『琉歌(りゅうか)詞華集』011
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 琉歌(りゅうか)詞華集−011 2000/07/24 (9月まで不定期刊) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ★ まぐまぐで読者登録された方へ送信しています。★ ******************************************************* □□■ サミット首脳と首里城 ■□□ 沖縄でのサミットが終わりました。そのあたりの情報に私はあまり 熱心に眼を通していたとは言えないのですが、ちょっと印象的な写 真を眼にしましたので、メルマガを書く気になりました。 朝日新聞(関西版)7月23日の夕刊の第一面に、「首里城をバックに 記念写真に納まるG8首脳」の写真が出ていました。この場面はおそ らくテレビでも放映されたのでしょうが、あいにく見ていません。 でも、写真を見た瞬間、奇妙な違和感を覚えたのです。沖縄という 特定の地域を象徴する代表的な建造物の前に、地球を代表する為政 者が顔を並べているという図に、です。 この対立はどのサミットでも見られるのでしょうが、首里城の御庭 (ウナー)は、どちらかといえば周囲に閉じられたオモロというう た表現と結びつく空間だと、私が認識しているせいだと思います。 琉球王国固有の意味空間に降り立った、コスモポリタンたち。個々 の首脳は各地域の価値を体現する存在であり、コスモポリタンでは ないのでしょうが、彼らが揃うサミットという祭が、コスモポリタ ン的な、地球的な思考に裏打ちされていることは間違いのないこと ではないのでしょうか。 たしかに一方で、御庭は琉球王を承認するために来る中国の使節を 歓待する宴を催す場でもあり、その意味では、当時から国際的に開 かれた空間だとも言えます。政治を劇としてとらえる文化人類学的 な視点(たとえばジョルジュ・バランディエ『舞台の上の権力』筑 摩文庫)からは、政治の舞台装置という本来の機能を、首里城はみ ごとに果たしのかも知れません。 さて、首里城をうたった琉歌はたくさんありそうなのに、私が一覧 した限りでは、それほどありませんでした。数少ないうちの一首。 ******************************************************** ▼△▼ 首里城に向かう女の琉歌(本文・読み・共通語訳) ▼△▼ ■相聞歌(吟詠の部)  ◎2068番   七門越えて九門に   ナナジョ クヰティ クジョニ   わないお待ちしゆすが ワネ ウマチ シュスィガ   なまで来ぬ里やにや  ナマディ クヌ サトゥヤ ニャ   よそつれて      ユス ツィリティ  □読人しらず(ヨミビトゥ シラズ)  ○沢山の門を越えて、   約束の九門の場所にお待ちしているけれど、   一向姿を見せないあの方は、   もしや他の女をつれて遊んで、私のことを忘れたのでは    あるまいか。 (島袋盛敏・翁長俊郎『評音・評釈琉歌全集』武蔵野書院 1968) ------------------------------------------------------- ▲▽▲ 解説など ▲▽▲ 「七門越えて九門に」は、何重にも設けられた門を(壁を)苦労し て越えることを示し、これは結果的に首里城の偉容を表現していま す。『琉歌全集』の「語意」は、もとは中国で城を表現する語とし て使われていたと、しています。ここでは、この句で首里城という 空間を示します。首里城には、十ほどの門があったことが知られて います。 「わない」は「わん(我)」と係助詞「や」が音融合した形で「私 は」の意味です。「お待ちしゆすが」は「お待ちするけれども」、 「なまで」は「いまだに」の意です。「里」は、女性から男性の恋 人を指すときに用い、「にや」は敬称辞です。「よそ」は「他の人 」で、ここでは自分以外の女性を指します。 劇を演じる舞台は、観客の居る空間とは分けられなくてはなりませ ん。このことにより、観客側の空間では成立しないようなことが舞 台では起こりうるのです。「七門越えて九門に」の表現は、だから 劇場としての首里城という、一般からは隔絶された空間をうまく表 現しています。だから、御庭は世界の首脳が一同に会すのにまさに 最適の空間なのです。 この場合は、女性が会いに来るのだから、男性は首里城内の者、役 人などになります。ところが、このうたの類歌(107番)では、王城 に勤める女性に男性が会いに来ることになっています。首里城正殿 の2階やその背後には内原と呼ばれる女官や神女が居住する空間が ありました。王以外は入れない空間内の女性に会いに来る男性とい うストーリーの方が、タブーを犯すテーマを内包することになり、 うた物語にふさわしいような気がします。 先進国の首脳たちは、そのような空間を背後に背負った表舞台に勢 揃いしているのです。その空間を、上記のうたはまさに琉歌的に表 現していると言えます。 ****************************************************** ▼ ひとこと ▼ サミットは沖縄にどのような動きをもたらすのでしょうか。これか ら沖縄に、私は注目したいと思います。 ******************************************************* ※※ ご 注 意 ※※ このメールマガジンは、筆者ができうる限りにおいて学問的な厳密 さを前提として記しているつもりですが、メールマガジンという媒 体の性質上、かなり端折って記さざるを得ません。ここでの記述に 興味をお持ちになり、さらに深く追求なさりたい場合は、その方面 の学術書などに直接当たって下さるよう、お願いいたします。 上記の理由で、ここには筆者のオリジナルな考えが記されているこ ともあります。よって、ここから引用される場合は、その旨お記し ください。 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ ▲電子メールマガジン:「琉歌(りゅうか)詞華集」 ▲まぐまぐID:0000033858 ▲発行人:末次智 ▲E-Mail:suetsugu@sg-jc.ac.jp ▲Home Page: http://www.sg-jc.ac.jp/suetsugu/sue-suetsugu.exp.htm ※購読の中止、配信先の変更は上記Webから可能です※ ▲Back Number http://jazz.tegami.com          /backnumber/frame.cgi?id=0000033858       ※上記Webにて閲覧可能です※ □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□




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