余談(20)





あかい色は、おいしい色だ。
りんごにいちご、さくらんぼ。
まっ赤に熟して甘酸っぱい。
オレは果物のなかじゃ、あかい色の物が好きで、でもあかい色の果物っていっても色々で、種類に統一性なんてないんだけど、それでもなんか好きで。
あかい色がすきなのかな。
あかい色を見ると、ドキドキする。



「あーもう、ホントあっちーのな」

タカヤの部屋に入ってまずそう言ったら、ただでさえ暑いのにそう暑い暑いって言わないでください暑苦しい、って言われた。
これはアレだ、ほら、なんだっけ、シントウメッキャク?
つかタカヤ、お前最後にさり気なくヒドイこと言っただろ。
大体、なんでこんな暑いのにクーラーつけてないの?

「オレも今帰ったばっかなんですよ」

そりゃ悪かったな。
まぁ、オレもだけど今まで練習だったしな。
夏大までもうちょっと、出来る事は全部しときたいから、練習にだって熱が入る。
タカヤんとこは、なんかたのしそーな練習メニューだったから、いいなぁって思うけど、練習後の鬼ごっことかってけっこうキツイと思うんだけど。

「元希さん、麦茶でいいスか」

「うん。あと、なんか腹にたまるもん食べたい」

「……そのうち食費払ってもらいますからね」

なんかあったかなー、って言いながら、トントンと軽い音を立ててタカヤが一階に降りてった。
最近家よりこっちでメシ食うコトの方が多い気がするからなぁ。確かに、食費とか払わないと、なんかこう、ヒモになった気が……

下でなにやら音がして、しばらくして階段をあがる足音と、ゴン、と部屋のドアを蹴る音がした。
あけてやると、お盆を持って両手の塞がったタカヤ。
ほかほかと湯気を立てる、驚くほど野菜のたくさん入った塩ラーメンと、ひじきとかきんぴらとかの小鉢と、中身の分からないおにぎりがローテーブルに並べられる。

「おま、これ今の間に作ったんかよ?」

「ひじきときんぴらは昨日の残りですけど」

ふーん。それにしても、相変わらず手際のいいヤツ。
鼻先にラーメンの湯気があたって、あー美味そう、と思いながら、差し出された箸(割り箸じゃない、オレの箸だ)を受け取ったら、タカヤの顔がやけに赤いのに気が付いた。
また日焼けしてんなぁ。コイツちっとも黒く焼けねぇから。
でも、ホッペタもあかいけど、くちびるも赤い。
赤いだけじゃなくて、いつもは薄いタカヤのくちびるが、腫れたみたいにぽってりと厚い。

「お前、そのくちびるどーしたん、なんかすっげー赤い」

「え? あぁ。なんか、くちびるも日焼けするみたいなんスよ」

「へー。じゃ、くちびるにも日焼け止めとか塗るのかな」

「さあ?」

ちょっと痛いんだよな、ってくちびるをさわるタカヤの、その手元、口元を見ながら、ふと思った。
なんであかい色はあんなにおいしそうに見えるんだろうか。
だって、食べ物にしちゃ、ちょっとどぎつい色じゃねぇ?
でも、なんでか心惹かれるのは。

「うまそうだなー」

そう呟いたら、伸びるから早く食べてくださいよ、って言われた。


さて、うまそうなのは、ラーメンなのかタカヤのくちびるなのか。