余談(22)





出先から帰ってきたら、マンションの下の郵便受けからあふれ出しそうなほどに色とりどり(どちらかと言えば悪趣味と言っていいほど)の紙切れが覗いていて、いつものコトながら、それにウンザリしてしまった。
これらは殆どがチラシやらダイレクトメールやらで、大概は目も通さずにゴミ箱行きになる。
資源の無駄遣いもいいところだ。
しかも、稀にその不要郵便物の間に、光熱費の明細やら、引き落としの通知やらが挟まっているので、一々確認しない事には捨てる事も出来ないから困ったものだ。
だから、オレはそれら全部をまとめて一度部屋まで持って入るようにしていた。
その辺に捨てていくのは、マナーが悪いだろうし。
……それにしても、なんか今日はヤケにダイレクトメールが多いなぁ。
そんな事を考えながら、エレベーターのボタンを押した。
ぐぐっと体に加重を感じて、一瞬だけ目を閉じた。
乗り物酔いに似た感じがキライで、なるべくエレベーターは使いたくないのだが、荷物が多い日にそんな事は言っていられない。
待つほどもなく目的階に到着して、両手が塞がっている為に苦労してカギを取り出して、ドアを開けようとした。
バサバサバサッ
あ、と思うまもなく、均衡を失って、抱えていた不要郵便物どもが落ちてしまった。
なんでチラシ類はこんなあかい色が多いんだ、と思いながら、苛ついた気分をことさら落ち着けるように、一枚一枚拾い集める。
……と、なにやら不吉な文字の羅列を見たような気がした。
「榛名 元希 様」
慌てて全部鷲掴みにして、玄関に飛び込んで、カギを閉めた。
そのまま靴箱の上に郵便物を広げて、一枚一枚確認していく。
チラシ、チラシ、ダイレクトメール、チラシ、ガスの明細、ダイレクトメール……
この種類に問題はない。
しかし、このダイレクトメール、宛名が……

「どういうコトだ!?」

宛名が、「榛名 元希 様」になっている!
いや待て、ちょっと落ち着け。
ここはオレの家だよな?
確かに元希さんは、なんかもう住み着いてるんじゃないかってくらいこの家にいるけど、でもあの人だってちゃんと一人暮らしの自宅があるわけだし。
なのになんであの人宛の郵便物がオレの住所で届くんですかコンチクショウ。
どういうコトだ、と問いつめてやろうと電話したら、コール三回でお留守番サービスに繋がった。
そーいや今練習中だっけ。
ぴっ、と発信を切って、携帯をパタンと閉じたら、すぐさま着信が入った。
バイブにしているので、画面を見ないと誰からか分からない。
着信表示は、と……あれ、秋丸さん?

『もしもし隆也くん?あのね、勝手で悪いんだけど、榛名の住所、隆也くんの所に変更しといたから。アイツ、いつも必要な書類とか送っても気付かないで捨てたりするんだよ。だいたい、アイツ最近隆也くんの部屋に住み着いてるし』

ごめんねー、と急いでいるらしく一方的に通話は切れてしまって、ツー、ツー、と虚しい音を立てる携帯を片手に立ちつくした。

オレ、完全にパラサイトされてるよ……