キャッチボールは、なるべく違う相手とするようにねー!


監督の百枝がそういうのも、一理ある。
柔軟、キャッチボール、バントス(バントとトスバッティング)までは二人一組でこなすので、その間の1時間くらいは、必然的に組んでる相手とよくしゃべるようになる。
だから、大体は毎回違う相手とくんでみて、お互いアドバイスしたり、バックホーム用の遠投、カットまでの正確な球、と投げるボールの種類を要求したりしている。

が、例外が二人。
ピッチャーの三橋と、キャッチャーの阿部は、いつも組を変えることなく、二人で柔軟からバントスまでをこなしている。
アップが済んだら次はピッチングだから、この二人、いつもかなり長い時間を一緒にいるわけで。
あんなに一緒で、よく飽きないなぁ。
あの二人に飽きるなんてあるわけねーだろ。
……なんて言われているのだが。


「花井の球って、キレーに縦回転なのな」

「ん、そっか?」


今日は三橋と田島が補習で遅れるために、珍しく阿部と花井が組んでキャッチボールをしていた。

ライト兼控え投手の花井の投げる球は、塁間のくらい離れたところに立つ阿部のミットに、きれいに収まる。
ポジション柄か、ただのキャッチボールのときもボールの回転まで見ている阿部に、花井は、こいつホントに根っからの捕手なんだなぁ、なんて思った。

実際問題、花井の投げる球は、普通に投げてるだけにしては綺麗に縦に回転している。
投球指導を受けた投手の完璧さには遠く及ばないけれど。


「花井、中学んとき投球指導とか、……受けてないよな」

「受けてないけど、外野で遠投んときに投げ方教えられた」


オレ、カット無しでバックホームしたときに、球がワンバンしたら軌道変わっちまうぐらいのクセ球だったんだよ。
そう言って、ライト兼控え投手は軽く笑った。


(でも、今こんだけ綺麗に縦回転させれるんなら、花井ってストレート伸びるよなぁ)
キャッチの眼がキラーン、と光ったが、後日増えた花井の投球練習は、受けるのは控え捕手の田島なのでまた別の話だった。


「な、やっぱ、三橋の球と違う?」

「うん。三橋のまっすぐってそもそも縦回転じゃねぇし」


そう言う阿部の顔は心なしか嬉しそうで、端から見てても、あぁ、三橋の球が好きなんだな、って分かるくらいだ。

(阿部って普段無表情だけど、三橋に関してはもの凄い分かりやすいヤツだよなー)

……なんて、微笑ましく花井が思っていると、すかさず阿部からの毒舌が飛んできた。


「まあでも、三橋の球と比べるには、お前コントロール悪すぎだからな」


いやいや、三橋と比べたら、誰だってノーコンになっちゃうから。

ツッコミは、右隣で巣山とキャッチボールしていた泉と、左隣で沖とキャッチボールをしていた水谷からだった。


阿部は、やっぱり嬉しそうな顔をしていた。







(あー、三橋の球受けてーなー)






















ちなみに阿部の投げる球は、まっすぐ胸元にとんではくるけれど、ひどいクセ球だった。
いや、別になにも変化はしないが、なんというか、こう……、横回転?
真っ正面から見ると反時計回りに回転しているという、とんでもない回転の球だった。


「お、おまっ、なにこれ!?」


いったいどー投げたら、こんな回転になるんだよ!
巣山も受けてみろよ、すげーから!
……なんて、花井が両隣と騒いでいる。

阿部曰く、

「オレのポジションだと、ワンバンしないと届かないような離れたところに投げることなんてないから、回転変でもまーいいかなって思ってたんだけど」


…だそうだ。