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            『北の港亭』     




 
   1話 帰郷
  

            


 北国の港町  さほど大きくもない駅前


 他所からの歓迎よりも、ここからの見送りが似合いそうな所


 海からが本来の表玄関にあたるこの町には、裏の勝手口の、線路で他所へと通じる駅前広場の

 人の行き来の様子からは 昔の繁栄をどうしても未だ越えられない、もどかしさや歯がゆさが

 初めてここを訪れた旅人にもい
やがおうでも、そこはかとなく窺える


 表情に彩りのないまばらな地元の乗客らとともに、改札口から天井の高い

 
 レンガ造りの古い駅舎のロビーに一人降り立った男

   
 いつもはこの辺りを吹きすさぶ木枯らしも今日は珍しくおさまっていた

 
 かつてはこの町の港から荒海を相手に
命を張ってならしていた時期があった


 この駅から誰にも人知れず、静かにいつの間にか、立ち去って行った男



  遠いあの日とは逆に今度は、列車から
白く染まるこの北の港町に降り立った

  共通点はどちらも見送りも出迎えもない、その男たった一人というところか

 


       「左程も寂れていないじゃないか」


 
   独り言と同時に短い葉巻に火をつける


 
 分厚い生地のブラックオーバーコートと供地で作ったらしい
キャスケットを目深に被っている

 提げていた小ぶりのトランクを床に置き、ボストンのサングラスをはずし、
細めた目で、

 薄ら寒く、まだ真っ昼間だというのに人通りの
まばらな駅前広場の様子を 

 ロビーの白く曇ったガラス越しに見渡す



     もう充分な歳かさの男

  
     見知らぬ他人から老人と呼ばれるのに何の違和感もない


     しかし、老いぼれた様子は不思議に微塵もない


     しっかりとした肩幅のある骨格

  
     顔に刻み込まれた深いしわ

 
     思いがけずに上背がある


     その男の名前は“龍という

   
   その時代の当時の男連中からは、さぞかし、イカツイ大男でとおっていただろう



 サングラスをかけ直し、コートのポケットに突っ込んでいた皮手袋をはめると 床に置いたトランクを持ち、

 駅前広場から
 タクシー乗り場へと 襟を立てながら歩いて向かった


        まるで、ほんのそこまでの小旅行から帰ってきたかのように・・
  




     



    2話 荒さぶ港町
      
 
      

      
       

 どこの港町もなぜか坂道が多い


 メインの出入り口が海に面している町づくりになっているからか


 全国のそんな所は大小はあれ、それぞれが似通っている

 小高い山か丘があり、そこから眼下の港湾を見下ろす所がある

 その辺りに棲んでいる獣達は、あいも変わらずの人間達のその風景を眺めているのだろう

 
   
   その港町にもかつてはいい時期があった

 
 
 大漁旗を誇らしげに掲げた大小の漁船群で港湾全体を埋め尽くした時代がある


 手を思いきり振る出迎えの女、子供達に迎えられ、スピーカーから大音量の演歌で帰航する


 辛く、長かった漁を終えた男達は、札束を胴巻きに入れて、地元の歓楽街に
連日繰り出し

 恐ろしいほどの乱酒の賑わいに沸き返った日々があった

 
 血気盛んなヤン衆や女達が一攫千金を夢みては
、遠くからはるばると集まってきたものだ

 様々な人間や物資が大量になだれ込んで来ては吐き出していく・・・

 

   現在では、その頃の繁栄だった残像を街角に微か残すだけであった

 
 
 駅前広場からのびる商店街や、そこから港まで曲がりくねって続く歓楽街

 無愛想な開かずの間の如くのシャッター群がずらりと並ぶ

 町の華やかさを演出するどころか、ただ吹きすさぶ木枯らしを遮るだけ

 これからの一切を拒否した意志とまで感じられ、 それらが
寒々と しつこく延々と続いている

 
 
 そんな中でもまだ、細々と営業している商店の主人達はやたら高齢化が目立つ


 後継であるべく息子連中はさっさと見切りをつけ都会へと出て行ってしまい
もう2度とは戻って来ない

 親連中も子供達にそう言い聞かせてきた 

  
   「こんな所でいつまでもいても仕方がないから早く出て行って良い所の会社員になれ」

 
 そんな事を言っても故郷や自分達が恋しくなりいつか戻ってくるだろうとタガをくぐっていたが現実は

 文字通りに見放され先行きのまったく見えない毎日を在庫処分してまかなっている状態だ


 
 漁業関係などでもキツイ労働力は外国からの出稼ぎでまかない
、彼らは稼いだ金は自国へと

 送金し、その町には、おちるのは必要最低限だ


 元々、稼ぐだけが目的だからその土地への固有の愛着などもありえない



  それ以外のとって変わる、これといった地場産業もほとんどなく

  
  かといって観光客を呼べるような目ぼしいものは何ひとつもなく


  地元ゆえの海の幸を生かす知恵も今更なく


  目新しい先行きが期待できる企業を誘致させる発想すらもなく


  
 やはりよくある、市民はただ行政を批判し公務員は知らぬ存ぜんの他人事意識で開き直る

  


    ただ、過去の財産を食い潰して、何とか現状を
しのいでいる刹那的な状態でしかない


    そんな全国にあり余り過ぎるほど存在する地方都市
のひとつの港町

 

 昔からその土地に根を張り、裏の世界から町を牛耳っている
存在の影がうっすらと見て取れる


 そんな所、独特の世界的に共通な “荒み が見え隠れする


 景気のよかった時代はいい思いをさせてくれるが一旦、風向きが
変わってしまうと

 たちまちに文字通りの水揚げを黒幕たちに掠め取られてしまい、
あきらめ顔かやけくそ顔なりが

 その町全体のどうしようもなさが
、一般人の表情にこびり付いてしまっていた

 
 
 いい働き者だった男がタチの悪いものに手を出してしまい、抜けられなくなって

 
 何もかもを絡めとられた末路を感じされるしおからい町

  
 
     駅前広場から波止場にかけてがそこのメインストリート

 
 所帯くさい国産車や軽トラ、俗っぽい改造車が意味もなく忙しなくスピッツのように行きかっていて 

 時折、場違いを通り越した、ど派手な馬鹿でかいアメ車がゆっくりと通り過ぎる

 
 少し、離れた波止場付近にはビジネスホテルが何軒か営業しているが
この駅前には

 洒落たホテルなど一軒もない   ただ、古臭いビジネス宿が何軒かあるくらいだ

 
 
 少し大きめのスーパーとファミレスと毎度お決まりのコンビニがポツポツと並んでいる

 時代遅れのクリスマスツリーが掲げられてはいるが誰も見向きもしない


 

   駅前の正面にその当時、町全体が歓喜乱麻し、迎え入れられた都会のチェーンの

   シティホテルは
 バブル崩壊とともに 何の抗いも未練もなく、すぐに閉鎖された


   一番の当事者であり、影響を直接受ける地元民は口々に言った

      
       「やっぱり、他所モンはだめだな」
   

  現在も、駅前の一番の所に廃墟のまま、放置されている格好だ


  跡地の利用も何ら見通しもつかないまま放置自転車と
ともに鎖で囲われている

 
  手をつけずに、その広すぎる壁面に無造作に描かれた鮮やかな巨大なさかなの落書きだけが

  
皮肉にも その辺りで唯一アートしていた・・・      




         


           
3話 港亭
          
       

  陽が落ちてしまうと、ここは海に面した北国の冬の町だったとのを嫌でも実感させられる

 

 時おり町中を吹き抜ける突風が尋常じゃない

 

  その町の歓楽街に向かうと、チェーン展開のファミレスや居酒屋 今では日本全国どこにでも

   あるお馴染みの看板がやたら目に付く

 

  
   しかし、客足の少なさが見慣れた派手な看板に物悲しい

 

  
  およそ観光客など来そうにもなく、地元のせこい金遣いしか
相手にできない仕方なさがある

 


  見よう見まねだけで都会の流行のカフェやバーなどをそのまま鵜呑みにした店なりが
そんな所にも

  チラホラと見受けられるが、ブームにただ便乗し手っ取り早く始めたはいいが店側も
客側も

  まったく深い所まで理解されないまま、くすぼりのオブラートでコーティングされて垢抜けない



  投げやりな潮風にさらされるだけさらされて、結局はそこに応じた店構えに成り下がったまま放置されている

 

  

  鼻をつく魚の生臭い匂いがするトラ箱を無造作に積んでいる入り口がピンク色の
メルヘンチックな

  スイーツの店だったりして妙な逞しささえ感じてしまう

 

 
 『無国籍』だの『多国籍』だのと体裁よく名のっているがただのまやかしを
都合よく田舎モンを煙に

 巻いているだけの話で、 そこに応じた地元の、広く世間を知ろうとしない若者達だけが
集まり、

 陰気なバカ騒ぎを繰り返し、帳尻があっていた


 よくもまぁ、それだけ都会のパクリが出来たものだとその厚顔に感心させられる



 そんな中でも地元民同士の昔からの居酒屋では幾分客が入っているが、お互いが

 うんざりするほど見飽きすぎる顔ぶれではそれ以上の盛り上がり様もなさそうだ

 

 

 その辺りの歓楽街から続く、なだらかな坂道を登り切り奥まった辺り


 
 雑居ビルやら民家やら駐車場なりを越えていくと
小さなスナック群の看板が不規則に並ぶところに出る

 今度はゆるい下り坂になりかけた通りには 薄暗い街灯が意味ありげにチラチラと見える


 いかにも如何わしいそうな飲み屋の入り口やらアヤシイ客引きが見え隠れしている


 そのしけたバックストリートをしばらくまだ奥へと進み、ほとんど外れになったビルの
一階に

 ほの暗いBARの看板がかかっていた

 
 かなり古びてはいるようだが不思議と荒んだ様子はそこにはなかった


 周辺からそこだけが異彩を放っている



  まるでここだけが異国への入り口のように・・・

 

泥酔いするしかない酔っ払いもここまでは来なさそうだ

 

 


  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 そのBARの店内もまた独特だった


 かつてのいい時代にはこの港町に海からの経済や文化、芸術が大量に持ち運ばれ
そして

 出て行ったのを店の内全体の雰囲気が物語っていた

 

 エキゾチックやアンティックという言葉ではうまく言い表わせられず色んなものが

 雑然とし過ぎて、新しいのか古いものなのかの区別すらつかない



   いかにも古くからある港町のカウンターBAR


   店にある調度品の数々が海に面した歴史を否でも思わせられる



   言い様では訳が判らない店になるのだろうか

 

 今時の若者が流行りに任せて、うまく親の金を掠め、取り合えずにはじめた素人BARとは
 
 
明らかに空気が違っていた

 

 

 
ほの暗い店内の中央にはL字型カウンターがあり、バック棚には一通りの酒類が並んでおり

 オーセンティックな時間を過ごせるのを予感させる

 
 そのカウンターの内と外で男女が一人づつ向かい合っている

 
    内は中年の、マスターらしき男のみ
   外は幼さが残るうら若い女が一人 






         4話 深紅のカウンター
          

         



         

         黒人女性ジャズボーカルが狭い店内に低く流れている

         今のこの時間はまだ宵の口

         長くブラックな時間の始まりの予感のように・・
         
         

         店内全体をべたっと照らすは照明は何もない
         それぞれの隅に配置された無国籍なランプが間接照明のように
         ドラマチックに黄いばんだ古い壁やあちこちに置いてある
         色々な調度品をぼんやりと浮かび上がらせている

         カウンターの中央におかれたアールデコデザインの小さな赤いスタンドの灯りに
         反射された深紅の天板の光で、その辺り全体をぼんやりと紅く染めている

 

          

         ゆっくりと手もちぶさにそれぞれの形状のグラスを磨くマスターと

         これから訪れる客を待っている派手な若いホステスといった風情だが、
         足を組み、煙草をふかすスレンダーな女は店の常連客だ

 

 
         外は木枯らしが吹いているにもかかわらず、暖房された店内で
         肩があらわになった下着のような格好をしている

         
         上背があり、一見するといい年齢にも見えるが濃い化粧のせいで

         まったく歳の見当がつかない

         前後10年の違いは訊いてみるまで謎だろう

         どう言われても、ただ 『 あぁそうかい 』 と言うだけの事だが・・ 

 

         ただし本当のところは謎のままか・・  

 

         
         女が持て余しているグラスには、氷がすでに溶け切って

         シャブシャブになってしまっているウイスキーの水割り

         それをただ口に運んでは一向に飲む様子もなく、
         ニコチンでざらついた口の中を湿らせているだけ

         それをカウンターの上のコースターに戻す行為を、何気なしに繰返している

   
         やたら深くスリットが入り、妖しく光る、ブルーのワンピース

         山になった灰皿に、まだ長くもなっていない灰を振り落とし、

         無造作にカールした長い髪を大きく揺さぶる
         
         危なげな所をすでに越えてしまった儚さが漂っていた

 

         

         取り立てて関心なさそうに中年のマスターが口火を切った

     
         
         「本当なのかい? 君のお祖父さんがこの町に来るってのは」

 

         「なんだか、そうみたい」

 

         やっと相手が話を切り出してくれ、ホッとした様に
         カウンターにトンと両肘を乗せて前かがみに身を乗り出す女だ

 


         「ママの荷物を整理していたら連絡先が出てきたんだけどさぁ・・

         知らなかったんだけど、なにやらママとはその爺さんと

         手紙やらで今までに、やり取りはあったみたい

 

         あたしには、そんなの何にも聞かされてなかったんだよ、 マスターどう思う?

        
         訳ありは、ここでは誰でも五十歩百歩なんだから・・

         あたしはそんなものだと判っているから、別にいいんだけどね

 

 

         でも、ママが突然、癌であんなふうに逝ってしまうなんて思ってもいなかったよ

         今まで、親子二人で今までうまくやってたんだ

         
         それが、一足飛びにお祖父ちゃんの登場ってか?

         もう年寄りの介護かよ  バカにするんじゃねぇよ

         あたしが介護して欲しいってよ!

 

         それよっか ただウザイだけなんだよね 

         今更、身内だなんだってのは!
         苦手なんだよね、ナンだか暑苦しくて

           

 

         めんどくさいなぁ・・ やらなきゃよかったよ、 電話なんか

         お爺の声で 一方的に “49日” に行くからってさ・・・

         もうこのまま、スッポンかましてやろうかな」

 

         
         「そんな訳にもいかないだろう たった一人の身内なんだからさ

 

         ・・・そうかぁ、君のお母さんが亡くなって今日が49日になるのか

         突然だったからなぁ ・・
         まだ、40そこそこで気の毒なもんだな

         去るもの日々疎しって言うが、早いねぇ、月日が経つのは・・

         
         でも、君のこれからの将来ってのもその人としっかりと話さないといけないな」

 

 

         「お爺とそんなつもりなんかないね

         あたしは文字通り天涯孤独になれてせいせいしたんだから !

         どうにでもなるんだろう、この先、あたしなんか

         
         これからは自由を謳歌するんだよ

         
         うるさいのがやっといなくなったと思ったら

          ややこしいのが現れるんだから・・」

 

         
         すでにぬるくなっているグラスの中の液体をグッと一口飲みこむ
         
         気性の激しさが大きな瞳の奥に現れている
         こうと思えばガンと譲らなさそうだが、クリスタルガラスのような欠けやすい
         繊細さも見え隠れする

 

         「その人はどんな人かは、顔も知らないし、逢った事もないのかい?

         
         それも、ナンだか複雑そうだねぇ

         あんたのお母さんもその事をあまり言いたがらなかったし

         それどころか、この辺りの人間は誰もその話題から

         避けて通るようだしな 
        
         何だかおかしいよな
   まるでこの町のタブーみたいに・・・」

 

      
         考えても答えの出ない問題に出くわした時の様な、虚ろな表情になり、
         磨いているグラスを並べるマスター
         カクテルを作るシェーカーやバースプーンもついでに磨きだす

 

         
         「どうせろくでもないオジイなんでしょ

         うちのママを置いてけぼりにして姿をくらますんだから!

 

         なんで今更・・もう爺さんの顔なんか見たくもない

         あ〜あ もっと何か、パッと面白い事ないかなぁ」

 

         若過ぎてまるで似合わない、きつい化粧した顔が一昔前の

         マネキンを思わせ、その小さな鼻の穴から煙草の白い煙を出す

 

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




         「ところで、あいつはどうなの?  キヨシは」

 

         「仕方がないからねぇ もう腐れ縁だから・・・

         ここまできたらさぁ どうしようもないからね

         あいつらのいい金づるにされているのは判ってんだけどね、あたしにも

      

         あんなんだけど、昔はいい所もあったんだよ

         結局はうまい具合にされたんだろうな
         最初からそのつもりだったんだろう

         嵌まっちまったあたしがバカだったんだな

         “生まれついての女たらし” ってあいつの事だね
         世間の女なんか、鵜飼いの鵜としかみていなんだよ
         判って鵜になってる、あたしもあたしなんだけどねぇ

         気がつけばいい様にされちまって・・
         何をやってるんだろう、あたしと考える時もあるよ
         でも、どうしょうもないんだよね

         子供の時からそうだった
         言って行く所があたしにはなかった  ママの負担に成りたくなかった
         気が付けば、へらへらしたあいつが横に居たんだよ

         あんな奴ってさぁ どっかから上手く見ているんだよ、カモになりそうな女をさぁ
         何も知らない、弱っている子供の女なんて
         赤子の手を捻るくらいチョロいもんだったろうな

           泥濘に足を取られたあたしがバカなのは判っているよ・・
         
         今更、こっちが、そうでもどうせ放してくれないだろう

         あいつのウシロもあることだし、
         この辺りの警察なんてどうせ裏でつながっているから何の役にも立たないしで・・

         
        
         昨日もハゲの客を何人か取ってきたな

 

         クスリを打たれないだけまだマシだと思えってよ

 

         今までに、知らぬ間にどこかにいなくなってしまう娘も何人もいたよ

         何か打たれて船に乗せられ、どうなったかなんて

         誰も気がつかないし、まるで気にもしない
         どうにでも成るんだろうな,ここでは あいつらにかかれば

 

         あたし達みたいな娼婦なんて、ここの港で行ったりきたりしてる荷物と

         左程も変わらない

         
         面倒になれば海にドボンでしまいなのさ

 

         
         今夜はどうかな
         今頃、あいつ、相変らずあっちこっちとうろうろしているんだ・・

 

         
         どっちみち、あたしはこの町からは出られないのだし

         白馬の王子様なんて一生現れない

         ママをみてそう思った


         もう、どうだっていいのよ、あたしには

 

         マスターこそどうなのよ  ここでこのままくすぶってしまうの?

         こんな所でBARなんかしていても仕方がないと思うけど」

 

         
         「いやぁ・・ 俺は・・」

 

         
         

         マスターがそう言いかけた時、古くぶ厚い入り口の木製がドアーが

         前触れもなく無造作に開き、外気からの冷たい風とともに
        大柄な男がコツコツと、ゆっくりと店内に入ってきた
       

 






          5話 その男 “龍”

         
          




         「いらっしゃいませ どうぞ」

 

         「うむ・・」

 

         寒々と凍える街中を被って来た、帽子とコートをゆっくりと脱ぎ、

         店内の壁面に設えているハンガーにおもむろにかけると

         若い女が座っている斜め前の、少し離れた席に、その大柄な体躯をどっかと下ろす

         
         白髪だが十分な勢いのある髪    叩き上げをいやでも思わせる面構え

 

 

         「やはりこっちの夜は相変らず冷えるな・・

         ホット・バタード・ラムでも淹れてくれ

         
         バターをたっぷりとたのむ」

 

          
          「かしこまりました」

 

         

         身体を一気に温めるカクテル作りにさっそく取り掛かるマスター

 

         
         
         ヘリンボーンの濃いチャコールグレージャケットに黒のタートル

         周囲の空気を自然に凌駕させる気迫がある

         積み重ねてきたであろう、ドラマチックな年輪を否応なしにでも
         感じさせる、その男 “龍” の登場だった

         
         しかし、他人をはね付ける様な不要な刺す様な威圧感はなく
         一見穏やかな御老人風だが

         
         人並み以上にあるその分厚い骨格のある体型が微かに

         意味ありげな何かを周囲に感じさせてしまう

 

          暖かい店内に一息つくと、ポケットから、いつも愛用している

         小さい葉巻に火を点けようとする

 

 

         「おっと、お嬢さんこれいいかな? 
         
         近頃肩身が狭くなってな

         何だ、あんたも、もう吸ってるのかい  

         じゃあいいだろう」

 

          

          「・・・・・・」

         

         「お待たせしました、ホットバタード・ラムです どうぞ」

 

         「有難う、・・・・うん

         
         なかなか上手いじゃないか

          俺は昔からこいつが好きでナ

         心身ともに冷えた身体を芯から温めてくれる

         
         凍えた時には最高だ
         
         あんたは腕のいいバーテンダーだ」

 

        
         
         礼を言い、ミルクを温めた小さなミルクパンを洗いながら龍に話しかけるマスター

 

         
         「お客さん、この町には?」

 

         「あぁ 久しぶりでな もう何年になるかな

         多分あんたがランドセルでも背負っていた頃、ぶりだと思うよ

         懐かしいって言葉も枯れちまったくらいだ

 

         ここから去って行った時は、俺もまだまだ駆け出しだったもんだ
         あの時以来か・・・

       
         どうだい、あんたも一杯やらないかい?

         何でも好きなやつを飲んでくれ」

 

         「いいんですか?有難うございます
         では、バーボンのエズラでも頂きます」

 

         「いいだけ飲んでくれ

         あんたがここのマスターかい?

 

         確かこの辺りに昔、BARがあったはずなんだがな

         無理もないが、もう影も形もなくなったのかね・・」

 

        
         店主は、自分専用のロックグラスにバーボンのオンザロックを作り、
         一瞬、間を置き、龍の問いかけに答える         


         「・・それは先代の店の事ですね

         もうかなり以前に火事で焼けてしまいました
         原因が、判らずじまいの不審火でして ・・誰もいない、留守の間に出火したんです

         
         親父さんここに移転して頑張っていたんですが

      
          10年近く前に、病気で逝ってしまいました・・

         
         先代のマスターには身寄りがいなくて

         息子ではないんですが、可愛がって修行させてもらった

         私がその後を引き継いでいるわけなんですよ」

 

         

         「ふぅん  やはりそうだったのかい・・

         ここに来るのが少し遅かったようだな」

 

         
         眼を細め微かに憂いた表情で葉巻を吸う

 

         

         「この町はいい時代から、すっかりと変わり、今は見る影も無くなっちまったが
         ここだけは、昔のまんまで驚いちまってるんだ

         
         色んなものをあんたが代わって、引き継いでいるんだな

         こんなBARなんか、全国でも捜し歩いたって、今ではそう在るまい

         
         昔はどこの港町にも何軒かはあったもんだがなぁ・・

 

 

         実はな
         俺もその先代にはずいぶんと世話になったんだよ

         少し俺より歳が上だったな
         面倒見のいい人だった
         粋な人だって、当時はよくその店で遊ばせてもらったし、色々と頼らせてもらった
         当時から物事の筋道を判った人だった

         無理な相談事もきいてもらったよ・・

 

         そうかい、気の毒に、亡くなっちまったのかい・・
       
          そりゃそうだよな ずいぶん時間が経っちまったからな」

 

         
         しばらくそんな話のやり取りを、マスターとする龍 

         ホットラムでようやく人心地がついたようだ

 

 

         

         一人、空になったグラスを手もちぶさに覗いていた若い女
         唐突に老人に話しかける

 

         
         
         「ちょっと、おじさん あんた私の事がわかる?」

 

         
         クシで撫ぜつけた勢いのある白髪の頭がこの店に入ってから、初めて はっきりと女の方を向く
         しばらくじっと、細面の女の顔を見据えてから、低く話しかけた

          

 

    

         「お前さんがミオかい?」

 

         「・・・・?」

 





      6話 冷めたい対面

          




      一瞬、豆
鉄砲を食らわされた鳩のような顔になったかと思うと

      突然に、腹を揺すって突然哂いだす若い女

      
      派手に化粧した顔が人間離れした作り物のようだが
      しかし、それがいやに似合っている

 

      
      「やはりそうか・・

      空気でわかるもんだな 身内っていうのは
      どっかで通じているんだろうな」

 

      

      「えっ お客さんはこの娘の?・・」

 

      
      「この娘は俺の孫娘なんだよ この世で残っている俺のたった一人の身内だ」

 

 

      「そうなんですか?

      彼女待ってたんですよ、かなり前から」

 

      「そのようだな 涙のご対面って訳だ

      お互いにあまり上等じゃなさそうだがな」

 

      

      すでに空になったグラスを振り、寛いだ顔を見せる

 

      
      「まっ そういう事だ、マスター

      つのる話の前にシャンパンを抜いてくれ

      それと俺にスタウトビールを頼む」

 

      「ブラックベルベットですね 承知しました」

 

      
      龍の為に大きく無骨なタンブラーを別に用意し、ミオとマスターには
      デリケートな、シャンパングラスを セットする
      
      事の外、静かでささやかな乾杯をする3人だ

      

      「対面に乾杯!」

 

      

      グラスを掲げて、とり合えず音頭をとるマスター

 

      

      「どうだ 元気にしていたかい?歳は幾つになるんだい ミオ」

 

      
      一息にきめこまやかに泡だったシャンパンを飲み干す

      龍の問いかけを無視してお代わりをマスターに促すミオだ

      
      2杯目のシャンパンも再びに一気に飲んでしまう

      
      

      「ふぅー」      

      ほんのり赤らんだ頬を龍に向け龍の顔を見据える

      
      
      「オジサン、なんであたしのママを捨てたりしたの?
      今まで何をのうのうとしてたのよう!
      
      のこのこと、今更顔をだして何様のつもりなんだい!
      あんたなんか!・・・」

 

      
      再びに空になったグラスをマスターに差し出す女
      
      無言でグラスに入った黒くたっぷりなカクテルに

      スタウトビールを満々に満たす龍

 

      それをグラスの半分ほど飲んだ後、

      葉巻を一口深く吸うと白い煙をはく

      
      

      しばらく、葉巻とブラックベルベットで押し黙っている

      灰皿に吸い終えた葉巻を押し付けると、意を決っした様に淡々と口を開いた

     
      

      マスターも少し離れて興味ありげに静かに耳を傾ける

 

      

      「そうお前が思うのも無理もなかろうな・・・  
      いい機会だ 

      今夜、全て話しちまおうか
      よく聞いておくんだぞ

      

      あれは、もう何年になるか


      亡くなっちまったお前の母さんが生まれた頃・・

      かれこれ、40年ほどになるか 
      考えてみりゃ若死にだったな・・

 

      

      その頃、俺はこの町一番の若さで遠洋の漁船を仕切っていた

      当時の海は景気がよくってな

      面白いように金が転がり込んできたもんだ
      仕事はきついが、何度か漁にでるとあっという間に家が建っちまった

      
      そのかわり周りは荒っぽいやつばかりだよ、海もオカも

 

      

      辛く長い遠洋漁からオカに戻ってきた時の騒ぎようは

      何処も正気の沙汰じゃなかったな

      
      この辺りを毎晩お祭り騒ぎのように飲み歩いたもんだ
      朝方までどの店もいっぱいだ
      まぶしい、お天道様の登場でおひらきだ






    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  

       


        

     


      お前のお祖母ちゃんとはもう結婚していた
      その時代は一人前になると一緒になるのが早かったんだ

     
      大人しくて口数は少ないが本当によくやってくれた女だった

      俺もそれに応えるように夢中で死ぬほど働いたもんだ

 

      
      一生のうちで男が真剣に仕事に打ち込める時期ってそうもないもんだ
      『さあっ』 となっても何かが欠けていたりする
      
      この波止場の誰もがまだ若くて、何の迷いもなく勇んで漁にでていたよ

 

      

      一度海に出ると何ヶ月も家に帰れない

      
      そんな中、あいつはしっかりとちっぽけな家を守ってくれていた

      ゆくゆくはモットでっかい事をやってやろうと夢と希望に溢れていたな

      
      あの頃、この港全体がそんな空気に溢れていた

     無我夢中で大漁旗を掲げて、大海に向かったんだ   

 





       7話 悪魔の囁き
   



       




      その頃、波止場を仕切っていた顔役がいてな

      
      昔からなんだがこの辺りの実権をすべて一手に握っている

      荷受けやらヤンシュウの手配、もちろん漁船に関する事全てだ

      どこの波止場でもそうだがそいつに歯向かうと、居られなくなるし

      それでも、しつこく食い下がると、いつの間にかいなくなってしまう

 

      しばらくすると浜に打ち上げられたりする
      昔の波止場なんてそんな所だったんだ・・

 

      そいつらとはしばらく上手くいっていた

      
      先代は義理人情の判る本当に出来たいい人物だった

      働き手みんなの気持ちを汲んでくれる人だったよ

      
      その人の言う事は少々荒っぽい所もあったが、一本筋が通っていたもんだ

      ところが脳梗塞で倒れちまった
 
      仕方なく、代替えしその息子が後を引き継いだ

      その2代目は俺とそんな歳も変わらなかった

      ただ先代から引き継いだ時から、何やら胡散臭かったのは気がついていた

      最初は大人しかったんだが段々におかしくなっちまった

      いつの時代にもそんなやつが現れるのさ
      しばらくは何事もなく、今まで通りにいっていた

 

      
      ある時、そいつから折り入って話があると事務所に呼びつけられた

      何の事かと出向いて行くと豪勢なソファに長い間座らされる

      その時の議員だの政治家だのがぞろぞろと集まっていた

      どうでもいい世間話をいつまでも長々とする

      もういい加減に、痺れを切らしそろそろと帰りかけた頃、そいつは急に真顔になり

      俺の顔に近づけ、耳元で囁くようにこう言った

 

      
      『お前もそろそろこの辺ででっかく儲けないか?』

 

      何の事かと訊くと案の定ヤバイ話だ

      みんなが揃ってクドクドと話しだした
      
      簡単に言えば、キタの国とつるんで、ややこしいものを俺の船に持ち込めという事だ
      自分の国を売って、ぼろもうけの取らぬタヌキの胸算用・・
      
      よくよく訊けばこの港町を闇取引の基地にする計画だった
      裏からはすでに手を打ってあるらしい

       

      俺はどうせそんな話だろうとは思っていたよ
      聞いているうちに吐き気がしてきた

      
      俺にはそんな気はないから、すまないが他をあたってくれと

      すげなく言うだけ言うと、そそくさと家に帰ってきた

 

      家内には何も言わなかった・・

 




    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

      

        


      その次の日から港内で男同士での耳打ちが広がっていたよ

 

      『お前んとこはどうすんだ?』

      
      あいつらに逆らえばここには居られねぇ

      しかし、やっていい事と悪い事がある

      まだ、隠れてチョロチョロしてる間はかわいいが公になっちまうと

      とんでもない事になるのが目にみえている

      
      まともに働くのがバカバカしくなって挙句に自分達の首を絞めるだけだ

      そんなのがこれから将来まで、ずっと続けられる訳がないし、いい事なんかあるはずがねぇ      

      そんな事はすねかじりのろくでもない子供でも判り切った事だ

 

      驚いた事に仲間内は顔役の言う事を次々とのんでいく

      目先のいい匂い薬をかがされりゃ人間なんか弱いものだ

      麻薬みたいなもんだよ

      
      しかし、俺はどうしても納得がいかなかった

      これは銭金だけの問題じゃない

      
      集会場で仲間衆を集めて言ってやったぜ

 

      『漁師は魚を捕ってナンボだろう!

     
      なんで大事な命を預けている自分達の船に

      そんな訳の判らないものに手を染める事ができるんだい

      
      一旦染まっちまったら2度と取り返しがつかなくなるぞ!

      これは俺達ここの港町の将来の事でもあるんだ

      
      先の事をもっと真剣に考えてみろ

      そのうち誰もここに寄り付かなくなっちまうゴーストタウンになるぞ!』 

 
      みんな黙って下を向いて聞いていた
      一人がポツリポツリと口を開くと、段々にみんなが話し出した

 

      そしたら生活がかかっているだの・・

      これからは魚だけでは不安だの ・・

      これも何かの転機かも知れないだの ・・

      案外いい話かもしれないだの ・・

 

      およそ、これが男の言う事かと 

      よくもまぁ、こうも自分達の都合のいいように解釈が出来たもんだ

      
      今までの付き合いが一体 何だったんだと思うしかない話ばかりだ

      そんな弱気な泣き言を並べてどうする?

      俺達がすべき事を続けて何が悪んだ!


      魚を捕るだけの何が不満なんだ

      俺がおかしいのか、周りがおかしいのか
      訳が判らなくなってきた


      どこまでイっても 噛み合う事がねぇ平行線だ


       しかし、納得のいかない腑に落ちない話はどうしたって飲めねぇ・・・」
 



      8話 くいもの

       

       




          このBARの店内も段々にいい時間になってきた

          しかし,他に客は一向に来ない

 

          もっと遅い時間になるとドッと来るか、このままラストで終わりか

          水商売は今も昔もそんなところはひとつも変わらない

            
          身内の感激の対面を祝ったシャンパンのボトルはすぐに空けてしまった

          龍はダークラムのストレート 
          ミオとマスターはバーボンのロックに切り替えている

          
          ずっと押し黙ったままだったミオが、お代わりを言いかけると
          今まで 開かずの間だった入り口の木製のドアが
          外気の冷たい風とともに勢いよく開いた

 

          
          「いらっしゃい ・・あっ キヨシか」

          
          「よぉ・・寒いね  いつもの事だけど」

 

          顔色が悪くやせて、ひょろ長過ぎる若者が無造作に店内に入ってきては
          ミオの隣に椅子を引き慌ただしく腰掛ける

          
          爬虫類のように虚ろで何を考えているか意思をまったく読み取れない眼をしている
          女物の毛皮を脱ぐと派手なスーツにブラックシャツ
          はだけた胸元に悪趣味なペンダントを覗かせている
          こけた頬骨のラインが薄情さを物語っている

          北国独特な暖房設備のおかげで若い2人の室内での格好は薄着だ

          
          女衒独特のやるせなさと裏社会の人間独特なきな臭い匂いを漂わせ、
          相手の言葉尻一つでどうにでも豹変しそうな気配を持っている
          ドクロの大きな指輪をはめた指で自分の顎を撫ぜ、上機嫌な様子だ

 

          
          「ミオ、今夜もやっと見つかったぜ  いいカモが・・

          何を勘違いしたのか知れねぇが、こんな所に観光に来たって
          物好きな親父でよ
          退屈でどうしょうもないって言うからカマかけてやったらすぐに乗ってきやがった
          吹っかけてやったら喜んで出すってよ、したり顔したスケベ親父

            

          後、30分もすればいつもの所に行ってくれ、話はつけてある」

 

          
          「うぅぅん・・・」

 

          

          「あぁ寒かった、これでやっと、一息つけるってなもんだ
          楽じゃねぇなぁ  こんなシノギも
          いいカモが見つかるまでのんびりも出来やしねぇよ

          
          マスター俺にも一杯 いつものお湯割り熱いところ頼むよ」

 

          「いつものだね」

 

          
          どうでもいい安目の焼酎に熱い湯とレモンを入れ慌ただしく

          貧乏ゆすりをするその若者のカウンターの前に置くマスター

 

          
          

          先程からじっとおし黙っている龍

          その存在に初めて気がつき、急に小声になり、ボソボソと隣のミオと話すキヨシだ

          それでも、内容のくだらなさだけはなんとなく伝わってくる
          いつもの事のように聞き流しているマスター・・



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

           

 

          

          ホンの世間話の延長の調子で突然に若者に話しかける龍

 

          
          「あんた、その娘をまわしてるのかい?」

 

          「へぇ?・・」

 

          「その娘さん 俺にもひとつお願いできるのかい」

 

          「え! ・・」



          突然の声かけに一瞬、みんながたじろぐが次の瞬間にはハイエナの目になるキヨシ
          声をかけた老人を改めて品定めにかかる          

          「シャチョウさんもなんですか ひとつ遊びますか?

          あいにく、今先客が入っちまいましてね
          この娘でないとだめッスか?」

          「そうだな  俺はこの娘が気に入ったんだよ」
                
          「それはどうもで・・」

          「その観光の方の分も払わせてもらうよ  いいだろう、それで」

          「そうですか、あいすみませんねぇ
          では、あっちの方には違うのあてがっておきますから

          よかったなぁ ミオ お前の事気に入ってくれたんだとよ

          こいつ、まだ15ですが

          なぁに サツに ぱくられる心配はいりません

          ここでは何があっても治外法権ですから、なぁ〜んちゃって」
          

 

 

          「いいのか、こんな年寄りでも大丈夫かい?」

 


          「大丈夫ですとも こいつにはそっちの方はちゃんと仕込んでいますから

          
          ここは何にもない町ですが、そっち方面で他所からワザワザ来てもらってるんで・・
          
          昔はここも漁業が盛んだったんですがね
          今は進歩的に様変わりしたんですわ、この町は  ハイ」

        
          「そうなのかい 昔は魚が盛んだった
          この町にもそんないい時もあったんだなぁ・・
          今は魚を捕らずに女を捕る漁場に代わっているんだな」

          
          「これは又、ご冗談を・・」

            

 

          

          顔を見合すミオとマスターだ

          龍は何食わぬほころんだ顔でキヨシと話す

 

          
         
          「こいつはいい娘ですから・・

          ハイ、ヨロシク可愛がってやってください

          
          おめぇ、確か、こんなおじ様がタイプだったよな

          これからも御ひいきに」

 

         

          「ほう、そいつは楽しみだな」           





         
 9話 豹変

           


       
           いつもの葉巻に火をつけ, 白い煙を吐きキヨシの顔をゆっくりと見る龍
           楽しそうにストレートグラスに入ったキューバ産の黒い酒を飲む

          
          貴重な客にありつき、もみ手で必死に機嫌をとろうとするキヨシだ

          
          悲しいくらいに愛想を振りまき、ミオのほうに向き直って
          安めの焼酎の湯割に口をつけながら、饒舌に話す

 

         

          「ああ・・今夜はついてやがるぜ    

          よかったなミオ 
          このシャチョウサンによく可愛がってもらうんだぞ

          
          自分の本当のおじいちゃんだと思ってな

 

 

         〈急に小声になりミオの耳元で〉

 

        

         
          もういい年のジジイだ  ほぉうておいたら寝ちまうからよ

        頃合いを見計らってさっさと逃げちまえばいいんだよ

        
          どっちみち、どっかから流れて来た、ただの物好きの年寄りだ
          訴えていく所なんかどこにもありゃしねぇよ

     
          大体がこんな年寄りなんか、身体に悪いんだから

        これも人助けと思えばな・・

        
         
         少しばかりいい夢を見れただけでも御の字だよ

        冥土の土産にこれ位が丁度いいってなもんだ

        

         何なら上手く、こいつの財布から有り金みんな抜き取ってやれ

        
         この爺さん、たんまりと持ってそうじゃねぇか

        その方が世の為、人の為、天下の回りモンってなモンだ
         後の事なら俺達で何とでもなる
         
         こんな爺一匹な・・
         

 

        

         あっ、どうも シャチョウ

         ところで、この町には初めてなんですかぁ?

         
         何かここに、お仕事か用事にでも?」

 

         
        
         「あぁ、俺はここには随分と久しぶりなんだよ
        
         懐かしくてな  気分がいいんだよ

       
         あんたのような気の利くのがいてここも活気があるじゃないか

         
         ごくろうさんだな これもこの町の為かい?」

 

         
         「それはどうもで・・恐れ入りヤス
          
         あっ 一杯、何かご馳走しましょうか?
         マスター こちらに同じのおかわり 」

 

         
         

         「そうかい、すまないなぁ・・
         俺は昔からこいつが好きでなぁ」

         

         マスターから、差し出されたダークラムで満たされた小ぶりのストレートグラスを
         上機嫌に口に運ぶ
         
         キヨシもすっかりと寛いだ顔を見せる

         
         「俺はシャチョウさんみたいな粋な酒はわからなインすよ
         もっぱら焼酎でして、こんなシノギの生活も楽じゃなイッスから・・」

         


         「いやぁ 何事も世の為、人の為だ 感心 感心
  
         それはそうと、少しばかり訊くが
         あんたを仕切っているのは相変らず浜崎っていうのかい?」

 

         「え! ま まぁ そうだけど
         どうして、うちの社長を・・」

 

         

         「表向きは波止場を仕切って真っ当な実業家を装ってはいるが
         裏にまわると平気で自分の国を売る


         おまけに、お前さんのような人間のクズの手配までしているとはな

         

         昔から、何も変わらんものだ 大体の外道のパターンはな

         浜崎ってのは情けねぇ野郎だな

         
         まさか,そこまで腐っているとは思ってもいなかったぜ」

         

         「な! なにをぉぉ・・・・・」

 

         

         一気に逆上し顔がみるみる赤く染まるキヨシだ

         

         いっぱしのやくざモノ風情に豹変し

         握っていたグラスを力一杯、カウンターの上に叩きつけた

        大きな音を立て粉々になったガラスやドリンクが辺り1面に飛び散る

        

        悲鳴を上げるミオ     





      


      10話 手首

 

           
          
          「なんでうちの社長を知ってるんだよ! 
          おおう!  ジジイ こら

 

          

          「もういいからキヨシ君とやら 今日はおとなしく帰りな

          
          ただし、その娘をおいてな 
          お互いに手荒な事は止そうじゃないか
          
          無駄な事で怪我なんかつまらんだろうが」

 

         

          凶悪な赤鬼の様な面装に豹変したキヨシは座っていた椅子を撥ね飛ばし
          勢いよく席を立つと、老人の前に仁王立ちに立ちはだかる

          
          なにやらジャケットの内ポケットにはイチモツも用意していそうだ

 

          
          「このジジイ!なんだってんだ  いいから来てもらおうじゃねぇか 

          
          何者だか知らねぇがただですむと思うなよ

          おおう! サツかもしれねぇがそれにしても同じ事だ」

 

          
          先程からずっと押し黙ったままの龍

          ただ、目の奥の鋭い光がチラチラと光りだす
          しばらくの睨み合いが続く

 

         
          「このガキ!」

         
          痺れを切らしたキヨシの手が龍の肩に掴みかかる

          
          

          分厚い筋肉に覆われた肩に食い込む、キヨシの手首

          それを何気なく大きな太い手でゆっくりと上から掴む

          
          すると思いがけず、それを逆に強力な力で握り締めたかと思うと今度は

          逆方向に一気に両手で捩じ上げた

          
          腱がブチブチと中で切れる音がする

 

 

          不意をつかれたキヨシは声を上げる暇もなく床に崩れ落ちた

          
          間髪を入れず、その後ろ首筋に巨大な龍の拳固を振り下ろす

          ベタっと崩れ落ちたその後ろ向きの頭の上に今度は磨きこまれたウイングチップ
          の靴底に その全体重を乗せた

          
          それはあっという間の事だった

 

          
          その用を足さなく血の気を失っているキヨシの片手はその背中で
          まだ 万力のような龍の握力で掴まれたまま解放されない

          
          龍はほとんど表情を変えずにそのキヨシの背後から静かに低くモノを言う

 

 

          「おい、若造 まぁそんなところなんだ

          俺の手間が省けたようだよ

          
          帰って浜崎に言っといてくれ

          昔馴染みの龍が帰って来た

          
          

          長年、引き出しの奥に残されていた古い伝票が出てきたんだとな!
          何もかもをきれいにしに戻って来たんだと、よく言っといてくれ」

          そう言うと踏みつけている靴底に力を入れる

 

         
          「わ、わかったよ 鼻の骨も折れたみたいだ

          もう放してくれよ
          
          でも,うちの社長にこんな事を・・・」

 

          
          「浜崎の事は昔から百も承知だよ、
          それともうひとつ この娘とはこれっきりにしな

          
          もういいだろうよ

          他をあたるんだな 又いいのが見つかるさ、色男
          ただし、この利き腕はもう使い物にならなくなったから、そっちで慣れる様にするんだな

 

          いいな! これっきりだぞ 分かったな!若造」

 

           

           再びに手と足に力を入れると折れた手首が鈍い音をたて

          いっそう不自然な形でねじ曲がり、
          踏みつけている頭皮に 嫌というほど靴底が食い込んでいく

 

          脂汗を掻いたキヨシはかろうじて首を振る

 

          「判った 判りましたとも いいからこの手と 足を・・

          早く放してくれ・・うう・・」

 

          「聞き分けがいいな、ボーイ それでいいんだよ、

          若者は素直さが一番だ」

          

          そう言うと頭部を踏みつけている靴をずらしてやる

          しかし、今度はその捻じれた手首を力任せに上に思いっきり引っ張って

          カラクリ人形の様にピョンと起き上がらす

 

          「ぎゃあぁぁ・・・」

 

          すでに生白く変形しているキヨシの手首を

          掴んだまま、まだ放さない龍はそのまま店の入り口までずるずると

          まるで荷物のように引き摺って行った

          

          もう若者には声をだす気力すら残っていない

          おそらく手首から肘にかけては複雑骨折で元通りには戻れないだろう
          よほどの外科医でも、2度と使い物にはならない

 

          
          ドアを開け、表を確認するとその背中を思いっきり蹴飛ばし表に叩き出した

 

          顔面から地面に突っ伏したキヨシだが反射的に腕の痛さも忘れ
           そこから一刻も離れようと通りに向かって走り去る  
                          
                                

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・          
           


          何事もなかった顔で席に戻ると飲みかけのラムをあおり

          空になったグラスをマスターに預ける龍

          再びに黒いハードリカーのお代わりを預けるとそそくさと今の騒動の
          後始末に取り掛かるマスター

 

          ジッと黙り込んだまま自分の祖父を見続けるミオ

          孫娘にウインクを投げ、ストレートグラスを口に運ぶ龍

 

 

           「えっと どこまで話したか・・・


           ミオよ、お前のママがこの世に生まれてくる少し前の事だったな・・」

 

           チェイサーの水で喉を湿らすと昔話の続きが始った

 

           





 
            
           

           

          「しばらくし、気がつけばここの顔役の浜崎ってのに逆らう奴は俺一人になっていた

           
          無理もねぇ話だ そいつに逆らえばこの波止場みんなの反目になる

           

          俺はここでは一番のワカイモンだったから今まで見てみぬふりをしてたんだが

          それでは他の衆の示しがつかなくなってきたんだろうよ・・

 

          そのうち、なんとなしの嫌がらせが始まったんだ

          うちの漁師や船員達にもそれがきた

          堪りかねて俺の船から他へ移る奴も何人か出てきたな

           
          俺は、笑って見送ってやったよ

 

           

          そんな中、次ぎの漁に出た

          オカの話は海には持ちこまねぇ

          ただ、俺達は魚を捕るのに専念するだけだ

           
          みんなよくやってくれたよ

          まるで、オカでの鬱憤を晴らすかのように・・

 

          

          思いがけずの大漁だった
          俺たちの船がそれまでで一番の水揚げだった

           
          目一杯の大漁旗を掲げて半年振りに胸を張って港へと戻ったもんだ

          いつもどおりの女子供衆の出迎えが待っていた

 

           

           しかし、その漁が俺には最後になったんだ    


  

         
      
      11話 破滅

 

           
         

         陸に戻ると、しばらくのいつもどおりの乱時期騒ぎだ
         今までで最高の水揚げにみんな、我を忘れてのお祭り騒ぎだった


         何日か経ち、生活がいつも通りに落ち着き気がつくと家内の様子が何だかおかしい

         常は漁に出払っているから家族の異変には敏感なはずだったんだが・・

         
         ぼんやりとうつろに何時までも窓を見ていたり

         段々に顔色が悪くなり、
         話しかけても聞こえていなかったりで心ここにあらずな様子だ

 

         

         「一体どうしたんだい?
          どっか具合でも悪いのかい?」

         「何でもない ただ少し疲れただけ・・」


          

          

         あいつが日々弱っていくのがわかる
         病院にもまったく行きたがらねぇ

         

           ある日、言いたがらないのを無理にでも吐かしちまったらな・・・


         

         簡単に言えば俺が留守の間に浜崎んとこのチンピラどもに

         上手く呼び出され、寄ってたかって、輪姦されちまったそうだ
         
         四の五のそれ以上は訊けたモンじゃねぇ・・・



         俺もうかつだった

          一度漁に出ると何ヶ月も家を空けるのが当たり前になっていたからな

 

         
         荒れた  本当に荒れた

         自暴自棄とはまさにあの事だ

         何もかもが崩れ落ちた感じだった
         今まで築いていた大切な何かが喪失したようだ

         
         あいつにも辛くあたった

         そんな日がくる日もくる日も、しばらく続いたんだ




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

         



         
         

         「もう何もかも忘れて今までどうりでいましょうよ」

 

         そういう家内の顔を思いっきり叩いていた

 

         「そんな事が出来るか!てめぇよくも」

 

         どうなるものでもない、持っていきようのない感情に

         俺達はまるで嵐の中で荒ぶられる小船のような日々が続いた

         

         浜崎の所に掛け合っても惚けるばかりでらちがいかない
         こんな話を誰に相談できるかってんだ!

         

         そんなこんなしてると、家内の腹が膨らんできた

         
         

         この先俺はずっとこんな惨めな猜疑心で生きていかなければならないか?
         ここの波止場の影での笑いものでずっといくしかないのか?

          

          大体が、なぜなんでこんな事になっちまったのか?

         

         一体、俺達が何をしたというのか?

 

         

         何も知らない仲間連中はお祝いに来てくれた

          形どうりの何食わぬ顔の二人で迎えたよ



         浜崎の野郎はこれ見よがしな花束と祝いを贈ってよこしやがった

 

         いよいよ、もうすぐ生まれるという時、俺のちょっとした隙に家内は部屋で首を吊った









          

        
        12話 決着
         


         

         俺は急いで病院に運んだが 母体はもう無理だった

         しかし、胎児は大丈夫だそうだ

        
         薄暗い病院の廊下にあるベンチに一晩中座り込んだ

         気がつくと、夜が明けていたな

 

          

         替われるものなら替わってやりたい

         もう何もかも終わりだ


         この女を死なせてしまったのは元をただせば俺のせいだ

         少しばかりの意地を張ったばかりに・・

         何の落ち度もない唯一のおんなを死なせてしまった

         一心に俺の事を想ってくれていた女を・・

 

         

         白々とした病院を出るとその足でそれまでの俺の全てを処分した

         唯一この波止場で、心を許せるここの先代のマスターにだけ全てを話した

 

         普段、マスターとはそう親しくもなかったが、こんな時には本当に心の支えになってくれた

         気がつけば長年ここで暮らしていたが、本当に判り合えたのは彼だけだった事に気がついた

         

         

         『いいから、私に何でも言ってくれ、力になるよ 龍さん』

         その言葉に芯から励まされた

         この人なら信頼できるし、すべてを託す事ができる

         何年間かで貯めていた俺の全財産をマスターに預ける事にした
  
         生まれた子供の面倒にと・・・


          おんぶに抱っこの形で俺はこの町から出て行く決心をした

         何もかもから足を洗って出て行く事にした

    

 

         


         母親の命と引き換えに生き残った子供は俺の子供かどうかは知らないが

         家内の子供には間違いはない

         俺を支え続けてくれ、死んでいった女の子供だ

 

 

         それから俺はこの土地から姿を消したって訳だ

         これから何もかも違う土地で出直そうと・・

         誰もいない夜汽車で独り、この土地を後にした

 



  
                 

  

         マスターの計らいで手紙やらのやり取りは続いていた

         しばらくは施設で厄介になり、学校も出て何とか自活できた

         一緒になってくれる好きな人も 出来たそうだ

         
         
         

         いい娘さんになり元気でやっていると手紙から見受けられた

         それがあんたのママなんだよ

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

         




         俺のようなややこしいのが今更出る幕じゃねぇ

         可愛い女の子も授かったそうだ

         一目だけでも逢いたい気持ちに杭を打った

         もう、なおの事あの港町には足を踏み入れる事はしないでおこうと誓ったんだ

         人生、渡る間に神もいれば鬼もいる

 

         

         それから、突然ミオ、お前さんからの連絡だ

         まだまだ、あの世には行かしてくれねぇものだ

 

         それにしても自分の家内どころか娘までも先立たれるってのは

         余程の女運のない男なんだろうな、俺は

         
         俺はお前さんをひと目見て察したよ

         俺の家内や娘がこの子を何とかして欲しいと訴えているとな・・

 

         そうでねぇと俺はあの世へはおめおめと顔を出せないんだ

          このまんま、どの面下げてみんなの前にでようってなもんだ

        

         浜崎の野郎にはあらかじめこちらから手を打っておいたぜ

         時間はたっぷりとあったからな

         今までのけじめを一気にとらせてやる

         人間失くすものを知り、何が自分に大事だったかわかるものだ

         奴の俺からの冥土の土産は結構デカイだろうよ」

 

         
         
        

        ストレートグラスを、今までの長い身の上話を話し終えたように

        一気にだが重くグッと一息にあおった

 

        

        すっかりと夜も更けいい時間になっていた

        聞いていたマスターは黙り込み、ミオは泣きじゃくっている

 

        「長々としゃべっちまったな  なにしろ古い話だったから・・

 

        ここからハマまではそうなかったはずだ

        もしよければ、少しばかり散歩にでも出てもいいかい、マスター」

 

        「いいですよ、うちはまだまだやっていますから」

 

        「そうかい、久しぶりにこの港からの冷たい潮風にでも打たれてくるか

        ミオ、少しばかりこのお前さんのおじいさんとお話でもするか」

 

         「う・うん・・」

 

         「この飲みかけのダークラムのボトルをちょいとばかりお借りするよ

   

         お嬢さんには途中で似合うのを探そうじゃないか

 

          これからは大事なものは決して離したりしないからな」

 

         そういうと身につけてきたコートとキャスケットを身に付けると

         半分ほどになったダークラムのボトルをぶら下げ、重いドアを開ける

         冷たい外界へとミオも後から続く

            






         

      

         


         遠くで海風の音と野良犬の泣き声が聞こえる

         ほの暗い繁華街のバックストリートを孫娘と並び、波止場へと向かう、龍

         

         暗い路地を並んで歩いていく老人と若い女の2人連れにずっと

         店の前でやりとりを聞いていた野良猫の親子がすばやく追いかける・・・完