『琉歌(りゅうか)詞華集』007
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 琉歌(りゅうか)詞華集−007 2000/06/22 (週刊) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■  ☆まぐまぐで読者登録された方へ送信しています。☆ ******************************************************* □□■ ガジュマルの鉢植え ■□□ また、訂正です。前号で取り上げました(財)兵庫沖縄協会の『榕 樹』について、「一部40円」と記しましたが、「一部80円」の誤り でした。ここに訂正いたします。 さて、先日大手スーパーのグリーンコーナーで、なんとガジュマル の鉢植えを見つけ、思わず買ってしまいました。ガジュマルはクワ 科の常緑高木で、幹や枝から多数の根を空中に垂らします(気根と いいます)。屋久島、種子島が分布の北限で、琉球列島はもちろん 、熱帯アジア、オーストラリアにまで分布するそうです。つまり、 熱帯の樹木です。 琉球弧ではいたるところに見られます。ちなみに、鉢植えの値段は 970円でした。直径7-8pの小さな鉢に大きな根(気根が地面に着い て成長したもの、「支柱根」という)を何本も下ろし、幹は切り取 られていましたが、その上に緑の葉っぱが茂っています。この熱帯 の樹木が、はたして京都でうまく育つでしょうか。 鉢に付いた立て札には、次のようにありました。「FICUS RETSUSA ガジュマル 多幸の樹 木の精(キジムナー)が宿り、多くの幸福 をもたらすといわれています。」FICUS RETSUSAは学名です。左の「 多幸」は、幾つもの根を垂らす姿を「タコ」と見なして、洒落てい るのでしょうか。 ガジュマルに木の精キジムナーが住むというのは、沖縄ではよく知 られた話です。キジムナーの愛すべき性格については、たとえば、 仲宗根(谷上)みいこの名作漫画『ホテルハイビスカス』第一巻( ボーダーインク刊)の「第二話 オバケハカセみえこ」などをご覧 下さい。小さなカッパに似た姿で描かれています。私のキジムナー のイメージには、この漫画の影響が大きいようです。 昔話などを見ると、キジムナーが幸福をもたらすとはどうも限らな いようです。首里に住んでいたころ、首里城の跡地に作られた旧琉 球大学のキャンパスには多くのガジュマルが茂っていて、とくに夜 男子寮を抜け出してその下を歩くのが好きでした。キジムナーに会 えそうな気がしたからです。もっとも、ハブが落ちてきそうな気も しましたが……。 ということで、ガジュマルを詠んだ琉歌を探したら、ありました、 ありました。 ******************************************************** ▼△▼ ガジュマルの琉歌(本文・読み・共通語訳) ▼△▼ ◇たをかね節(トォカニブシ)  ◎1324番   手さじの長さや   ティサジヌ ナガサヤ   なげ長さ庭に    ナギ ナガサ ニワニ   植ゑてるがじまるの ウヰテル カジマルヌ   ひげの長さ     フィジヌ ナガサ  ○手巾の長さは   長いけれど、それより長くてびっくりするのは庭に   植えているがしまるの   ひげの長さだ。    (島袋盛敏・翁長俊郎『評音・評釈琉歌全集』武蔵野書院 1968) ------------------------------------------------------- ▲▽▲ 解説など ▲▽▲ 「手さじ」は手拭いのことです。沖縄では近代まで、恋する気持ち のあかしとして恋人に送る風習があったそうです。琉歌にはそのよ うな例も見られますが、これはまた別の機会に。ここでは、長いも のの例えとして用いられています。 ガジュマルの木で特徴的なのは、やはり幹や枝から垂れている気根 です。これを「ひげ」と表現してるところにこのうたの眼目があり ます。ガジユマルを見たことのある方なら、この表現がぴったりな のがおわかりになるでしょう。『評音・評釈琉歌全集』の評釈で、 島袋盛敏は「細いひげみたようなものが沢山ぶら下がった光景はじ つに天下の奇観である」と述べています。 沖縄では、森の中や、集落の道沿い、あるいは古い家などにガジュ マルの古木をみることができます。このうたも、家に生えているガ ジュマルをうたっています。その下に、妖怪キジムナーが住むとい うのです。このことから、ヤマトゥにおける柳の下の幽霊を、私は 思い起こします。垂れ下がっていることと、超自然的な存在の組み 合わせが似ていると思いませんか。比較可能だと思うのですが。 ただ、柳の下の幽霊がどちらかといえば陰気なのに対し、ガジュマ ルとキジムナーの関係は、もっと開放的です。我が家のガジュマル には、まだ気根がほんの少ししか垂れていません。がんばって育て て、小さなキジムナーが住めるようになれば、などと思いながら鉢 植えを眺めています。 ******************************************************* ▼ ひとこと ▼ ガジュマルを眺めていると、沖縄に居るようで、なんともいえずい い気持ちになります。私には「多幸の樹」のようです。 そういえば、キジムナーをうたった琉歌などというものは、あるの でしょうか。やっぱり、ないかなー。 ******************************************************* ※※ ご 注 意 ※※ このメールマガジンは、筆者ができうる限りにおいて学問的な厳密 さを前提として記しているつもりですが、メールマガジンという媒 体の性質上、かなり端折って記さざるを得ません。ここでの記述に 興味をお持ちになり、さらに深く追求なさりたい場合は、その方面 の学術書などに直接当たって下さるよう、お願いいたします。 上記の理由で、ここには筆者のオリジナルな考えが記されているこ ともあります。よって、ここから引用される場合は、その旨お記し ください。 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ ▲電子メールマガジン:「琉歌(りゅうか)詞華集」 ▲まぐまぐID:0000033858 ▲発行人:末次智 ▲E-Mail:suetsugu@sg-jc.ac.jp ▲Home Page: http://www.sg-jc.ac.jp/suetsugu/sue-suetsugu.exp.htm ※購読の中止、配信先の変更は上記Webから可能です※ ▲Back Number http://jazz.tegami.com           /backnumber/frame.cgi?id=0000033858       ※上記Webにて閲覧可能です※ □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□




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