まだ、休日や雨の日に使えるトレーニング施設がなかった頃からの習慣だ。
―――筋トレ。
腕立て、腹筋、背筋、スクワット。あとは、柱に結びつけたチューブを左手で引っぱったりとか、そーいうの。
家に一室だけある和室に、さらにマットレスを敷いて、ひたすらこなした回数を数える。いち、にい、さん、し、ご……。たまに数え間違って、十回ばかり多く腕立てしたたりする。
あんまり数え間違いするもんだから、なんかカウンターみたいなのほしいよな、って思って、真剣にネットで探してみたりもした。ほら、前に筋肉番付であったような、あんなカウンター、あったら便利だろ?
………って話をしたら、アンタ数もまともに数えられないんですか、って馬鹿にした目で見られて、うっせーテメー、って睨み返したら、ハッて鼻で笑われて、ああもうコイツ、なんだってこんな可愛くないのに育ったちまったのかな、って昔を懐かしんでしまう。………あれ、でもコイツ、昔から可愛くなかった気がする。ってことはあれか。オレが悪趣味なのか。
大体、オレが数を数え間違えるのなんか、半分はコイツのせいだ。必死に数えてんのに話しかけてきたり、オレが「34,35,36……」って数えてる横で「22,23,24……」って違う数字数え上げて混乱させたりしやがるからだ。チクショ、この性悪め。
最近、腹筋してるオレの足の上に座るから、重しになってくれてるのかと思いきや、そんなことばかりしやがる。そのくせ、間違って数え直してたら、からかうみたいな声で正しい数字教えてくれるし、だったら最初からすんなっつーの。
今だって……くそ、なんだよその楽しそーな顔は。今度は何思いついたんだ。
あんまりにもムカついたから、今度はオレが反撃してやる。吠え面かくなよ!
ちゅ。
腹筋して上体を起きあがらせたそのついでに、オレの足に座っているタカヤの唇を掠める。さっきまで笑ってた目がまん丸になって、顔どころか耳までまっ赤になるのを見ながら、オレは上体を倒してタカヤから遠ざかった。
腹筋だから、当然またすぐに上体を起こすわけで、そしたらまだ固まったままのタカヤの顔があって、じゃあついでだからもう一回、って唇を寄せる。……そろそろ我に返ったかな? もう一回ぐらいできるといいんだけど。
そう思っていたら、我に返っちまったらしいタカヤがオレの足の上から飛び退いて、重しを失ったオレは、腹筋の力が足に逃げて倒れ込んでしまった。やべぇやべぇ、うっかり後頭部強打するところだったぜ……。
ったく、タカヤてめー、いきなり退くなよな。そう言おうとして顔を上げたら、まっ赤になった口パクパクさせたのがいて、あぁなんだ、オレ趣味悪くねぇじゃん、って。
なんせ、こーいうときのコイツは大層可愛いので。