良い子の代償(続編)
作 かもライン
階段は、思ったより長く、深く、下がれば下がるほど暗くなってきた。
前の空間には、ほとんど視界はなく、足取りも危ない。それでも順調に降りて行けるのは、横についた手摺りのおかげだ。もしその手摺りがなければ、きっと恐る恐る降りて行くしかなかったろう。
建物するなら、何十階分降りただろうか。
ひょっとしたら恐さが見せた錯覚で、そんなに降りていないのかもしれないが。
ふと、手摺りが途切れた。
足場も階段ではなく、踊り場状になっていた。
手探りで前の空間を探すと、扉になっていた。扉を触っていくと、ノブが見つかった。
回す。
手前に開く。
中に入る。中はもっと暗く、何も見えなかった。
1歩踏み出した。
「あ!」
とたんに段差で足場を失い、中に転がった。
「いてて」
下の床は、コンクリの様だった。硬く、ざらざらして、氷の様に冷たい。
同時に後のドアが、バタンと閉まった。完全に真っ暗になった。
「くっ…。ここに、何があるっていうんだ」
真っ暗の中ヘタに動いたら、どうなるか分からない。しばらく目が慣れるのを待った。
しかし、いつまでたっても闇は闇。何も見えなかった。
「どこか光でも差し込んでくれれば…」
一応背後に、入ってきたドアがある事は分かっていたから、それ程不安はなかったが、ふと立ち上がろうとして、また足場を失った。
「うわ!またか」
ぐらっと身体が倒れた。
しかし、転びはしなかった。
転ぼうにも、地面がなかったのだ。
「え?何だ」
落下している訳ではなかった。
視界は全然なかったが、もし落下していれば、落下感や風を切る感覚がある筈。
今のこの感じは、そうとは違う。
ただ地面がなかった。
手や足をじたばた動かしても、何も手足に触れない。手ごたえがない。
ふと、髪がまくれ上がる様な感じがあった。
「まさか、無重力?」
突拍子もない思いつきだったが、他にこの状態の説明がつかなかった。
手足の力を抜いた。
もし何らかの形で浮かされたり、吊るされているのなら、どちらかに重力を感じる筈。
自然に手足が垂れる方向を感じようとした。
しかし、手足はてんでばらばら。楽な方向を向いている。
そして気のせいか、胸の奥が持ち上がっていくような感覚。
「やはり無重力か。くそっ」
再度、手足を振ってみる。
身体が縦に横に回転する。
振った腕を止めるとその反作用で回転も止まるが、その状態が先程でいうところの上を向いているのか、下を向いているのか。
「何なんだよ。これは」
志紋は全く訳が分からなかった。
今こうしている場所も、あの地下室なのか、それとも全然別の場所にいるのか。
宇宙…ではなかろう。
ここには空気があるし、星もない。
「まさか、あの世とか…」
ありえない事ではない。
あの時、転んで頭を打って、そのまま…。
「まさか。」
志紋は手で顔や身体を触る。ちゃんと自分の身体には手応えはある。
「だとしたら…」
と思いながらも、それ以上、志紋の頭に答えは出てこなかった。
ここが何処であろうと、自分の身に何が起こっていようと、志紋自身に今、何も出来なかったから。何処へも行けないし、行けたところでどこに行けばいいのかも分からない。
ここは闇。ただの闇以外の何物でもなかったから。
ふっ、と冷たい風が吹いた。
「うわ、」
志紋は身体を丸めた。
自分で自分の肩を抱いた瞬間、思わず不安感が背筋を走った。
『もし今まだ自分が生きていたとしても、このままここを脱出出来なければ、死ぬしかないのでは…』
一度感じた不安は、消える事はなかった。
それどころか、とどまる事無くエスカレートしていった。
『もしこのまま僕が死んでも、誰も気付かない。
気付く訳ない。ここには誰もいないのだから。
誰にも気付かれる事なく死ぬのか。
いやだ。
絶対にいやだ』
嫌なのは、死ぬ事に対してなのか、孤独感に対してなのか。
もはやパニックをおこした頭では、何も考えられなかった。
ただ、不安だけがドス黒く渦を巻いていた。
「いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!」
声に出して、叫んでいた。
叫んでいる声も、自分の声なのか、他人の声なのか。いや、その声すら吸い込まれる様に消えていった。
「うわああああああああああああ!!!」
耳をふさいだ。
目を閉じた。
身体を丸めた。
身体がガチガチ震えた。
「何だ?何なんだ。一体、これは何なんだ」
暴れる。
回転する身体。
しかし回転する感覚はあっても、視界は真っ暗なまま。
三半規管が悲鳴を上げていた。
とその時、視界の隅に、何かが見えた。
「………あ…」
点、というか、微かな光。
なぜ見えたのか、というより、なぜ今まで見えなかったのかという様な感じだった。
ほんの僅か、白く光っていた。
「何だ。何があるんだ?」
志紋は目をこらした。
基点があれば、自分の身体も制御しやすい。腕と足を振ったり伸ばしたりして回転を止め、その光の方向を向いた。
そこには何かがある。自分以外の何か。
それが今の、志紋にとって唯一の頼みだった。
その光を見たい。
もっと感じたい。
ほんの僅かである筈の光を、志紋は全身で感じていた。
その光を感じるだけで、志紋は安心出来た。
『何だろう、この光は。頼りなさげなのに、こんなに力強く感じる…あ!』
ふと、その光の中に映像が見えた。
それは鮮明な映像ではない。
しかし、それが何であるか、その瞬間分かった。
映像は、人間だった。
みすぼらしく痩せこけ、頭にいばらの冠をかぶせられ、十字架にはりつけになっていた。
その表情は苦悶にてそれに耐えながらも、目には慈悲の心が満ち溢れていた。
「あ……」
何度も見た事のある人だった。
いや、現実には見た事はない。
でも、それが誰であるか、すぐに分かった。
「いた…のですね。」
とたんに志紋の目に涙が溢れてきた。
「ずっとそこに。僕が気付かなかっただけで…」
そう、神はそこにいた。
自分のすぐそばにいた。
あまりにも近くにいた為、気付かなかった。
自分が目を塞ぎ、耳をとざしていたから分からなかった。
「どうして、どうして今まで気付かなかったのだろう」
思わず志紋は片膝をついて両手を組んでいた。
何もない空間なのに、その恰好をとる自分の身体は安定していた。
そして、祈りたかった。
彼に向かって祈りたかった。
しかし祈ろうとして、志紋は愕然とした。
「う、ああ!?」
祈れない。
今まで、心から祈った事がないから、このような状況になっても祈る事が出来ない。
祈る方法が分からない。
何と言って祈れば良いのか分からない。
志紋はわが身を呪った。
今まで自分は、ミッションスクールに10年以上在籍しながらも、ずっと神の存在は否定していたから、祈る方法を知らない。
祈るフリは出来た。それは形だけのモノだから。
でも今の様に、祈りたくて祈ろうとしても、言葉が出ない。
なぜなら今まで、祈りたい気持ちで祈った事はなかったから。
どうしたら、
どうしたら、
どうしたら、いいのか。
その時、
突然、志紋の頭に聖書の1文が流れ出てきた。
特に思い出そうとして思い出した訳じゃない。
その文が、特に心の中に残っていたとか、気に入っていたとかいうのでもない。
例えるなら頭の中に聖書があった。
あったといっても、その聖書は気まぐれで覚えた言葉が所々に書いてあるだけの、しかも普段はその存在すら忘れ去られているだけの単なるデーターベースのなかの一つだ。
そしてそんな聖書の、気まぐれで開いたページに書かれてあった文が浮かんだ。
意味としてはそれだけ。
しかし、その言葉を今、志紋は初めて理解出来た。
仮に語句は覚えていたとしても、それが意味するものは理解の範囲外だったものを。
マタイによる福音書、第六章6節。
『あなたは祈る時、自分の部屋に入り、戸を閉じて、隠れたところにおいでになるあなたの父に祈りなさい、すると隠れた事を見ておられるあなたの父は、報いて下さるだろう。……あなた方の父なる神は、求めない先から、あなた方に必要なものはご存知なのである。だから、あなた方はこう祈りなさい』
その先は、志紋自ら声を出していた。
「天にまします我らの父よ。願わくば御名を崇めさせたまえ。御国を来たらせたまえ」
主の祈りであった。
この内容は、毎週のミサにて全員で読み上げるものであるから、志紋も当然の様に暗記していたし暗誦もできる。しかし、それだけだった。
でも今、志紋は生まれて初めて、神を目の前にして素直になっていた。魂を込めて祈っていた。一字一句を噛み締めながら、暗誦していた。
報いが欲しい訳じゃない。
ただ、祈りたいから祈っていた。
神にすがりつきたくてしているんじゃない。
ただ、神がそこにいる。それが嬉しくて祈っているのだ。
「御心の天になるごとく、地にもならせたまえ。
我らの日用の糧を今日も与えたまえ。
我らに罪を犯す者を我らが赦すごとく、我らの罪をも赦したまえ。
我らを試みにあわせず、悪より救い出したまえ。
国と力と栄えとは、限りなく汝のものなればなり。
アーメン」
志紋は十字を切った。
この思いは、神に伝わるだろうか。
いや、伝わらなくてもいい。伝えたいから伝えたのだ。
自分は神を信じている。
今まで信じなかった神を信じている。
それだけで充分だった。
ふと、意識が何かを突き抜けた。
言葉ではない。理屈でもない。
閃くに近い感覚で、志紋は分かってしまった。
そうか。そうだったのか。
神を信じるという事は、そういう事だったのか。
信仰とは、祈りとは、そういう意味だったのか。
それはある意味、精霊が宿った瞬間かもしれない。
志紋にとっての長年の疑問。
『神はいるのか、いないのか』
いるのなら、その証明が必要だが、未だ神がいる事の充分な証拠を志紋は見た事がなかった。だから、本当に神がいたとしても、それは志紋にとって、いないのと同じだった。
しかし、人は神を信じる。
特にこの学校の関係者は、殆どが敬虔なクリスチャンだから、誰も神を信じて疑わない。
仏教ならまだ分かる。
仏教にとっての仏は、ある意味、信仰の対象ではなく、到達点だから。
今は未熟であろうと、仏のように考え、仏のように振舞う事で、少しでも仏に近づきたいと考える。
仏に近付く為、形をまね、行動をまね、考え方もまねる。
経をあげ、禅を組み、日々修行する。
だがキリスト教の場合、ただひたすら神を信仰し、悔い改め、神の教えを守って生活する。
神の言葉を信じ、教えを信じ、その存在を信じる。
信じる以上、そこに神の存在は絶対だ。必要不可欠になっている。
しかしその神は実際に、いるのかいないのか分からない。
そんな馬鹿な話はなかった。
それが志紋には理解不能だった。
いるのかいないのか分からない神を、どうして信じる事ができるのか。
どうして身も心もゆだねる事が出来るのか。
その疑問が、一瞬のうちに氷解した。
なぜか突然分かってしまった。
では、なぜ神がいなければならないのだろうか。
では、なぜ神じゃないといけないのだろうか。
信仰は必要かもしれない。でも、そこに神は必要だろうか。
逆に、いなくてもいいんじゃないのだろうか。
なぜなら、今の今ですら、志紋にとって絶対神の存在は分からない。
でも今、神に対して祈る自分は、間違いのない本物だ。
そうする自分が本物なのなら、それ以外に何が必要だろうか。
志紋は、そう感じた。
しかしこの考えも、神を信じる他の人にしてみたら、また違うと言われるのだろう。
それはそれでいい。問題は志紋自身がどう考えるか、どう感じるか。それだけだった。
だが、そう思った次の瞬間、志紋は突然起きた暴風に襲われていた。
「うわ!か・風?」
風は、その光の方向から向かってきた。
志紋はその風を受け、おもいっきり吹き飛ばされていた。
いや、吹き飛ばされているのか、ただぐるぐる回されているのか、相対的なものがないから分からない。ただ、志紋はなすすべもなく、ただ風に翻弄されるだけだった。
「な、何なんだ…」
さらに、突然今度は全身が悲鳴をあげた。
骨がきしんだ。
筋肉が絞られた。
腹の中が裏返しになるがごとく、掻き回されていた。
「うぐぅ、がっ、ぐぁっ!」
吐き気をもよおした。
吐こうとした。
吐けば少しは楽になるかと思った。
だが吐けなかった。
吐こうとしても、胃の中に何もないような感覚だった。
ひたすら苦しかった。
「何…なんだ…何が…うわ…」
全身の骨がきしんだ。
ばらばらになりそうな感じだった。
骨の一つ一つを握り潰される様な、表面からぶちぶち弾けて磨り減っていく様な。
激痛が全身を襲っていた。
「し…し…死…」
『死ぬのか?』志紋は思った。
『死にたくない』志紋は思った。
なぜなら、やっと神に祈る事が出来る様になったんじゃないか。
やっと、神を感じる事が出来る様になったんじゃないか。
それなのに。
それなのに…。
『罰?』
ふと一瞬、閃いた言葉。
『これは罰なのか?』
人知を超えた現象と、その体験。
『これは天罰なのか。だったらなぜ?』
今まで神を信じなかった事に対する罰なのか。
それとも祈る事は出来ても、未だ神の存在を疑問と感じている事に対しての罰なのか。
『死にたくない。死にたくない。い、いや、いっその事…』
殺してくれ、と志紋は思った。
気絶出来れば楽だっただろう。
しかし、最初のショックに耐えてしまった分、それ以降のひたすらの痛み、ひたすらの苦しさは、神経を削って鋭くはさせても、意識を奪ってはくれなかった。
腕が、足が、全身の筋肉の腱の1本1本が、ぶちぶち切れていく様に、またその細胞の1つ1つが焼けていく様に、ひたすら痛かった。ひたすら熱かった。外部から炙られるのではなく、むしろ中から燃えていく様に。
もはや声も出なかった。ただ、のた打ち回っていた。
しかし不思議な事に、それだけの地獄にありながら、苦しみにあえぎながらも、1歩離れて冷静に見ている自分がいた。
極限の苦しい状況において、苦しむ自分とは別の所に自分を置く、1種精神の逃避行動だったのかもしれない。
自分自身を外から心配する事によって作ったゆとりが、唯一志紋の精神を正常な状態でバランスを保っていた。
永遠とも思うような時間が過ぎた。
これで、なぜ死ねないのかというぐらい、責め苦は続いた。
しかし、この苦しみもいずれ終わるだろう。それが自分の死によって終わるとしても。
風切りの轟音は絶え間がなく、耳の感覚を麻痺させた。
五感は鋭くなっているのに、いつしか意識はぼやけていた。
!
突然、音が止まった。
頭の中が空っぽになった。
無音という耳鳴りが、脳に響いた。
その中で、ポタっという音が聞こえた。
僅かだったが、空耳ではなかった。
また、ポタっと音がした。
『え?』
志紋は腕を動かした。
関節がガチガチに固まっていて、ギギっと音が鳴る様だったが、それは逆に志紋を先程まで襲っていた全身の激痛から開放されている事を気付かせた。
腕を振った。
手の先が固いものに当った。
触ってみる。
ざらざらして冷たい。
叩く。手のひらを押し付けてみる。
それは、まさにコンクリートの平面だった。
同時に今、自分の身体が重力下の、そのコンクリの床に倒れている事も自覚した。
床に腕をあて、身体を起こした。
ひどく身体が重く、力が入らない。
深呼吸した。冷たい空気が肺を満たした。
「は…生きてる」
息をして、改めて自分が生きている事も実感した。
今まで何が起っていたのか分からないが、今こうして現実の世界にいると、全てが夢か幻だった様な気もする。
目を凝らすと、ここが真の闇でないことも分かった。
僅かに漏れてくる光が、その地下室の状況を教えてくれた。
積み重ねられた椅子や机、古そうな棚、使っていない小物などが乱雑に置かれている。
そしてその向こうに、壁にかけられた古いレリーフ。十字架に架けられたイエズス様の像があった。
その表情が、幻の中のイエズスと重なって見えた。
「どこまで幻だったんだ?」
志紋は思わず頭に手をやった。
とたんに何か、ヌルヌルしたモノがベットリと手にまとわりついた。
「わわっ!」
思わず頭から手を離した。
髪の毛がごっそり抜け、顔に手にまとわりついた。
「な、何が」
その時改めて、志紋は全身が妙に気持ち悪い理由が分かった。
そのヌルヌルが、ラードかゼリーかタールのような物が、全身、服や靴の中までまとわりついていたのだ。
さっき、ポタっと聞こえていた音も、このヌルヌルが志紋の身体から落ちた時の音だったのだろうか。
そして、その腕や首を触った時の違和感。
筋肉がごっそり落ち、ひとまわり細く。
また、まとわりついた制服がべっとりと身体にまとわりついているが、それでも分かる。
制服がひとまわり大きくなった様な。
もしくは身体がひとまわり小さくなっている様な、感じがした。
「うわ、な、何だ。何なんだ…」
とたんに志紋の身体に不安感が走った。
股間が、ぎゅぎゅうっっと縮こまる感じがした。
不安感が襲った時、よくこういう感じになるが、今回は特にひどかった。
まるで身体の奥の奥まで縮んでしまった様だった。
思わず、その股間に手をやる。
「え?え?何で?」
ズボンの中に手をやったが、そこに期待した感触はなかった。
その代りに、股間にそって溝が縦に走っていた。
中指がその溝の奥にもぐりこんだ。
「い、痛い!」
裂ける様な、全身が硬直する様な、今まで味わった事のないような痛みと、中指から伝わる信じられない感触が、志紋を一気に爆発させた。
「うわあああああああああああああああああっ!!」
志紋はもう、完全にパニックを起こしていた。
何がどうなっているのか、全く訳が分からなかった。
何もかも、耐えられなかった。
振り返る。最初に入ってきた時の扉が、数段の階段の上にあるのが見えた。
その先には。
志紋は反射的にその扉を開け、長い階段の向こう、光のある方向へ走っていた。
走ろうとして転び、転んで這いながらも階段を上っていった。
志紋にはもう、今の状況を受け止める事が出来なかった。
何もかも、訳が分からなかった。
そして、そういう状況下において一人でいるのは耐えられなかった。
その階段の向こう、扉の向こうには、信頼すべき者がいる。
汗に、自ら流したタールの様なヌルヌルに、自らの足をとられ転びながらも、志紋は上を目指した。
何度も転び、這いずって、やっと扉のノブに手が届いた。
回す。
全身で、ドアにもたれかかる。
開く。
まばゆい光が広がった。
その光が志紋を包んだ。
そしてその先に目指していた人、シスター・アンナがいた。
「志紋くん!」
志紋の張り詰めた緊張が、切れた。
「シ、シスター…」
志紋はシスター・アンナに倒れかかる様に身を投げ出した。
シスター・アンナも、力強く志紋を受け止めて支えた。
志紋の身体から出た真っ黒なタールが、シスターアンナの青い修道着を汚したが、アンナ自身はそれを全く気にもしていなかった。
また志紋自身完全には分かってはいない身体の変化を、アンナは外観から既に確認してしまっていた。
故に、志紋の不安な気持ちも分かった。
ぎゅっと抱きしめるその腕にも、志紋がガタガタ震えているのを感じた。だから抱きしめるアンナの腕にも、自然に力が入った。
「シスター・アンナ」
背後からシスター・マイラが声をかけた。
「はい」
「志紋くんの身体を洗ってあげなさい」
「はい。でも…」
アンナは少し言葉を詰まらせた。この近くにシャワーやバスルームはない。
「修道院へ連れていきなさい。私が許可します」
「はい。分かりました」
アンナやマイラが寝泊りしている修道院は、学院の敷地内の一角にある。ただし、そこは修道院としての性格上、外部の者・特に男性の出入りは厳しく禁止されている。
仕入れの業者や工事などの関係者など、出入りする場合は必ず修院長の許可が必要であった。
ただしマイラは修練長であったから、それに準ずる責任と権限があると考えて良い。
アンナは志紋に肩を貸すようにして支えた。
「大丈夫?歩ける?」
「はい…」
志紋は蚊の鳴くような声で、何とか答えた。
☆
敷地の外周近くを通って、アンナは志紋を修道院まで連れていった。
途中すれ違う修道女達は、どろどろに汚れた志紋を見ても顔色一つ変えず、ただ十字を切って志紋に向い手を組んだ。
修道院の玄関を入った。
「あ…」
志紋が靴を脱ぐと、ベトベトと身体から出たタールが廊下を汚す事に気付いた。
「気にしないで、後で掃除すれば済む事ですから」
そうアンナに言われ足を踏む出すが、それでも極力タールで汚さないように歩いた。
木の扉を開け、2人は脱衣場に入った。
「脱げる?手伝うわ」
「あ、だ、大丈夫です!」
志紋はそう言いながら、必死でブレザーのボタンを外そうとするが、指がもつれて上手く外せない。
アンナは何も言わず、その指を志紋の指に絡めるようにして、ボタンを外していった。
ブレザーの上着の袖を抜き、ネクタイを外し、カッターシャツを脱がせた。
「あ…」
茶色いタールに汚れたランニングシャツごしにも、志紋の胸がわずかに盛り上がっているのが分かった。
「あ、こっちは」
アンナはズボンのベルトを外そうとして、志紋に手を弾かれた。
「自分で出来る?」
「はい」
志紋は震える手で、何とか自分でそれを外そうとした。アンナには少しまどろっこしいが、志紋がそうしたいのならと、好きにさせた。
かわりにアンナは自分の服を脱ぎ始めた。
「え?シスター、な、何を」
健全なる青少年としては、ごくあたり前の反応だっただろう。いくら修道女とはいえ、まだ20代半ばのうら若き女性。しかも修道女には美人がいないという常識を(失礼!)覆すかの様に、この学校には美しい修道女が多く、アンナもその例に漏れなかった。
「私も身体汚れちゃったから、一緒に入るわ。ついでに身体洗ってあげるから」
「ま、待って下さい。そんな、シスターは女性で…」
「ストップ!」
アンナは志紋の言葉を中断させた。
「分かっているのでしょう」
「え?」
アンナは志紋をキッと睨んだ。
普段、優しい顔しか見せない為か、こういう時の表情には、志紋をも凍りつかせる様な迫力があった。
「志紋くんの身体が今、どうなっているか、自分でも気付いているのでしょう」
「あ…で、でも」
「じゃあ今、その服を全て脱いでみなさい」
志紋は何か言おうとしたが、何も言えなかった。
その目で、今までの事の全てを、地下室で何があったかまで、それらをシスター・アンナには見透かされている様だったから。
志紋はズボンとランニングシャツを脱ぎ、その後、少しためらいながらもトランクスを脱いだ。
目をそらそうとしていても、トランクスを下ろした瞬間、つい志紋は自分の股間を目で確認してしまった。
そこには地下室で気付いた時と同様、男の物は残っていなかった。
「偉いわね。怖かったでしょうに」
それをしっかりと確認した後、アンナは先程とは打って変わって優しい口調で志紋を慰め、また汚れた修道服を手早く脱いだ。
修道服を着ている時からは想像もつかない様な、見事なプロポーションが現れた。
「あ…綺麗…だ」
志紋は自分の身体の事を一瞬忘れ、その姿に見とれてしまった。
「来なさい。洗ってあげる」
アンナは志紋の身体を抱き寄せ、肩を支えるようにして歩かせた。
ほんの数歩で洗い場に着いた。
アンナはシャワーのコックをひねり、しばらく温度が上がるのを待ち、適温になったのを自分の手首にあてて確かめ、身体を支えたまま志紋に、頭からシャワーをあてた。
志紋は、頭にへばりついていた茶色いタールと、大量の髪の毛が流れていくのを感じた。
ひと通り流れた後、志紋は思わずその頭に手をあててみた。
長かった髪はきれいになくなり、僅かに短い髪だけが残っているのが分かった。
その残った髪も、元々の自分の髪じゃない。
細く、とても柔らかい髪だった。
「ほら、見て御覧なさい」
シスター・アンナは、入ってきた脱衣場との境のガラスのサッシを指差した。
そのガラスは、脱衣場が暗い為マジックミラー効果をだし、2人の姿をきれいに映し出していた。
修道着ではない見事なプロポーションのアンナと、その横に見慣れない少女。
少女は明らかに自分自身、変わってしまった自分の姿だと志紋は実感した。
身体に対する変な違和感も、その姿を見てしまえば、納得出来るものもあった。
例えば男時代でも、さほど高い方ではなかった身長だったが、それでも今ほど低くはなかった筈だ。
今や、シスター・アンナと比べても、頭半分くらい小さい。
身体も、まだシスター・アンナの様に成熟こそしていないが、それでも15歳相応の女の子としては、ごく普通の体格。腕も首もウエストも、全てごっそりと筋肉が落ちてすっきりし、わずかに胸が膨らんでいた。尻と太ももにも、やや肉がついていた。
顔のつくりだけは以前の印象を残してはいる。
それでも以前と比べて、ごつごつした感じが削られ、線が細くなっていた。
耳を隠す程長かった髪はすっかり抜け落ち、5分刈りにでもした様に、申し分程度にしか残っていない。
それでも、そんな髪でも、顔を見て、あきらかに女性としての顔になっていた。
睨んでみる。
鏡の中の少女が睨み返す。
無理して笑ってみる。
鏡の中の少女が微笑み返す。
その顔を見て、ドキっとする。
自分ではかなり無理して笑ったつもりだったのに、鏡の中の少女は、ごく自然に。それでいて凄く魅力的に笑ったから。
「これが…」
志紋は鏡状になったサッシに両手をついた。
「これが今のボクなんだ…」
鏡の中の少女が、泣きそうな顔をする。
その少女に、アンナは後ろから肩を抱いた。
「元気出して。そんな顔していたら、私も悲しくなるわ」
志紋はぐっと振り返った。
「そんな気休めみたいな事、言わないで下さい。ボクは、ボクは、こんな姿になって、これからどうしたらいいのか…」
「分るわ。私だって覚えがあるもの。でも…」
アンナは一旦言葉をつまらせた。
「でもその姿は、あなた自身が望んだ形でしょう」
「え?」
思わず志紋は、言葉を失った。
「そんな、望んでなんかいません。ボクは、ボクはただ…」
「じゃあ、あなたは、何を望んだの?」
「な、何をって?」
志紋は再度、言葉をつまらせた。
「あの部屋で、神にむかって、何を望んだの?」
「……」
「あの暗闇の中で見えた、一筋のな光に対してあなたは、何の偽りもなく素直な気持ちになれたんじゃないの?」
「それは…」
志紋は思わず考え込んだ。
自分は、一体何を望んだのだろうか。
何を祈ったのだろうか。
あの時はただ、祈りたくて祈った。しかし、何を祈りたかったのだろうか。
何を神に対して言いたかったのだろうか。何を伝えたかったのだろうか。
「ボクは…ボクは…」
あの時祈ったのは『主の祈り』。
父なる神は、求めない先から、あなた方に必要なものはご存知なのである、と聖書にあった。
しかし…。
しかし、そうだとしたなら、今のこの姿は。
自分自身、気付いていなかった、求めてもいなかったけれど、本当に必要なものとして、神が与えてくれたものなのだろうか。
確かに女になれば、女子高である高等科に進む事は出来る。
でも、それだけの為に…
「あ…」
志紋はふと気が遠くなった。
頭のブレーカーが落ち、主電源が切れてしまった様だった。
☆
志紋の気が付いたのは、ばさっと降ろされた時。
目に映ったのは見知らぬ部屋。
自分がいるのは、少し固いベッド。
そして自分の姿は、裸にバスタオルを巻いただけの格好。
「あら、気が付いた?」
すぐ横に、既に洗い替えの青い修道服を着た、シスター・アンナがいた。
「シスター・アンナ、ここは?」
自分が今いるベッド以外は、木で出来た机と衣装収納庫と書棚があるだけの落ち着いた部屋。
調度品らしいものも、壁にかかったマリア様の絵以外にはない。
「ここは私の部屋。あなたは、ちょっとのぼせたみたいね。でも風邪ひいたらいけないから毛布はかけておきますよ」
そうアンナは言い、清潔なシーツに包まれた布団と毛布を志紋の身体にかけた。
「あ、でもボクは…」
起き上がろうとする志紋を、アンナは押さえつける様にして寝かせ、
「無理しないで。あなたは休まないと。今日は、色んな事がありすぎたから…」
「はい。でも…」
志紋はシスター・アンナを見上げた。アンナはどこかに出掛ける準備をしていた。
「どうしたの?」
アンナは振り返って志紋を見た。志紋は上半身を起き上がらせていた。
「あの…ボク、ふと思ったんです。なぜボクはこの身体になったのか。なぜこの身体を神は与えてくれたのだろうかって」
「どう思ったの?」
アンナは机の前の椅子に座った。
志紋がもし、自分の身体の事を現実として受け入れたのだとしたら、それは何より良い傾向だと思ったから。
「女の身体になって高校へ進学出来ても、所詮3年卒業が延びただけ。その後大学へ行ってもトータルで7年。単なる問題の先送りでしかありません」
「そうね…」
それはアンナにも分かっている事だった。
「たかだか7年間の先送りの為の奇跡なのだとしたなら、それは奇跡なんかじゃない。奇跡はそんなに安っぽいものじゃないんだ、って」
「それで?」
アンナは志紋の顔を見た。
男の時と変わらぬ、真正面から物事に向き合う、真剣な目だった。
「思ったんです。あの…」
志紋は言葉を詰まらせていたが、意を決して顔を上げた。
「あの、ボク…修道女になれませんか?」
「シスターに?」
アンナは一応驚いてみせた。しかし、その状況下においては、充分予測し得る結論の一つだった。
「ボクがこの学校から離れたくない、ここの人達と一緒にいたいという気持ちは、今後何年たっても変わらないと思います。
それにここで今まで会ったシスター達は、ボクの人生においての指針そのものの様な気がします。
今までなら、そんな事考えもしなかったけど、
でもボク自身が女になった今、はっきり分かったような気がします。
ボク、修道女になれませんか」
アンナは大きくうなづいた。
「出来ると思うわ。あなたの決意が固いなら」
元々志紋は、修道士に憧れていたのではなかった。
修道士になれる程、神に対して信仰などなかったし、この学院と関係ないところで修道士になったところで意味はなかった。
神父になるなら、それもまた一つの可能性はあったが、それは修道士以上に現実味がなかった。そうまでしても、ここに配属されるとは限らない。明らかな選択外だった。
「それで、シスター・アンナにお願いがあります」
「どうしたの?あらたまって」
志紋は、ぐっとアンナを見つめて言った。
「恥ずかしながら、ボクは未だ洗礼を受けていません。今までそんな気も起きなかったから。
でも洗礼を受けるにあたって、シスター・アンナに、ボクの代母になってほしいんです」
「私に?」
この申し出はアンナにとっても予想外だった。
代母とは洗礼の立会人。男だったら代父という。
神父がその役を引き受ける場合も多いが、特にそうしなければいけない訳でもない。
代母・代父になるという事は今後の、洗礼を受けた者の、一生に渡っての信仰の相談役になるという事でもあった。
「でも、いいの?私なんかが代母になって。私なんか修道女と言っても未だ」
アンナはそう言って自分の修道服を見る。鮮やかな青。有期誓願期の修道女が着る修道服の色だ。その時期を越え、終生誓願を立てた修道女は濃紺の修道服を着る。そうなって初めて一人前の修道女だと言えよう。
「いいんです。ボクがもし修道女になれるのなら、その喜びも苦しみも、分かち合えると思う。いえ、シスター・アンナと分かち合いたいんです」
「あ…」
アンナは思わず志紋から顔をそむけた。そして十字を切り、祈り始めた。
「シスター…」
やがてアンナは立ち上がり、志紋に背をむけた。
「分かりました。その事を修練長に相談してみます」
「あ、シスター・アンナ」
立ち去ろうとするアンナの背中に、志紋は声をかけた。
「すみません。我儘ばっかり言ったりして」
「いいの。それは我儘じゃないわ」
そう言い、アンナは部屋を出た。
出てすぐアンナはドアを閉め、崩れるように座り込んだ。そしてそのまま、両手で顔を覆って声を殺して泣き出した。
『私を…こんな私を…なのに私は…』
☆
コンコン。
部屋がノックされた。
「はい。誰だい?」
修練長、シスター・マイラの低い声が中から聞こえた。
「失礼します」
シスター・アンナは、軽く一礼して入ってきた。
「何だい?」
「あの…」
アンナは中に入るだけ入ったが、ただ入り口に立ちすくんでいた。
「そんな所につっ立ってないで、中に入ってきなさい」
そう言われアンナはマイラの前にたった。目と目の回りが赤くなっていた。
「やはり志紋がらみかい?」
「はい」
消えてしまいそうな小さな声で、アンナは言った。
「志紋くんは、修道女になれるものならなりたいと。その上で、洗礼を受けるにあたって、私に代母になって欲しいって」
「なればいいじゃない」
「でも私は…」
アンナは自分の青い修道服を再度見た。
「私はまだ有期誓願期で、修道女としてもまだ一人前ではありません。ましてや、他人の信仰の指導者として導いていける程…」
アンナは言葉を詰まらせた。
そんなアンナの動作の一部始終をマイラは暖かい目で見ていた。
「そうだね、もう何年になるかね?」
「え?」
アンナは顔を上げて、マイラを見た。
「お前も私に言いに来たでしょう。修道女になりたいけどどうしたらなれるのでしょうかって」
「でも…」
「私は今でも覚えているよ。ちょうど時期として志紋君と同じ歳だったかね」
「はい…」
アンナは目を閉じた。その頃の事を思い出しているのだろう。
「条件はあの時と同じさ。私はあの時のお前の気持ちに応えるべく、お前の代母になった。以後お前には色々と相談にも乗ってきたつもりだがね」
「そうです。私も…」
「それならもう、志紋君の今の気持ちに対してどう応えるのか、分かる筈だね」
「はい。でも…」
アンナは再度、下を向いた。
その表情は、あくまでも暗いままだった。
マイラは大きく、ため息をついた。
「終生宣誓…するかい?」
「え?」
アンナは思わず顔を上げた。
「実はとっくに許可はおりているんだよ。でもお前はまだ迷っている様だったからね。
信仰の扉のノブは常にこちらにしか無いんだ。扉を開いて、主を招き入れるかどうかは、自分で決めないといけない。
どうするね」
アンナは突然の申し出に、戸惑った。申し出は確かに自分が今、欲しているものだ。
しかし、だからこそ戸惑っていた。自分に本当にその資格があるのかどうか。
決断しなければならない。
チャンスがあるのなら、今。
それをのがせば一生後悔する事になる。
自分だけではない。
救いを求めてきた、志紋をも。
「します。いえ、終生宣誓をさせて下さい」
「迷いはないのかい?」
少し意地悪っぽい声でマイラは尋ねた。
「正直言えばまだ迷いはあります。でももう迷っている場合じゃないんです。
私が迷っていたら、志紋くんまで迷わせてしまいます。だから…」
「そうかい…」
マイラは立ちあがり、アンナを手招きした。
アンナは素直に近付きマイラのすぐ目の前に立った。次の瞬間、アンナはマイラの両腕に抱きしめられていた。
「早いもんだね。あの時の小さかった子が、もう一人前のシスターになるなんて」
「はい」
アンナはその顔を、マイラの修道服に押し付け、泣いていた。
「一人前になったらもう、こうやって抱いてやれないけど、その分志紋くんを抱いてやりなさい。」
「はい。マイラさま」
アンナはその最後になるかもしれない抱擁を、名残惜しそうに受けていた。
そしてマイラもそれが分っていたから、ただずっと、アンナの気が済むまで、抱きしめていた。
☆
数日後。
聖堂にて、誓願のミサがとり行われた。
その中で、司祭高島神父のすぐ前に、濃紺の修道服を着たシスターアグネス・アンナ佐倉がひざまずいていた。
「列席の皆様の前にて、学院長マリア・イレーネ曽根崎の手のうちに、終生の貞潔、清貧、従順の誓願を宣立いたします。
私が忠実であるよう、神が恵みをもって助けてくださいますように。アーメン」
シスター・アンナはそう宣言し終えると、思わず自分の左手薬指にある銀の指輪を手で確かめた。
その指輪こそ、終生誓願・神のもとに嫁いだ証でもあった。
その言葉を受け、高島神父も祝福と聖別の祈りを捧げた後、
「シスターアグネス・アンナ佐倉、あなたは今から、いつまでも聖ガラテア女子修道会の一員となり、これから私たちと運命を共にしていきます」
と宣言され、アンナは参列した人たちの拍手を浴びた。
シスター・アンナはその拍手に、思わず振り返った。
その参列者の中にはアンナの代母でもある修練長・シスター・マイラや、他の修道女・生徒達に混じって、志願期の真っ白な修道服を身につけたシスターペトロ・セシリア志紋がいた。
洗礼名であるペトロは男性名だが、女性の聖人が少ない中では別に珍しい事ではない。
その代わり修道名は、殉教者セシリアから名前を貰った為、普段はシスター・セシリアと呼ばれ、今後昼間は高校にて、放課後以降は修道院にて生活する事になる。
やがて高校時代のうちに志願期・修練期を経て、卒業後には初回誓願をするのだろうけど、それは別の話。
聖堂の中では、終生誓願をしたシスター・アンナを称え、聖歌の合唱が響いた。
「「「「父ぃ・御子ぉ・御霊のおお御神にぃ、常盤に絶えせずぅ御ぃ栄えあぁれ〜」」」
彼女達のもとに、神の御心がありますように。
アーメン。
《終わり》
あとがき
思ったより長引いてしまいました。
前作分が実験作であった分の、私なりの正回答といったところでしょうか。
文章的には短くするつもりでしたが、心情的なシーンでノリにノリまくって、本編と同じ長さになってしまいました。やはり私に短編は向いてないのだと思います。
さて、一部読者には残念ですが、当初浴室にて志紋とアンナでレズらせようかと思っていました。でも貞潔・清貧・従順をモットーとする修道女にそういう事させるのもどうかと。
一応、「修道女は異性との性交は堅く禁じられていますが、それはあくまで異性同士での話で・・・」というセリフも用意してたのだけど。(残念?ねぇ残念?)
※カソリックにおいては、同性愛と獣姦と自慰は、異性との性交以上の罪です。念の為。
さて、勘違いしている人もいるかもしれませんが(いないかな)
この物語は、キリスト教の素晴らしさを皆に伝えようとして書いたものではありませんし、私もクリスチャンではありません。
またミッション・スクールに通っていたという過去もありませんので、私自身キリスト教関係には、さほど詳しいという訳ではなく、用語やその行動等に間違いがあるかもしれません。
あまり、信用しないように。
(ちなみに、知ってて、あえて間違えたまま書いている所もあります。それはどこでしょう)
さて、この物語は終わりです。もう続きません。
と言うか続けたら、本当にキリスト教の素晴らしさを説く物語になり、それは今の私の力量ではちょっと…。
むしろ志紋くんの6年生の時の事件あたりなら…などと思いながら、でもそれはこのサイトの趣旨から完全に外れますよね。
とりあえず、こんな物語でも貴方が楽しんでくれるなら、何よりです。