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宇  宙  人

作・よしおか


 ある初夏の夜、俺は、車を飛ばしていた。なぜという訳はないのだが、何とはなく走らせていた。
というのではいけないだろうか。とにかく、これというわけもなく車は、何もない草原を走っていた。というわけはないだろうって。しつこいぞ。
わかったよ。話すよ。女に振られたのだよ。2年間思いつづけた女に告白してあっさりとな。友達でいましょうだって。うえ〜ん。
 夜の風が冷たく俺の涙を拭っていった。あたりには照らす明かりもなく、俺の心を察してか月さえも厚い雲に隠れていた。月明かりも星明りさえもない暗い夜道をヘッドライトも点けずに行く当てもなくただ、車を走らせていた。
 すると、頭上が急に明るくなり俺は目もくらむような明かりの中に捕らえられた。頭上を見るとテレビで見慣れたUFOが飛んでいた。その明かりは強くなり、俺は運転を誤り、道の脇の大木にぶち当たり気を失ってしまった。
 どれくらい経ったのだろう。気がつくと俺は裸でベッドの上に寝かされていた。手足を動かそうとしたが、動かす事はできなかった。なぜなら、俺の手足は、固定されていたからだ。改造ヒーロー物に良く出てくる手術台の上に俺は寝かされていたのだ。
 何とか動く頭を動かしてあたりを見回すと、まさに、あの種のドラマに出てくる改造室そっくりだった。ただ違うのは、そこで動き回っている白衣の者がすべて若い女性。それもすこぶる美人ときていることだ。
 その中の一人が俺があたりを見回しているのに気づいた。
 「気がついたようね。」
 「ここはどこだ。お前らは何者だ。」
 「わたし達は、ショッ○ー。なんてね。」
 「○ョッカー?本当にいたのか。」
 「なわけないでしょう。わたし達は、採集者。わたし達に必要なものを採集に来ただけよ。」
 「採集者?」
 俺は彼女の顔を見つめた。何処かで見たような顔なのだが、どこで?
 「どうしたの。わたしの顔。変?」
 その日に焼けた肌、大きなクリッとした瞳、長い黒髪。そして、はちきれんばかりの大きな胸。
 俺は、そのむねを見た時に思い出した。叔父さんの部屋で幼い頃見せてもらった写真集のことを・・・
 『太陽の恋人。アグネス・ラム』
 そう、彼女は80年代に一斉を風靡したモデル。アグ○ス・ラムにそっくりなのだ。
 「アグネス。」
 「あら、わたしのモデルのこと知っているの。以外だったわ。」
 よく見るとそこらにいる女性たちは全て誰かに瓜二つだった。
 「ねえ、この子気がついたわよ。」
 彼女の声に、数人の女性が集まってきた。全盛期のピンク○ディーのミーとケイ。シーナ・イー○トン。ブリジット・○ルドー。オリビア・ニュー○ン・ジョン。ジェニファー・コ○リー。夏○雅子。時代も国もばらばらだが、これだけの美女が集まるなんて、それも皆、全盛期の若さと美しさののままなのだ。
 「わたし達は怪しいものではないわ。ただ、採集をさせてもらいに来ただけ。あなたが、暗い夜道を走っていたから明かりをつけてあげたら、あなたは木にぶつかってしまったの。治療はすでにすんでいるわ。もう大丈夫よ。」
 そう、ジェニファーのそっくりさんがいった。
 確かに俺はライトも点けずに走っていた。それを、いきなり明かりを照らさなくてもいいではないか。俺は、言い知れぬ怒りを覚えた。
 「その代わり、わたし達に協力してね。」
 「協力だ。あの事故は、お前達がいきなりライトで照らしたからハンドルを切りそこなったのだろうが、誰が感謝などするか。謝って欲しいくらいだよ。」
 「でも、あの暗い夜道を明かりもなしに走るのは危ないわ。」
 「俺は死にたかったのだよ。」
 「だから、いらぬ事はいない方がいいって言ったじゃないの。」
 「でも、あのままじゃ危なかったわ。」
 「助けて、うらまれるよりはマシよ。」
 女たちは集まって何やらごちゃごちゃと話し始めた。俺を助けた事について何か話しているようだ。俺は、この中を見回した。こいつらはなにを集めているのだろう。俺は、あることを思いついた。
 「お節介とはいえ、命を助けてもらったのだから、あんた達に協力するよ。だから、これをはずしてくれ。」
 「ありがとう、協力してくれるのね。それでは、早速してもらうわ。」
 「ちょいまち。協力するから、これを外してくれよ。」
 「大丈夫。痛くしないから、すぐ済むわよ。済んだら離して上げる。」
 俺は焦った。協力する振りをしてこれを外させ、逃げるつもりだったからだ。このままでは、計画が違う。
 「おい、はずせ。すぐに外せ。」
 「すぐ済むわよ。」
 女たちは俺の声を聞いていなかった。そして、俺のあそこに酸素マスクのような物を被せた。チクッと痛みが走り、俺、いえ、僕は穏やかな気持ちになった。さっきまで、あれだけ怒りで溢れていたのが嘘のようだった。そして、この美しい女神達に感謝したいような気持ちになってきた。
 「どう、痛くなかった。」
 「大丈夫です。とてもいい気持ちです。なにをなさったのですか。」
 「古代の男から精巣サンプルを頂きに来たの。だって、わたし達の時代にはちゃんとした精巣を持つ男はいないのですもの。」
 「精巣サンプルって、ひょっとして、僕のも・・・」
 「頂いたわ。ちゃんとホルモンの補充はできるようにはしてあるけど、いままでの十分の一程度よ。それに、あなたの怒りのホルモンも頂いたわ。これはサービスね。」
 「そんな、それじゃあ、僕は男ではなくなったのですか。」
 「いえ、男よ。それとも、わたしたちみたいになる。」
 「あなたたちみたいに?」
 「ええ、わたしたちは、あなたから、数百年先の男よ。環境ホルモンや、ファッションのお陰で、男たちは女性の体形をするようになったの。見る。」
 そう言って、夏○雅子に似た女性が穿いていたスカートを捲り、パンティをあらわにした。そして、それを下げて、僕の目の前に立った。そこには柔らかな茂みがあった。それは紛れもなく女性のものだった。
 「こ、これは?」
 驚く僕を気にもせず、彼女は、股間に手を当て秘部の周りの薄い皮を捲った。皮に見えたのは肌色のテープで、その下からは立派なものが表れた。だが、そこには垂れ下がったものはなかった。
 「わたし達の時代には、精巣は体内に入ってしまって、作られる精子の数が減ってしまっているの。」
 「だから、女性の格好を・・・」
 「いえ、これはただのファッション。この時代に来るならこれくらいのおしゃれをしなくちゃね。わたし達の時代には美容技術が進んでいるからこれくらいは簡単なのよ。それに、あなたを本当の女の子にするのもね。」
 なんと言うことだ。僕は男ではなくなってしまったのだ。でも、いくら美容技術が進んだとしてもこれだけそっくりになれるとは信じられなかった。
 「あら、疑っているわね。いいわ。見せてあげる。いいこと、よく見ていてね。」
 そう言いながら、夏○雅子のそっくりさんは、コンパクトらしきものを取り出して、化粧を始めた。ものの5分も立っただろうか。そこには、僕の顔をした女性が立っていた。
 「どう、これでも信じられない。なんなら、体形も変えましょうか。外見だけなら簡単よ。」
 「いえいいです。信じました。」
 これ以上見ていたらおかしくなりそうだった。でも、こんなに簡単に別人になれるなんて。
 彼女はいつの間にか僕の顔から山○百恵に顔を変えていた。
 「命を助けたといってもあなたにはサンプル採集に協力してもらったのだから。あなたの望みをかなえてあげるわよ。」
 僕の望み。それはなんだろう。彼女に振られて死のうと思ったがそれはなぜだろう。彼女になにを求めていたのだろう。
 そんな事を考えていると、ある思いが形作られていった。
 「あの、サンプル採取はもう終わりなのですか。」
 「いえ、まだまだサンプルは欲しいわ。でも、この方法ではなかなか集まらなくて困っているの。」
 「いい方法があります。僕、協力しますよ。」
 ぼくは、ある考えを彼女?達に話した。

 数週間後、ある会員制のエステサロンが世界の主要都市でオープンした。そのエステは、従業員は全て若く美しい女性で、女性専用と男性専用のエステサロンが隣り合わせに立っていた。従業員の美貌から売春の噂も立ったがすぐに否定された。その上、このエステに通いだした男たちは、怒らなくなり、周りに優しくなった。それに、女性には特によく気がつき、優しくなった。
さて、或る機関の調べでは、男性専用に入っていく客数と、女性専用に入っていく客数に相違があるという。開店後、女性専用入った人はいないのに、出て行く客の数は多く、一方、男性専用から出てくる人はいない。そして、閉店近くになるとその逆の現象が起こる。そのうえ、女性専用に出入りする客は、若い綺麗な女性ばかりなのだ。それにこの店の常連には、精子が減少したものが多くでてきた。だが、この報告は闇へと葬られた。
 このエステは全世界にそのチェーン店を広げ、女性のファッションがファッション界を牛耳っていった。こうして、未来は確実なものとなっていった。