ココヲオサエテカシコクツクリタイ
 編集していく上で重要だなあと思ったいろんなこと
 その8・編集とは捨てること(00.6.26)

 注)アン関西版編集スタッフに普段伝えていることをまとめたものなので
 求人情報誌に関連することがほとんどですが(今後もそういう内容になります)、
 一般誌の制作についてもココだけ知っていれば大きな顔ができるポイントかと
 思いますので、参考にできるところだけ参考にしてください。
 なお、このページの記事の無断転載・抜粋は禁じます。


●プロはい〜っぱい考えて、い〜っぱい捨てる

「編集とは捨てることだよ。いい素材はいっぱいある。でも全部は使えない。素材やアイデアを切り捨てていく中で、テーマが鮮明になってくる。いいものしか残ってないはずだしね」
「サリダ」(当時は女性向け総合雑誌)の編集スタッフになるかならないかの頃、「サリダ」の編集デスクから言われた言葉。

「いっぱいアイデア考えるでしょ。その中でコレ!っていうアイデアやらセリフ、場面、キャラ、とにかくひとつにこだわるでしょ。すると、残りのアイデアの中にはそのこだわった何かをヘルプしてくれるものもあれば、逆に意味不明にしてしまうものもある。ここで大事なのは、こだわったひとつを活かすために不要なアイデアを切り捨てていくことだ。それが、どんなにおもしろいアイデアであったとしても」
「少年チャンピオン」での連載終了後、当時の副編集長から言われた言葉。

「アイデアはバーゲンができるくらいあるんだ。自分でも書ききれないぐらいにね」
無謀にも手塚治虫先生に、いつかボクが書いた原作を漫画にしてほしいと言ってしまったときに返された言葉。(この時居合わせた編集者から、手塚先生が実際に書いておられた漫画の売り込み用シナリオを2本見せてもらった。結局ボツになったようだが、超多忙な中、そうやってどんどんアイデアを形にしていく隠された努力に感動した。有名な話だけど、300ページの単行本用に1000ページ書いてそれを縮めたというエピソードをその時思い出した)

 プロはいっぱいアイデアを考える。いっぱいネタを探す。でもってそれをバッサリ切り捨てる。これって実にカッコイイと思うのだ。

「週に2回とか、コンテを書き直して持ってくるやつってなかなかいなかったんだよねえ」
はっきり言ってドへたくそだった漫画家デビュー前、それでもそんなボクと熱心につきあってくれた編集者の言葉。その週2回を延々繰り返した後、デビューのチャンスをくれた。20ページのコンテなら1日で書き直して当たり前。そう思っていた。だから、週に2回に引け目さえ感じていたのに、週に1度書き直す人でもまれだと言う。人より頑張ったからチャンスを掴めたのだというこの事実は随分後になってから聞かされた。

 テレビの世界にテリー伊藤さんという人がいる。「天才たけしの元気が出るテレビ」とかで有名だ。この人の門下生たちが今「電波少年」「雷波少年」や「ASAYAN」を作っている。テリー門下生に共通するのが、めちゃくちゃいっぱいアイデア出しをするということ。そのくせ、ひとつのネタのひっぱりがやたら長い。というわけで、結局ほとんどの企画がボツになっていく。聞くところでは、ひとりの構成作家が1回の企画会議用に1000ものアイデアを持ってくるという。企画会議を10人でやるとすれば、そこに10000のアイデアが集まることになる。そういう状況でもテリーさんは「俺の方がいっぱい考えてる」といって門下生たちのアイデアシートを破り捨てたりしたことがあったのだとか。
 と、考えると「電波少年」「雷波少年」や「ASAYAN」のネタ作りにも納得がいく。あれはおそらくやらせでもなんでもなく、先の先までシミュレーションしきっているからこそ、その場で発生した出来事に即座に対応できてしまうというだけのことなのだろうと思う。
 この項長くなっている。「電波少年」「雷波少年」や「ASAYAN」にはもうひとつ共通している項目がある。サムシングエルスのやった「ラストチャンス」とモーニング娘の「合宿選考」。極限の環境の中、普段ならしない極限のところまで努力させたりアイデアを考えきったり、といった中で飛躍的にステップアップさせる。アマチュアがプロになる瞬間をドキュメントで見せていく。
「プロはいっぱい考える」を地で行く企画だと思う。

 アンのスタッフにいつも言うこと。
「いい企画だけ見せたいと思うから、5〜6個しか企画が出せない。そこで諦めてしまう。これが、最初から「100個企画を考えてやろう!」ということでスタートしていればどうだろう。当然くだらないアイデアも書き出すことになるだろう。でも、そのくだらないアイデアからさらにヒントを得て、いいアイデアが急に閃いたりといった、次のステージが必ずやってくる。たいていの人はその手前で止まってしまっている」
 要はカッコをつけずに思いついたことをガンガン書き出すこと。アイデアにつまったら周りを見渡して、目についた物、耳にしたものからヒントを得てドンドン展開していくこと。企画なら最低100個、コーナータイトル名とかなら最低300個。そのぐらいは考えようという目標を持って取りかかれば、意外なアイデアが生まれてくるものだ。もちろんその数は多ければ多いほどいい。また、書くという作業が脳味噌を活性させる、という肉体内部の効果もあるようだ。

 意識の変化は大事だ。いっぱい考えることの大事さ、というよりそれがプロの世界では普通なのだ、ということに早く気づいた人こそがプロとして残っていけるのだと思う。(この項続く)



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