花井と栄口と一緒に、行き付けのスポーツ用品店(西浦高校です、って言ったら5%引き)に行った帰りに、なんとなく、バッティングセンターに行こうか、という流れになった。
普段あんなに打ってるのに、たまの休日にも野球部で連んで、バッティングセンターに行っちゃうオレらって、やっぱり野球バカだよなー。

「一番野球バカの阿部と比べたら、オレも花井もマシな方だと思うよ」

……栄口は、にこにこさらりとけっこうきついことを言うヤツだ。
って、花井も相づちうってんじゃねぇ!

あーくそ、どーせオレは野球バカですよ。
ったく、さっさと行こーぜ。この時間だったら、川沿いのバッセン空いてるだろーし。
あ、花井は行ったことないかな。松坂の映像出るヤツがあるトコなんだけど。


―――なんて言ってるうちに、奇跡的に一度も信号に引っかかることなくバッティングセンターに着いた。
まあ、それなりに空いてんじゃね?
けっこう早く打てそうで良かったよ。

「左端が松坂の映像が出るヤツ?」

うん。いま、二十歳前後の茶髪の人が入ってるボックスな。

「あべー、コイン買ってくるけど、何枚要る?」

サンキュ、栄口。オレ、取り敢えず二枚買っといてくれ。
あ、花井、素振りするなら外いけよ!
え?バット?
オレはいつもこれ使ってるけど、花井だったらもうちょっと重いの使ってもいいんじゃねえの。
ああうん、それそれ。……どう、いけそう?

「はい、これ、阿部の分ね」

チャリチャリ手の中で音を立てるコインは、一枚三百円だ。
ちょっと高いんじゃねぇの。

「あ、茶髪の人、終わったみたい」

「じゃ、ここのバッセンに来慣れてるらしい阿部からどーぞ」

…別に、来慣れてるワケじゃないんだけどな。
オレ普段は、家から近い方の、ボロくて安いバッセン行くし。
まあいいか。
誰が最初に打ってもたいして変わらないしな。





「あべー、がんばれー」

栄口、応援(?)してくれんのはありがたいけど、そんな大声で言われても恥ずかしいぞ。
ここ、グラウンドじゃないんだから、ちょっと声量に気をつかってくれよ。


打席に入って、素振りを一回、二回。
コインを入れて、足場を確かめて。

ジジッと一瞬砂嵐になった画面が、次の瞬間、クリアに像を移した。
グリップを握りなおして、画面を睨む。

っし、仮想松坂、打ってやるぜ!



……と思ったら。



「も、元希さんっ!!?」








ガバッ、と起きあがって、ベッドの上にいる自分。
あれ、今の、ユメ?
なんか凄くリアルだったんだけど……。

たしか、花井と栄口とバッティングセンターにいって、松坂の映像が出る、最速のボックスに入ったんだよな。
そこまでは現実だっけ?
それとも、全部ユメだった?


で、取り敢えずバッセンに行ったんだよな。
っつか、多分、全部ユメだよな?

バッセンの、松坂がうつるはずの画面に映ったピッチャーが、

「元希さんだったなんて……」


映像とはいえ、あの笑みで、あのフォームで。

くそ、あれホントにユメだったんだろーな。
あの人がバッセンの映像に出てくるなんて、



「将来、実際にありそうでイヤなんだよ……!」