ココヲオサエテカシコクツクリタイ
 編集していく上で重要だなあと思ったいろんなこと
 その4・漫画制作の理屈から習えること(00.5.26)

 注)アン関西版編集スタッフに普段伝えていることをまとめたものなので
 求人情報誌に関連することがほとんどですが(今後もそういう内容になります)、
 一般誌の制作についてもココだけ知っていれば大きな顔ができるポイントかと
 思いますので、参考にできるところだけ参考にしてください。
 なお、このページの記事の無断転載・抜粋は禁じます。


●読者の行動分析が徹底している漫画制作における編集姿勢

「友情・努力・勝利」。漫画界のドン、「少年ジャンプ」王国の裏スローガンだ。実はこれこそ、マーケット(読者)を研究しつくて決めた単純明快な編集コンセプトなのだが、その結果、あの一時は世界一売れていた週刊誌を生み出したわけだ(コンセプトを徹底できたことが一番の要因だろうと思う)。ジャンプのすごいところは、読者アンケート結果分析を徹底的にやり、それを日々継続し、誌面に即座に反映していくという単純明快さだ。新人登用の大胆さ、人気のない漫画をうち切る決断の早さは未だに多雑誌の追随を許さない。

 漫画制作にはこんな基本ルールもある。即ち、「基本は見開き内の配置にあり」というルールだ。
 右から左に読み進んでいく少年漫画雑誌において、読者(特に少年たち)は一般雑誌以上に薄情で、読むとしてもひと見開き3秒弱、しかも半分以上のページは斜め読みするだけのコンマ何秒という恐るべき速度で読み進んで行く。その際、主にどこに視線があるかと言えば、@見開き中の左ページの左サイド上部、A見開き中の右ページの右サイド上部、B見開き中の一番最後のコマの順であるという。
 だからこそ、少年漫画雑誌の編集者たちは、見開きの最後のコマには次の見開きを読みたい衝動を生む「ヒキ」(期待の引っ張り)のあるコマを要求するし、ページをめくったところ(要は右ページの右上)には状況が一目でわかる説得力あるコマを要求するし、左ページの左上には大ゴマや勢いのあるコマを要求するわけだ(この3角形に大ゴマを配するとレイアウト上の見栄えも良くなったりする)。全体のメリハリの関係で毎見開き同じようなレイアウトにするわけにもいかないが、よく読み込んでみると未だに漫画雑誌はこのルールにこだわっていることが分かる。
 疑い深い性格もあり、これを言われてからの数日、電車内や本屋で人が漫画を読むのをずいぶん観察したものだが、「どうやら正しいなあ」という結論に達してしまった。(手前味噌で恐縮だが、編集者には人から言われたことを鵜呑みにしない疑い深さと、それを確認する執拗さ、そしていいことだと思ったらすぐ頭を切り替える順応性が必要だと思う)
 雑誌にそのまま応用すればいい、ということではもちろんない。携わる雑誌の読者がどんな風にその雑誌と向き合っているのかをリサーチするところから始める姿勢が大事なのだと思う。

 他人と、こういう「一般的には…」という話をしていると、お互いついつい主観に満ちた一般論の押しつけあいをしてしまうことになる。そんなとき決着をつけてくれるのが統計(要は多数決)に基づいた理論である。サンプリングをしっかりしていれば、いつでもきちんと正論に行きつくことができるのだ。少年ジャンプの編集者たちも、きっとこんな風に答えを見つけたのだろう。まずは子供達の反応を伺いながら生まれたキャラクターたち。そして、最近では女子高生モニターたちがヒットさせた商品の数々。マーケティングって実はそんなに難しいことじゃない。

 昔、漫画家だった頃お世話になった少年チャンピオンの元編集長(ガキデカなどギャグ路線で一時はチャンピオンを業界No.1に押し上げた名編集者)に、こう言われたことがある。
「自分だったらどんな風に読むかをよく考えた方がいいよ。無意識でしていることの中に答えがあったりするからね。で、他人がどんな風に読み飛ばしているかをよく観察してみると、似たようなことをけっこうみんなしてるものだ。自分がどう行動してるのかを突き詰めることも大事だよ」
 また学生時代、社会学の先生に教わった「統計学では300以上のサンプルがあれば正論」という乱暴な理屈(つまり300人観察すれば、正確な答えがみつかるというわけ。これは現在のテレビ視聴率にも応用されている)。「自分」+「他人300人」。この2つが自分の編集作業には実に役立っている。

 ルールは変わる。疑問が生まれたらサンプリングに立ち戻って、マーケットを見つめ直すこと。文字にすると難しそうだが、行き帰りの電車や書店・コンビニで、雑誌を読んでる人を観察するのはけっこうたやすいことだと思う。


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