アマチュア無線事情

アパマンハム用アンテナapa4 アパマンハム用アンテナapa4

アマチュア無線といえば、かつては「キングオブホビー」と言われたほど高尚(?)な趣味と言われたものだが、インターネットの爆発的な普及に反比例して無線人口は減少の一途をたどっている。アマチュア無線全盛の頃は、自立式のタワー型アンテナや屋根馬といって、屋根の頂上に四脚のマウントを設置したタイプのアンテナがあちこち見受けられたものだ。

しかし、ここ最近はそのようなアンテナを見かけることは本当に少なくなった。タワー型のアンテナは撤去するのでさえ高くつくため、先端のアンテナだけを取り外して、タワーはそのままというのもある。筆者がよく車で通るとある国道沿いの民家では、クランクタワーと呼ばれる格納式の伸縮アンテナが、先端のアンテナが取り外されて一番下まで下ろされたままぽつねんと立っている。無線家にとってはクランクタワーは羨望の的であり、アマチュアのステータスでもあった。それが使われもせず、鯉のぼりの物干しのように地面から屹立している姿はなんとも哀れさをそそる。

さて、このように斜陽のアマチュア無線であるが、筆者も一時猛烈にのめり込んだ時期があった。中学、高校、大学ととりあえず無線をかじった時期はあったものの、電話ごっこはすぐに飽きが来てあっけなく終わってしまい、就職してから無線とは縁遠くなってしまっていた。
ところが、中年を過ぎてどう血迷ったかオートバイの免許を取得し、どうとち狂ったかキャンプツーリングに出かけるようになり、道中の道案内とキャンプ場での暇つぶしのため無線をやってみようかということになったのである。

何事も熱しやすく冷めやすい典型的なお調子モンの性格のため、第4級アマチュア無線技士(略称4アマ、昔でいうところの電話級)から3アマ(同電信級)、そして平成7年には一気に第2級アマチュア無線技士まで取得してしまった。さすがに1アマは和文のモールス(Contiuous Wave、略してCWと言う)の試験があったため(今は和文はなくなったと聞くが)断念したが…

2アマを取ったのは、無線機の出力を最大100Wまで出せるという魅力もあるが、CWの魅力にとりつかれたということが大きな要因である。CWはご存知のとおり長点と短点の音波が複合したモールス符号による意思伝達方法である。文字や音声によるそれと比べると、自己の意思を伝えるのも相手の言わんとするところを解読するのも時間がかかるなんとも面倒な手段である。しかし、この単純な交信方法がけっこう面白いのである。いや、病みつきになるといっても過言ではない。

あいうえおの和文が使えないため英語の略号による交信になるが、たいていのCWの交信はコールサインと住所、信号強度、天候などの情報を交換して終わりという単純なパターンが多い。しかし国外のアマチュアとの交信となると、乏しい英語力を駆使して、必至になって単語を羅列し会話を試みる。これが面白いのである。かつてロスの大学の教授をしているという男性とつながって、長々と「お話」をしたことがあった。声に出せばあっという間に伝わる意思も、モールス符号だともどかしく時間もかかるが、そこに何か奥の深いアマチュア無線の意義というものがある。

CWを運用している方は周知のことだが、決まり切った単語や表現は略号を使うことで、時簡短縮を図ることが多い。たとえばyouならuだけ、for youなら4u、thank youならtnxという具合である。これは枚挙にいとまがないほどたくさんある。お決まりのお別れのメッセージは、cu agn(See you again.)である。

10年ほど前になるが、高槻市在住の耳鼻科のドクターと無線、それもCWで昵懇となり、スケジュールスキッドと称して、21メガや1.9メガでよくCWで英会話をしたものだ。英訳、和訳の辞書を手元に置いて、左手でパドル(モールスのキー)を叩き、右手で相手の「発言」を紙に記していく。紙に残さず空で読解するのが本来のCWerだが、そこまで熟達していないのが悲しいところである。
このドクターは筆者と同様アパマンハム(アパート、マンション住まいのアマチュア無線家)であり、この方からベランダアンテナに使うための9mという長尺の釣り竿をいただいた。普通の釣り竿は長くても5.4mである。これがなんと9mの釣り竿だから驚きである。しかしこの9mの釣り竿は実用ではなく、アマチュア無線用の特製品とあとで聞いた。

今はほとんどの釣り竿がカーボンロッドだが、導電性のためカーボンは無線のアンテナには適さない。したがって無線用のアンテナとして使うのはグラスファイバー製である。しかしこれは重い。この9mのグラスファイバー製釣り竿をベランダから振り出した状態を考えてみてほしい。竿の先端ははるかかなた、夜だと先が見えないのである。確かにアンテナの長さは長い方が伝搬には有利ではあるが、9mもの釣り竿を常時ベランダから出しておく訳にはいかない。運用の時だけワイヤーをぐるぐる巻いて、9mの竿を伸ばすのである。

CWを中心とした無線生活は4,5年は続いただろうか。インターネットがどんどん進歩するにつれ、パソコン、メール、ホームページといった方面に興味が移り、次第に無線機の前に座る時間が少なくなった。そのうち5年ごとの免許の更新が面倒になり、結局免許状が失効してしまった。こういうわけで世間の多くのアマチュアと同様、私の無線生活も休眠状態となった次第である。

ここで画面の写真を解説しておかなければならない。
これは和歌山にあるミニマルチ社というアンテナ専門会社のベランダ専用アンテナである。アパマンハム御用達のためAPA4と呼ばれる。7メガ、10メガ、14メガ、21メガ帯域で運用でき、長さ5m程度ながら電波の飛びも受けも好評である。

ご覧のようにベランダの手すりにUボルトでベランダに直角に固定する。ボルトが緩んで下の階に垂れ下がらないよう先端に紐をくくりつけ、雨樋に縛ってある。
それでも風が吹くと大きく揺れるし、雷が発生するとこのアンテナに落ちないものかと冷や冷やしたものだ。
ベランダの手すりにこのようなアンテナを固定するのは、本来管理規約に反することなのだろうが、そこは目をつぶっていただいていたと感謝している。

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