余談(13)





キャッチャーがタイムをとって、内野がピッチャーのところに集まる、というのは、いわゆるところの、ピンチと呼ばれる状況である。
できればそういう状況にはならない方が良いのだが、まあそうなってしまうこともあるのは致し方ない。

さて、本日の練習試合で阿部がタイムをとったのは例によって三橋が一人でグルグルしはじめた(原因は不明。計り知れない思考回路だ)からなのだが、マウンドに集まった内野陣を見て、レフトの水谷がポツリと呟いた。

「外野ってさみしい……」

そう、外野は、マウンドまで距離がありすぎるために、みんながマウンドに集まっていても、そうそう行けないのである。
フミキ泣いちゃう、なんてふざけてみても、誰もつっこんでくれる人がいないのが、なおのことさみしい。
そして、お前は母親かというくらい三橋を心配している阿部と、宥める栄口、通訳の田島、間に挟まれた沖・巣山を、遠くから見ている内に、そのタイムは終わり、内野手もみんな定位置にもどって行くのが見えた。
たまには自分も駆け寄ってみようかと思うが、今回も行き損ねた水谷だった。



試合後のミーティングにて。

「あのさぁ、タイムとって、内野がマウンドに集まるのあるじゃん。あんとき、外野ってけっこうさみしいんだけど」

「は?」

反省やら気付いたことやらを言い合っている車座で、はーい、と手を挙げた水谷が言った。
ちなみに、は? と言ったのは阿部だったが、水谷は気にせずに話を続ける。

「なんつーか、疎外感? みんな集まってんのに、外野って遠いからなかなか行けねぇじゃん」

そこで水谷が、な! と花井・泉に同意を求める。

「どーなの、さびしいもんなん?」

……と、阿部。

「さびしいっつか疎外感っつか、……心配かなぁ」

「大丈夫か、がんばれ、って思っても外野からはなかなか行けねぇから、もどかしい時もあるけど」

花井と泉は口々に答え、そして顔を見合わせて一旦言葉を切って、こう続けた。

「タイムとってるあの時間、ちょっと所在ないってのはあるな」

でしょ、でしょー! と水谷。
練習試合の反省点としてはちょっとずれているが、そこは仲良し西浦っこなので、そこから、あーだこーだと話が発展していく。
結果、以下の解決策が提案された。

「内野がマウンドに集まってる時、外野は外野で集合して守備位置の確認とかすればいいんじゃないか?」

「なるほど」

「でも外野は外野なんだ」

「仕方ないだろ、遠いんだから」

「ホントに重要な時だけ、マウンドまでダッシュで来れば?」

「あー…、うん」

そう言うわけで、タイムで内野が集まっている時は、外野は外野で集合しよう、ということになったのだが、

「じゃあ、今度からセンターに集合で」

「なに、泉はうごかねぇの?」

「位置的に見ても、オレんとこに集まんのが妥当だろー?」

「……あ、そっか」








この、タイム時は外野はセンターに集合、は、試合時に実際行われるようになったのだが、見ていた観客や他校は、

「外野まで集まってんぞ」

「西浦って、仲イイなぁー」

…と思ったらしい。
よほど微笑ましかったのだろう。
春に新入部員が入ってきた時に、雰囲気の良さそうな部だから、と言う意見がけっこう多くみられた。