余談(11)





「二番、キャッチャー、隆也!」


監督がそう告げた。
右手には、2番の背番号。
ハイ! と反射的に返事をして、隆也は心なしか硬い動きで、差し出された背番号を受け取って、元いた位置まで下がろうとした。
そしたら、元希と眼があって、彼がニヤリ、と笑ったので、急に実感がわいてなんだか大声で叫びたくなってしまった。

2番。
エースの、元希の前に座る、彼の1番に釣り合う背番号。
この感情を、どう言えばいいだろうか。
"二番、キャッチャー、隆也!"
そう告げられた瞬間の、この喜びを!


………って、あれ?
オレ、二番でいいんですか!?











そこで隆也は、我に返った。
ちょっと待て、ホントにオレが二番でいいのか。
そんな隆也の葛藤を余所に、監督は二番以降も順にオーダーを読み上げていく。
野球は当然9人でやるものだから、一番から九番まで、9人の名前を呼ぶことになる。


「九番、ピッチャー、元希!」


9人目の名前は、当たり前の如く元希だった。
元希がエースで、彼はあらかじめ、先発でいけるか、と打診されていたので、当然と言えば当然だ。
隆也はうれしさの余り、うっかり失念していたが、オーダー発表の時に言われる番号は、背番号ではなくて打順だったのだ。


……というわけで、二年で2番で二番打者の隆也は、自分は八番辺りに入るもんだと思いこんでいたので、うっかり二番なんて上位打線を頂いてしまって、すっかり恐縮して、本当にオレ二番でいいんですか、と監督に聞き返してしまった。
元々レギュラーの三年生に混じると小柄な彼が、恐縮してますます小さくなっているのに、周りの先輩方は、全く持って気にしていないらしい。
ホントにいいのか、いやダメだろ。
なぜなら、二番は、足がありバントを確実に決められ、そしてこまかいサインプレーをこなさなければならない、重要な打順だから。
自問自答している隆也に、おもむろにキャプテンの遊撃手が、こう尋ねた。


「隆也、バントするときに、一番大事なことってなんだ?」

「球を怖がらないことです」

「だな」


ところで隆也は、チーム内で唯一元希の球の前にミットを構えることができるキャッチャーだった。
みんな、元希の球を怖がり、彼の本気と対峙し続けることはできなかった。
隆也自身も、怖いと言えば怖いのだが、彼は逃げずに対峙し続けることで、とうとう元希の本気を捕れる唯一のキャッチャーにまで成長した。


「つまり、このチームで1番球を怖がらないのは、お前だ」

オレは元希の本気の球なんか飛んできたら、逃げるよ。
そう言ったキャプテンに、うんうんと頷くチームメイト。


「決まりだな」


ポン、と頭を叩かれて、じゃーさっさと着替えて帰るか! と、散っていく背中達。
確かに元希さん以外のボールは怖くないけど、怖くないけど、でも……


「ホントにいいのかなぁ……」


そう思わないでもない隆也だった。






.................


シニア二年時の隆也の打順は、上記の理由につき2番がいいと思います、という主張。
サインとか、そう言う頭の良さもいるけど、キャッチャーだったら問題ないでしょ。
八番隆也、九番元希ってのも、ちょっと萌えるけど。
ネクストのサークルから、へいへいバッタービビってる! なーんてヤジる元希と、うっさいですよ! なんて言い返す隆也。
二人とも打者としては大して期待されて無くて、投げるだけ、捕るだけ、のレギュラーだけど、それで充分チームに貢献してるとか。
でも、チームで試合してるのに、この二人はバッテリーで完結しちゃってるっていうか。