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琉歌(りゅうか)詞華集−008 2000/06/29 (週刊)
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□□■ キジムナーとトントンミー ■□□
前号のヘッダの刊行日と実際の刊行日がずれました。配送のさい誤
って予約し、これをキャンセルしたつもりだったのですが、配送さ
れてしまいました。毎週木曜の発行をいちおう目指しています。
さて、我が家のガジュマルは、風呂場で青々とした葉を茂らせてい
ます。子どもには「キジムナーの樹」として親しまれています。立
て札の説明ではなく、絵本の物語としてガジユマルとキジムナーの
関係をすでに知っていたからです。
京都北部に住む絵本作家の田島征彦は、名作『じごくのそうべえ』
(童心社)で知られますが、彼の作品のひとつに『とんとんみーと
きじむなー』(同社)があります。これは、ガジュマルに住むキジ
ムナーと、トントンミーと呼ばれる少年の物語です。
少年の呼び名トントンミーは、ミナミトビハゼの方言名で、マング
ローブ湿地帯の木の根っこを、胸びれを腕のように立ててなかなか
上手に飛び回る姿から、和名のトビハゼの名がつき、さらに方言で
もトントンミーと呼ばれた、ということです。私も、西表島のマン
グローブの根元に、そのユーモラスな姿を見たことがあります。
村人の仕事を手伝って食べ物を分けてもらいながら、病気の母親を
看ている少年は、走り回っていることからトントンミーと呼ばれま
す。その少年が、キジムナーの友達である本物のトントンミーを母
親のために焼いて食べたために、キジムナーから家にハブを投げ込
まれます。しかし、少年のうたの力によりハブは、三線や花に変わ
ってしまいます。シマウタの力がキジムナーと少年を結びます。
仲良くなり、海で遊んでいた少年とキジムナーを、おおだこがおそ
いますが、とげを葉っぱにもち赤い実をつけたアダンの木にキジム
ナーが姿を変えて、少年を救います。そのアダンは、沖縄の島々に
広がります。つまり、アダンのはじまりを説明する物語なのです。
この話は、民話をもとに田島征彦が創作したもののようです。(そ
のへんの事情をご存じの方がいたら、お知らせ下さい)アダンも、
ガジュマルと同様、琉球弧のいたるところに見られる樹です。
といことで、アダンのうたをひとつ。
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▼△▼ アダンの琉歌(本文・読み・共通語訳) ▼△▼
■金武節(キンブシ)
◎146番
わすた山原の ワスィタ ヤンバルヌ
あだん葉のむしろ アダンバヌ ムシル
敷かばいりめしやうれ シカバ イリミショリ
首里の主の前 シュイヌ シュヌメ
□恩納なべ(ウンナ ナビ)
(島袋盛敏・翁長俊郎『評音・評釈琉歌全集』武蔵野書院 1968)
○私たち山原の
あだん葉のむしろです。
これを敷いたらお入り下さい、
首里のお方。
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▲▽▲ 解説など ▲▽▲
作者の「恩納なべ」は、古典琉歌を代表する伝説の歌人で、18世紀
の前半に活躍したとされます。とくに雄大な自然をうたったもので
、なべの作とされる有名なうたがありますが、なべのうたについて
は、また別に触れる機会もあるでしょう。ただ、『古今琉歌集』で
は、作者について「読人しらず」となっています。
アダンは、タコノキ科の匍匐性常緑樹で、トカラ列島を北限とする
南方の植物です。海岸の防風、防潮、砂防林としてよく用いられま
す。琉球弧の海岸では、パイナップルのような赤い実をつけた姿を
よく見かけます。その実と幹のやわらかい芯は食べることができる
し、幹は家の材料にもなると、田島征彦も物語に記しています。
カジュマルのような支柱根を持ち、これからは繊維がとれ、敷物の
材料などになりました。ここでは、首里の男性にアダンの繊維で編
んだむしろしか勧められないことを、田舎的なもてなしとして恥じ
ています。山原はヤンバルで、沖縄本島北部を指し、今でも使われ
ます。勧めるのはいうまでもなく女性です。
「いりめしやうれ」は「お入りなさい」で、「めしやうれ(召しお
われ)」 は敬意を表す補助動詞です。「主の前」は、士族の成人男
子に対する敬称です。つまり、ヤンバルの女性が「首里のだんな様
」への尊敬を示しています。
首里から見ると田舎である山原のアダンの敷物を敷くことに引け目
を感じるはずですが、このうたにそのような趣がないところを、島
袋盛敏は、恩納なべという伝説の作者の性格に帰しています。なべ
の作かどうかはともかく、たしかに「わすた(我ら)」とあえて付
けるところに、うたい手の自負のようなものが見えます。
アダンは、首里の士族にではなく、庶民の生活に密着した植物だっ
たことが、このうたからわかります。
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▼ ひとこと ▼
アダンを、支柱根をもつその姿から「タコノキ」と呼ぶそうです。
カジュマルの鉢植えに書かれていた「多幸の樹」はアダンにむしろ
ふさわしいような気もします。アダンの鉢植えなんて売り出さない
かなー。
学会発表はどうなったかって?まあ、一週間前なのにこれを書いて
いるわけですからねー。発表がうまくいったかどうか、次号で触れ
させていただきます。こうご期待。
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