『琉歌(りゅうか)詞華集』016
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■     琉歌(りゅうか)詞華集−016 2001/04/28 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■  ★ まぐまぐで読者登録された方へ送信しています。★ ******************************************************* □□■ ある研究者の死 ■□□ 当マガジンに登録して下さっている皆さん、まだこのマガジンのこ とを忘れずにいて下さったでしょうか。前号を出して、三ヶ月以上 が経過いたしました。配信者として、このマガジンのことが頭を離 れたことは無かったのですが、時間だけが経過してしまいました。 ひょっとしたらまくまぐ側でこのマガジンの配信が停止されている かも知れないな、とも思っています。だから、今書いているこの号 も、皆さんのお手元に届くのかどうか、すこし不安です。 さて、先月の中ごろ、一年ぶりに沖縄を訪れました。目的は、琉球 大学国文科の先輩で、大学時代からお世話になっている沖縄国際大 学で琉球文学を教えておられた嘉手苅千鶴子先生の御霊前に手を合 わせるためでした。先生が、2月26日に突然倒れられたのを知った のは、偶然のことでした。琉球大学に勤めている後輩からの別件の メールの中で、職場で他の先生が話しているのを聞いたと知らせて くれたのです。びっくりした私は、その夜、琉球大学で琉球文学を 教えている池宮正治先生のところに電話いたしました。 池宮先生のは、自分も仕事で行けないけれども、病状は良くないと 聞いていると教えて下さいました。そのあと、回復されることをこ ころより祈っていたのですが、3月4日の深夜に亡くなられたのを 知ったのは、琉球大学時代の友人からの電話ででした。結局回復さ れずに、逝かれたのとのこと。嘉手苅先生、昭和24年生まれで、享 年51歳でした。私は、嘉手苅先生の直接の教え子というわけでもな く、京都に来てからは、一年に一回ほど日本歌謡学会の大会にひょ っこりと姿を現す先生とお会いしたり、私が沖縄に行くときに連絡 して、時間があれば会っていただくほどのお付き合いでしたが、先 生の訃報にすくなからずショックを受けました。 嘉手苅先生は、1972年に琉球大学を卒業後、専修大学大学院に進み 、古事記や日本書紀の歌謡、万葉集などを学んだと、沖縄タイムス 社の訃報に記されています。専修大学では、万葉集研究の権威であ る伊藤博氏に学ばれました。私が大学に入学したのは、1978年です から、先生が大学院を修了してから沖縄に帰り、間もない頃のこと になります。たしか、大学の3年のころ、非常勤講師として琉球大 学に来られていて、今は首里城となったキャンパスで万葉集を教え ていただいたことがあります。学問に厳しい、若き教師でした。 そのとき、嘉手苅先生への献呈の辞の入った、恩師伊藤博氏の大著 『古代和歌史研究』のうちの何冊かを見せてもらったのことをよく 覚えています。恩師の学問への態度を語る嘉手苅先生の姿が印象的 でした。そして、嘉手苅先生と私がもっとも接する場が、このマガ ジンでも取り上げたことがあると思いますが、『ひめゆりの塔をめ ぐる人々の手記』(角川文庫)を書かれた仲宗根政善先生のお宅で 毎週金曜日に開かれていた、おもろ研究会でした。大学2年の5月 頃から、嘉手苅先生をはじめ、池宮先生、今は静岡大学に移られた 関根賢司先生などが参加する会の末席を汚していました。 この会への参加が、私が琉球文学を専攻する直接のきっかけになっ ています。今では、琉球大学や沖縄県立芸術大学、それに嘉手苅先 生などのご努力により沖縄国際大学に琉球文学を学ぶことができる 大学院ができましたが、日本文学のなかでも特殊な領域である琉球 文学の研究を続けようとする者は、かつて琉球文学を学ぶことが唯 一できる大学院をおく法政大学を除けば、日本文学関係の大学院に 進学しても、他の領域を学びながら、平行して自分で琉球文学を研 究することになります。法政大学に進まなかった私にとって、嘉手 苅先生はそういう意味で、その苦労がわかって頂ける数少ない先輩 でした。 嘉手苅先生の最近の研究テーマが琉歌の基礎的な研究でした。この マガジンの最初にも書きましたように、たとえば日本文学の他の分 野の研究に比べても、まだまだ遅れています。とくに、文学研究の 基礎となるテキストの研究でさえ、まだまだです。嘉手苅先生は、 これを積極的に進めておられました。私に会うと、いつも「末次、 今何やってるの」と聞かれました。そして、自分はこういうことや ってるのと、最近は琉歌の話をいつもされていました。その研究の 成果は、たとえば、岩波書店から出ている『日本文学史』第15巻( 琉球文学、沖縄の文学)に収められている「琉歌の展開」などに見 ることができます。 なかなか手を出せないでいた琉歌に取り組むきっかけをつかみたい と、このマガジンを始めたのも、嘉手苅先生のお仕事に刺激されて のことでした。でも、あまり自信がなく、まだ嘉手苅先生にこのマ ガジンのことを知らせていなかったのですが……。じつは、嘉手苅 先生ご自身、あるいはその教え子の方々をお誘いして、何人かで出 せないかなどとも思っておりましたが、公務などでたいへんお忙し そうな先生にこの一年の間そのことを言い出すことができないまま で終わりました。 嘉手苅先生を失ったことは、琉歌、琉球文学研究にとって大きな痛 手です。経済的に行き詰まってきた世の中で、文学研究などはその 必要性を問われる傾向が強いのですが、たとえば人の心のなかを知 ろうとするとき、言葉の表現である文学を通して入っていくことで 見えてくることは多いはずです。琉球文学研究、琉歌研究もそうい う意味で、そのほんとうの意味を問われる大切な時期を迎えている と思われます。そのような時期に、大切な先輩を失ったことの意味 を、日を追うに連れて強く感じるようになっています。 最後になりましたが、嘉手苅先生のご冥福をこころよりお祈り申し 上げます。 ****************************************************** ▼ ひとこと ▼ さて、昨年の5月に、週刊を目指して配信を始めたこのマガジンで すが、昨年の秋に一度息切れしてから、まともに回復しないうちに 、一年が経ってしまいました。そのうちに、このような拙い内容で ありながら、読者の方からありがたい励ましのメールをいただいた こともありました。また、あるホームページでは、自分の愛読マガ ジンとして、名前を記して下さる方が居たりしました。 300名から始まった購読者の数も、いつのまにか400名を越えました 。最初は50名もいたらと考えておりましたから、予想を超える方々 に迎え入れていただいたことになります。それにもかかわりませず 、なかなか出すことができずに失礼いたしました。とりあえず、今 号で配信を終了したいと思います。 じつは、今年の一月から、私が所属する歌謡研究会から、週刊で「 歌謡(うた)つれづれ」というメールマガジンの配信を始め、この 編集を私が行なっております。10名ほどの研究者が交替で各号を担 当するという形です。いままで私は編集係として執筆を担当するこ はありませんでしたが、琉歌詞華集で取り上げる内容を、こちらで 年に何回か書くという形で引き継ぎたいと考えます。登録HPのURLは 下記の通りです。    http://web.kyoto-inet.or.jp/people/suesato/ これは、いままでこのマガジンの登録ページのURLでしたが、「歌謡 (うた)つれづれ」専用に最近変更いたしました。もう使うことは ありませんが、琉歌詞華集のページは下記フッタに記すに移動いた しました。できれば、ここにこれまでのバックナンバーを載せたい と考えております。 もしよろしければ、「歌謡(うた)つれづれ」をご購読願えればと 存じます。内容は、古事記のうた(歌謡)から、「Let it be」、a ikoに及びます。琉歌も、そのような広い歌謡(うた)の広がりの中 にあることを知ることができます。いまのところ、毎週欠けること なく配信されています。 一年間の間、このような拙いマガジンにお付き合い下さり、ほんと うにありがとうございました。深くお礼申し上げます。 ******************************************************* ※※ ご 注 意 ※※ このメールマガジンは、筆者ができうる限りにおいて学問的な厳密 さを前提として記しているつもりですが、メールマガジンという媒 体の性質上、かなり端折って記さざるを得ません。ここでの記述に 興味をお持ちになり、さらに深く追求なさりたい場合は、その方面 の学術書などに直接当たって下さるよう、お願いいたします。 上記の理由で、ここには筆者のオリジナルな考えが記されているこ ともあります。よって、ここから引用される場合は、その旨お記し ください。 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ ▲電子メールマガジン:「琉歌(りゅうか)詞華集」 ▲まぐまぐID:0000033858 ▲発行人:末次智 ▲E-Mail:suesato@mbox.kyoto-inet.or.jp ▲Home Page:    http://www.kyoto.zaq.ne.jp/suetsugu/ ※購読の中止、配信先の変更は上記Webから可能です※ ▲Back Number http://jazz.tegami.com          /backnumber/frame.cgi?id=0000033858       ※上記Webにて閲覧可能です※ □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□




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