとだからな」

甘かったり、ヒヤリと刺激的だったり。
得意げな声と、マウンドで見せる目と。
どっちが本当の元希さんなんだろう。
どっちも本当の元希さんだったらいい。

反対のアンバランスさにちょっと笑って、口の中のガムを噛み締めた。
舌の上に、まだ少し残っている甘ったるい味が、今は心地よいものに感じた。