「秘密の花園」
フランシス・ホジソン・バーネット 作
インドで暮らしていたメアリは突然両親を失い、イギリスのおじの屋敷へ引きとられる。つむじまがりだった少女は、病弱なコリン、動物と話ができるディコンに出会う。3人が力を合わせ、コリンの亡くなった母の庭を再生させていくことで、メアリとコリンは本当の自分を取り戻していく。そして、3人の子どもたちのひたむきさが、大人たちの心をも癒していく。
この物語の主人公の1人である、メアリは、母親の育児放棄と無関心の中で育ちます。
贅沢な屋敷の中で召使にかこまれて過剰な世話を受け、1人では何もできない、
暴君のような子どもです。
暖かな愛情が通い合うような経験を持つ機会もなく、自分が絶望的に寂しいということにも
気が付く事さえできない、他者との関りがもてない世界で育った少女です。
そんなメアリが、イギリスのおじの家にひきとられることで、メアリを取り囲んでいた
環境が変化します。
メアリに対等にものを言うメイドのマーサ。マーサの弟のディコン。マーサの母スーザン。
無愛想ながら実直な庭師のベン。コマドリ。
この人たちとの関りと、自然環境が、メアリの生きる力を少しずつ目覚めさせていきます。
さて一方、メアリが引き取られた屋敷の奥深く閉じ込められ、父親との関りが持てない病弱な
少年コリンが、この物語のもう1人の主人公です。
メアリとコリンは従兄妹にあたりますが、心がまるで鏡写しのような二人です。
どちらも、人との関りを学ぶという人として基本的で大切な環境を与えられませんでした。
そんな2人が出会い、先に回復をはじめたメアリが引き金になって、孤独な魂が
重なり、時に和音を奏で、時に激しくスパークします。
それは、自分に向かい合って自分を癒していくことに、似ているのかもしれない。
そんな2人に大きな力を与えたのが、秘密の花園、ディコン、ディコンの母スーザンでしょう。
ガーデニングという行為は、大地に触れ、生命を育み再生させるという営みです。
土に触れる事で、何か自然の中に息づく生きるエネルギーのようなものが、体の中に
流れ込んでくるように感じられます。
「秘密の花園」を再生させるという行為は、2人が本来の自分自身を取り戻していくことに
奇跡的ともいえる力を与えます。
一方、ディコンという子どもはとても神秘的な存在です。
とてもこの世に存在するものとは思えないような、暖かく、傍にいなくてもいつも傍にいて
寄り添ってくれているような不思議な力をもつ少年です。
そして、そんなディコンの母スーザンは、何が子どもたちにとって本当に大切なものであるかを
確信し、それを陰ながら実行します。父性を備えた大きな母性の顕現のような存在です。
彼女は大きな愛で子どもたちを守ります。
このような状況は、人智を超えた目に見えないものからの配慮としか考えられません。
そのような配慮の中で、コリンが立って歩けるという奇跡が生み出されたのでしょう。
そして、その奇跡がシンクロして、コリンと父親が、親子としての関係性を取り戻していくことに
働きかけていく様は、まるで魔法をみるようです。
個人的には、コリンの父が子どもを長い事置き去りにしていた(自分の悲しみにとらわれて)
にもかかわらず、そんな父を思うコリンの健気さに心を打たれました。
子どもは親が子を思う以上に、親の事を思わざるおえないという状況に陥ることもあります。
親はそれに気付いてやらないといけないし、そういう状況にならないように、子どもが子どもとして、
子どもらしく過ごせるように配慮してやらなければと、反省をこめて、感想を終えたいと思います。

