ねぼうをした目玉焼き                                           「本棚」へ

 

    とも君はお父さんが大好きです。

   でも、お父さんは仕事がいそがしいので、とも君がまだねているうちにでかけて、とも君がおやすみをしてしまって

から帰ってきます。とも君とお父さんは同じ家にいるのに日曜日しか会えないのです。

    あしたはお父さんのたんじょうびです。あしたはお父さんの仕事がある日なので、たんじょうびのおいわいは今度

の日よう日にすることになっています。でも、とも君はどうしてもお父さんのたんじょうびの朝に「おめでとう」と言って

お父さんをびっくりさせたいのです。

(お母さんにおこしてもらったんじゃお父さんをびっくりさせられないしなあ。)

とも君は考えました。

(そうだ。朝早くおきたいときは、ねる前にまくらに「はやくおきられますように」ってお願いすればいいってさとし君が

前に言ってたっけ。)

「あしたの朝は早くおきられますように。」

とも君はまくらにお願いして目をつむりました。

  次の日、とも君が目をさますとよこでねているはずのお父さんがいません。

「しまった。ねぼうしちゃった。」

とも君はふとんをはねのけるとリビングに走っていきました。

   リビングにはだれもいません。お父さんはもう仕事にでかけてしまったのです。お母さんはおせんたくをしているよ

うです。

「あーあ。まくらにおねがいしたのに。」

とも君はがっかりしました。

   グー。ピュルルル。 グー。ピュルルル。テーブルの方から変な音が聞こえてきました。

とも君がテーブルの上を見てみると、目玉焼きがおさらの上にのっています。変な音はこの目玉焼きから出ている

ようです。とも君は、そーっと近づいてみました。

  よく見ると目玉焼きには目玉がありません。もっとよく見ると目玉がないのではなく、目をつむって目玉焼きがねて

いるのです。

「うわーっ。」

と 、とも君びっくり。

「うわーっ。見つかっちゃった。」

と、目玉焼きもおおごえ。

「目玉焼きがしゃべったー。」

とも君はこわくてなき出しました。

「ごめんよう。ぼくはこわいものじゃないんだよう。」

    目玉焼きは朝の国からきたのです。朝の国は空にうかんでいますが、朝日にてらされてまぶしいのでだれにも見

えません。

    朝の国には目玉焼きの町、トーストの町などいろいろな町があって、それぞれ朝の仕事をうけもっています。

    こどもたちがまくらにお願いしたことは、目玉焼きの町にあるフライパンのかたちのパラボラアンテナにキャッチ

されます。目玉焼きたちの仕事は、お願いした子供たちを朝、おこしてあげることです。目玉焼きたちはお日様から

パワーをもらって自分のすがたを消して出発していくのです。

「ちょっと早くつきすぎたからおさらの上で休んでいたらねむっちゃった。それでとも君をねぼうさせちゃったんだ。お

まけにお日様からもらったすがたを消すパワーが切れて、とも君をびっくりさせちゃった。ごめんよう。」

今度は目玉焼きがなき出しました。とも君は目玉焼きがかわいそうになってきました。

「いいんだよ。日曜日にはみんなでお父さんのたんじょうびのおいわいいをするんだから。」

「でも、たんじょうびは一年に一回しかないのに。」

     目玉焼きは考えました。

「そうだ。お日様。ぼくにもう一度パワーをください。おねがいです。」

    目玉焼きはマンションのまどからのぞいているお日様にいっしょうけんめいお願い

しました。

   するとお日様の光は目玉焼きのなみだでかがやいて、細かいつぶになって、とも君

をつつみだしました。

「うわっ。まぶしい。」

    とも君は目がくらみました。光のつぶのかがやきがおさまると、とも君は小さくなって目玉焼きの上にのっていま

した。

「さあ、お父さんをおいかけよう。」

    目玉焼きは体をひらひらさせてとび上がり、マンションのベランダから駅の方にとびだしました。

公園も駅へ行く道もずっと下に見えます。とも君はお父さんをさがしました。公園を少しこえたところで大きなかばん

をかかえて歩いているお父さんを見つけました。かばんが重そうで、ちょっとつかれているようです。

「あ、あそこを歩いているのがお父さんだ。」

とも君がそう言うと、目玉焼きはどんどん下におりていって、お父さんのすぐ後ろまでちかづきました。

「とも君は小さくなっているから大きな声を出さないと聞こえないよ。」

目玉焼きが言いました。

 とも君は息を思いっきりすってさけびました。

「お父さん。おたんじょうびおめでとう。」

 お父さんに聞こえたのは小さくささやく声でした。お父さんはびっくりしてふり返りました。

 でも、何も見えません。目玉焼きも、とも君も、お日様のパワーですがたは見えないのです。

 お父さんは小首をかしげて「気のせいかな」という顔をしていましたが、すぐにマンションの方に目をやってにっこ

りしました。

「とも君、元気におきたかな。今日もいちにち仕事がんばろう。」

    お父さんはそう言ってかばんを持ちなおすとまた駅に向かって歩き出しました。