鎌津螺市のスーパーマーケットにての出来事である。
「お前はなにやってんだぁぁぁぁ!!!」
髪が背中の真中あたりまである長髪の男がスーパーの袋を持って買ったばかりの大根で隣にいるショートカットの女の頭を思いっきり撲っていた。
「お前はいったい何回やったらその手癖が直るんだよ!!」
なおも女の頭を撲りながら男は周りの人目を気にせずに怒鳴っていた。
「いたっ……痛いって…やめてって…」
女は上目遣いに男を見上げながら小さい声で抗議の声を上げていたが男はそんな声を無視してボコボコと撲り続ける。
「これで記念すべき10回目到達したぞ?おい」
一度、大根で頭を叩いていた手を止めて、男はドスを利かせた声と鋭い目つきで睨み付けながら女に問い掛けた。
「…キリ番だね……ははは…」
女は白々しく笑いながら目を泳がせていた。
それに対して男はニヤリと怪しい笑いを浮かべた。
「そうだな…じゃあ、記念品を上げなくちゃな…」
「え…と…遠慮しとこうかな…?」
そんな男に、女は顔を引き攣らせながら後ろへとジリジリと下がっていた。
しかし、男はなおも怪しい笑いを浮かべながら女を追い詰めながらゆっくりと近づいていた。
そして、女が壁に追い詰められた。(野次馬は傍観しているだけ)
「…そろそろ観念しようじゃないか…静菜よ…」
「…ええ…と、ぼうりょくはんた〜い…」
男は大きく腕を振りかぶった。
「安心しろ、次の瞬間には何もわからなくなる」
「いや〜〜!!」
男が腕を振り下ろそうとした瞬間。
「待てぇい!!」
どこからともなく声が…。
「あ、今回は雑居ビルの上だ」
というわけでもなく、野次馬の一人が指差した先の五階くらいまである雑居ビルの屋上に声の主が居た。
声の主の正体は顔全体を覆うほどのガスマスクに上下が真っ赤な半袖、短パンに特攻服にマントを羽織った姿の男だった。
「はっはっは!私たちが来たからにはもう安心だ、お嬢さん」
「うっせぇ!!てめぇの変態衣装はもう見飽きたんだよ!!てか、スネ毛くらい剃りやがれ!!」
そんな罵倒を飛ばしながら、屋上に居る男目掛けてナイフを投げた。
屋上の男までの距離の半分くらいでナイフが何者かによって撃ち落された。
「ちっ!スナイパーか…」
「ナイスだ!グリーン」
屋上の男は自分の後ろにいるお手製仮面ライダー着て、狙撃仕様のライフルを構えている人物に向けてビッとサムズアップ。
「よし!皆逝くぞ!とうっ!」
ガスマスクの男を先頭にさまざまな服装をしている者たちが雑居ビルの屋上から4人ほど続けて飛び降りて行った。
スタッと全員が飛び降りて着地したところでガスマスクの男を中心にポージングを取り始めた。
「いつも皆の心の隣人!ガスマスクレェェェェェェェッド!!!」
金切り声を上げるほど必要以上に叫ぶ自称ガスマスクレッド。
「近隣のご近所迷惑は鉄拳制裁!ナックルイエロー!」
声が若干低く渋めの声で頭に風呂敷をバンダナみたいに巻いて鼻めがねを装着し、某戦隊もののような黄色いスーツにネクタイを付けている。
「あなたと相手の溝を深めます!アサシンブルー!」
女とも男とも判断がつかないような声でシルクハットを被り、視界が完全に塞いでいる目隠しの上の右目にあたるところに眼帯を付けていて、全身に青い包帯を捲いている。
「君たち私たちの何でも破壊屋さん!スナイパーグリーン!」
明らかに女性の声で、さっきナイフを撃ち落した必要以上に緑色な仮面ライダースーツを着ている人物である。
「全ての方々の終末案内人!ネガティブブラック!」
聞いた感じはごく普通の男性の声に黒いゴミ袋に穴をあけて被っており、左半分が武者鎧、右半分が騎士鎧という奇妙な鎧を着ている。
「「「「「我ら!!暴徒鎮圧戦隊デリンジャー!!」」」」」
全員がポーズをとったと同時に突然意味もなく彼らの後ろで大爆発が起こった。
その爆発に野次馬が巻き込まれるのはもはや巻き込まれた野次馬の自己責任になっているのでほぼ無視の方向である。
「ま、また来ちゃったよ…この人たち…」
顔をさっきより引き攣らせながらデリンジャーを見て小さく呟く静菜。
「ええい!いつもながら「というわけで、カムバック!ご町内ロボ!」って、話し聞けよ!!」
男の言葉を無視してガスマスクレッドが空に向かって高らかに叫んだ。
それ言葉に反応して遠くからそこら辺にある民家が無骨にくっついたロボットが飛んできた。
すぐさまデリンジャーたちはとうっと叫び、ジャンプしていつのまにかロボットに乗り込んでいた。
「くそ!毎度のことながらやってやるぜ!!」
『いくぞ!!』
ご町内ロボの拳といつのまにか持っていた男の大根がぶつかり合おうとした瞬間。
「待てぇぇぇぇぇい!!!」
その声に反応してご町内ロボと男の動きがぶつかり合う前に止まり、声の方角を見た。
見た先には年季の入った青色の和服を着て杖を持っていて70はいっているだろうが、その割に健康そうな老人がいた。
「「「「「「「ちょ、長老!!!」」」」」」」
周りにいた野次馬たちは声を揃えて驚いた。
男とご町内ロボも長老の方を見て固まっていた。
「まったく、いつも騒ぎを起こしているようじゃが…まさかロボットまで持ち出すとわな…」
長老はふう…、とため息を付いてさっきから対峙している二人…もとい一人と一機をそれぞれ見た。
「もう…いや、今回はお互い退いてはくれんかの?」
などと、穏やかそうに問い掛けてはいるが、長老からでている有無を言わせぬ雰囲気に周りは静まり返っていた。
対峙していた男とロボットも自然とお互い身を退いた。
「ふむ…一件落着じゃな」
長老は一人頷いてから、もう一度それぞれを見てからどこかへと歩いて消えていった。
「「「「「「「………」」」」」」」
野次馬たちは呆然と長老の消えていった方向を見たまま固まっていた。
「はあ…静菜、帰るぞ…」
「……あ、うん…」
男は静菜に声をかけ、心底疲れたように二人で歩きながら家に帰ろうとした。
野次馬たちもそれに合わせてそれぞれに散り始めた。
ご町内ロボがいつのまにか消えているのもご愛嬌である。
デリンジャーの立っていた雑居ビルの影に人影が周りに気づかれずにいままでの騒動を覗いていた。
「……ふっ…流石はワシの強敵と書き好敵手と書いたり宿敵と書いてのライバルじゃな…」
人影は騒動が終わった今でも薄く笑いながら町並みを見ていた。
「まあ、次の勝負が楽しみじゃな…」
そして、次の瞬間には音も無く人影が消えていた。
そのころ、男と静菜が帰った先では…。
「なにやってたんだ!!!俺は!!!てか、てめぇもいい加減その手癖直せやぁぁぁぁぁぁ!!!」
「御免なさい!御免なさい!春治くん御免なさい!!」
最後の最後で名前が出た男―――春治たちの家では土下座をして必死に謝っている静菜と今にも静菜に食い掛からんとする春治を止める彼らの家族を目撃できたという…。