岡田 淳


もう好き好き好きっ!
というくらい岡田氏の作品が好きです。
何せ私の母校である高校の図書館には児童書であるにもかかわらず「扉の向こうの物語」があります。
当時図書委員だった私がお奨め図書に指定したため入荷されていました。

岡田氏は実は小学校の図工(専任?)の教師。
だもんで挿し絵はほとんど氏が自分で描いています。
「雨宿りはすべり台の下で」「二分間の冒険」のみ別の方の挿し絵。
氏のイラストでも見たかった(特に「二分間の冒険」のほう)。
ちなみに私は見たことがないのですが洋書の翻訳や挿し絵の仕事もしているようです。
最近は漫画も出しましたね。


雨宿りはすべり台の下で
こそあどの森シリーズ
扉の向こうの物語
二分間の冒険
びりっかすの神様
ポアンアンの匂い
放課後の時間割
ムンジャクンジュは毛虫じゃない
ようこそおまけの時間へ



「雨宿りはすべり台の下で」

サンケイ児童出版文化賞受賞作品。
短編集、ですね。
団地の歳の違う子供達が三角ベースをやっていると突然ふりだした雨。
急遽公園にある大きなすべり台の下に入ったみんなは団地の不思議な住人、「雨森さん」についてのはなしを始める・・・。
話している本人にとっても半信半疑の不思議な話。
優しい話です。子供達が話す不思議な話もさることながら、管理人の息子が話す雨森さんの「不思議じゃない話」、ラストシーンの「蛍の光」。
全体的に少し昔の暖かい風景が見え隠れします。


こそあどの森シリーズ

 「不思議な木の実の調理法」
 「まよなかの魔女の秘密」
 「森の中の海賊船」
 「ユメミザクラの木の下で」
 「ミュージカル・スパイス」
  以下続刊

岡田淳氏初のシリーズもの(おそらく)。
「この森でもなく、その森でもない。あの森でもなく、どの森でもない。こそあどの森 こそあどの森」
この森の中に住む一人の少年、スキッパーを中心とした森の中の面々の話ですが、この主人公、人見知り(笑)。
激しく個性的な森の住人のなかにおいて、初対面の人の前では上手く話せず、また顔見知り相手でも思ったことをすぐに言葉にできない。
そもそも人嫌いで家の中で一人で本を読んでいるのが好きだった彼が「不思議な木の実の調理法」で外に出て、いろんな人とふれあう楽しさを知っていく。
まあ気の抜けて楽しい話なんですが、特にお薦めのなのは第三作第四作の「森の中の海賊船」「ユメミザクラの木の下で」。
どちらも楽しく不思議で最後にはちょっと切ない話。

「森の中の海賊船」

スキッパー達の海賊の宝探しはいつの間にか一人の男の哀しい半生を辿ることになる。
いつの間にか当時の海賊達の役を割り当てられている森の住人達。
海賊の頭領フラフラになったスキッパーは胸の中に深い悲しみを覚える。
ここには、彼女がいない・・・。

「ユメミザクラの木の下で」

森の中で出会った不思議な子供達。
楽しく遊ぶがいつの間にか消えてしまう・・・。そして、その頃森の大人達は?
岡田氏はあれですかね、こういう「絶対にかなわない初恋のようなもの」が好きですね。
わたしゃもうスキッパーが可哀想で可哀想で。真実を知るのは一人だけ。
どちらも壮観なのはラストシーン。


「扉の向こうの物語」

これが件の高校に買わせた本(笑)。
その前に地元の図書館になかったので何度も何度もよその図書館から取り寄せて貰い、しまいに本屋に注文して買ったという代物。
後にも先にも義朝が注文までして買った本はこれだけです。
赤い鳥文学賞受賞作品。
冬休みの宿題に物語を作ろうと思った行也は父親の勤める小学校の階段下倉庫に詰まっているがらくたに惹かれ、ここにあるものを使って物語を作ってみようとする・・・。
階段下倉庫! 私は小学校時代あそこに何が入っているのか気になって気になって妄想を働かせたものです。
そしてその倉庫に入っているものがまた良い。ピエロの操り人形、演劇に使ったらしい扉だけの扉、授業用の手で動かす時計、同じく授業用の大きなそろばん、下からバネが出ていて座ると深く沈む椅子、音が出ない箇所が多々あるオルガン。ひらがな五十音表・・・。
全部並べていくときりがない。途中から倉庫に入ってきた、喫茶店「メリー・ウィドウ」のママと一緒にひょんな事から倉庫内に閉じこめられてしまった行也はママと話をしながら扉だけの扉を開く、するとそこには・・・。
物語の先が見えない。そしてこれでもかと出てくる倉庫内のもの。はたして作者は物からこの話を作ったのかはなしに出てきたものを倉庫内に入れたのか。
座ると落ち込んだ気分になる椅子、時を狂わす時計。そして・・・ピエロ。
この世界の人間はすべて分類されなくてはならない。逃げ出す行也たち。そろばんを逆さまにして坂道をすべっていくシーンでは「ああ、昔やりたかったよ・・・。」とため息を付く私。
そう、他の人はともかく私にとってこの本は小学生時代から今に続くあこがれの要素がぎっしり詰まっているのだ。
それと忘れてならないのが物語中にちりばめられている音楽。
ラジオから流れる行也の亡き母の好きだった「チゴイネルワイゼン」、壊れたオルガンでママが弾く「ブラームスの子守歌」、古道具屋から流れるオルゴールの「エリーゼのために」、そしてピエロ所有のオーケストラが演奏する「未完成」。
これらが皆話の重要な役割を担っており、本の中で鳴り響いている。
いやとにかく名作です。


「二分間の冒険」

「お前の願いを一つ叶えてやろう」
学校の中であった不思議な黒猫、ダレカ。その言葉を聞いて主人公は「ちょっと待ってくれ、時間をくれよ」
「お前の望み、時間をやろう」・・・そしていつの間にか周りは不思議な世界に・・・。
この世界で一番確かな物を見つけない限り主人公はもとの世界に帰れない。
序盤はまるで古い笑い話のようだがそこから続く物語は奇想天外。
子供だけが暮らす街、竜の伝承、伝説の剣、そして謎かけ。
ちょっと終盤子供だまし的なシーンがあるが、いい話です。
ネタバレになるので伏せますが、ラスト近くのヒロインのセリフは泣かせます。心理だが、・・・小学生のくせに・・・(笑)。


「びりっかすの神様」

転校生のはじめが見た不思議な生き物。
くたびれたスーツを着たこびとのような中年男で、背中には羽が生えている。
彼を見ることができるのはクラスでビリをとったときだけらしい・・・。
いかにも児童書! な作品。
なんにでも順位をつけて競争をあおる先生、バラバラのクラス。それがはじめとびりっかすの神様の出現によって少しずつ変化していく。
初めて読んだ当時は「こんなクラスあるんかい」と思いましたが、今はいてもおかしくないような気がします。
順位をつけるというのが必ずしも悪いとは言いませんが、ね。


ポアンアンの匂い

放課後、気が付くと学校の林は奥深い森に、そして森の中には・・・。
「荒唐無稽」という単語がぴったりするような話です。
石鹸を飲み込んでしまったが為にすべて清く正しくなければ許されないと思うようになったガマガエル、彼によって「正しくない」と判断された生き物は口から発されるシャボン玉の中に閉じこめられてしまう。
コウモリの名前がすべて接続詞というのもよく分からないがよし。
恋人のデモネを見捨ててしまったシカシが「でもね」という単語を発するたびに「ああデモネ!」と叫ぶのが何かうっとうしくて良いです(←褒め言葉)。


「放課後の時間割」

日本児童文学者協会新人賞受賞(結構賞とりまくりだねこの人・・・)。
ある日、図工準備室にいた主人公の所に降りてきた一匹の白衣を着たネズミ。
彼は、この学校の最後の学校ネズミだという。死んでいった仲間達の残したお話を誰かに伝えたいという。
「まあ、これがあんたと私の『放課後の時間割』というわけだ」
主人公もネズミも最後まで名前が出なかった。
ネズミの話もさることながらこの二人の間がなんか好きでした。
珈琲を入れた主人公に、いつも彼の様子を見ていたネズミは「砂糖はいらないよ」なーんていっといて、一口飲んだら「あのね? 砂糖ある?」
・・・可愛すぎるよ、キミ・・・。
マリオネットの話がいい。お気に入り。


「ムンジャェクンジュは毛虫じゃない」

なんじゃそら、な題名。
岡田淳氏のデビウ作。
少年達が見つけたその場所にしか咲かない美しい花は大人達によって乱獲され、そこからすべて持ち出されてしまった。
その場所で見つけた小さな生き物はその花しか食べない。
「ムンジャクンジュ」と名前を付けてその生き物を育てるみんなだったが・・・。
なんとゆーか大人のエゴむきだし作品。
ムンジャクンジュに校庭のスミレをすべて食べさせてしまったみんなに先生か説教するシーンが秀逸。
「あのスミレは学校の物だろう?」
「違います。学校の物なんかじゃありません。黒姫山の物です」
かあっこいい。


「ようこそおまけの時間へ」

4時間目の12時ジャストに鳴るサイレンと同時に瞬きをすると、そこは茨の中だった。
場所は同じ教室。みんなの着ている服も今日のまま。ただ一つ違うのはみんなが茨の中に閉じこめられていて、しかも眠っているらしい。
毎日このサイレンの鳴ったときだけ短時間その世界に行ってしまう。
茨の閉じこめられた状態から脱出へ、そして他の仲間の救出とテンポよく話が続いていく。
大笑いなのが隣の席の幼なじみを目覚めさせたときのセリフ。
「朝日に輝く君が素敵だったからさ」
どこの小学生がどの口でこんなセリフを!
しかも心の中では(やったぁ、きざの決定版!)などと思っているあたりなんとも。
結構一番の謎は謎のままで終わってしまうのですが、読後感はいいです。


その他著作(画集、翻訳、挿し絵のものは除く)
・学校ウサギをつかまえろ
・手に描かれた物語
・光の石の伝説
・ふしぎの時間割
・もう一人のぼくも、ぼく



戻る