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琉歌(りゅうか)詞華集−003 2000/05/18 (週刊)
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▼比嘉康雄さん▼
先週から、朝日新聞では、ノーベル賞作家の大江健三郎さんが「
沖縄の『魂』から」という連載を始めています。よく知られた名著
『沖縄ノート』(岩波新書、1970年)の続編だそうです。沖縄に関
心のあるみなさん、ぜひご一読を。
今回書きたいのは、そのことではなく、その連載第2回目の日(
おそらく16日、切り抜きに日付を書き忘れてます)の新聞の訃報
覧に「比嘉康雄」氏の名前がありました。
比嘉さんは、沖縄を代表する民俗写真家で、とくに奄美を含む琉
球弧の祭りを撮った、一連の写真集『神々の古層』全12巻(ニラ
イ社、1989-1992)は、モノクロの作品のなかに琉球弧の信仰世界の
深層を写し出すかのようで、すばらしいです。これもぜひ一度見て
下さい。
私は比嘉さんとはほとんど面識がないのですが、奄美大島本島の
秋名という集落で、豊穣をもたらすとされるショチョガマとヒラセ
マンカイと呼ばれる祭りを見に行ったさい、台風で来ることのでき
なかった大阪の恩師の代わりに、私たちを名瀬から秋名まで車で連
れて行って下さり、祭の案内をして下さったことを思い出します。
記事によればまだ61歳とのこと、ご冥福をお祈りいたします。
個人的なことを書いてしまいましたが、沖縄の、そして、琉球弧
の世界に深く触れるには、その信仰に触れざるを得ないと思います
。琉歌も、ある意味で例外ではありません。
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▼聞得大君のうた(本文・読み・共通語訳)▼
◎聞得大君の チクィイ ウフジミヌ
おすぢお光りに ウスジ ウフィカリニ
旅の道ひろく タビヌ ミチ フィルク
行ぎやい来ぎやい ウジャイ チチャイ
□浦添王子朝熹
○聞得大君御殿にお祭りしてある神のご霊光のおかげて、旅の道
が広く開かれ、無事に行ったり来たりすることができて、誠に
めでたいことである。
(島袋盛敏・翁長俊郎『評音・評釈琉歌全集』武蔵野書院 1968)
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▼解説など▼
聞得大君は「きこえおおきみ」で、「きこえ(聞こえ)」は世に
広く知られたという意味で、「大君」(偉大な君)をさらに形容
する語です。君は、王府において宗教的な側面、つまり神に仕える
女性(神女)のことです。
ある時期以降の、琉球王府における最高の神女(巫女)です。実
際にはそうでなかったことが多いのですが、理念的には王の姉妹が
就任するとされ、王を霊的に守護します。琉球王国においては、聞
得大君を頂点に、王府の高級神女、それに村々の神女というふうに
、ピラミッド型に、儀礼を司る女性が組織化されました。
ヤマトには、姉妹がその男性兄弟を霊的に守るとする信仰があっ
たとされますが、それが琉球においてはこのような形で国家の制度
として現れました。よく知られているのは、男性兄弟が旅をするに
さいし、髪の毛を切って渡し、それによって旅の安全を霊的に守っ
たとする例です。このうたの背後にもそういった習俗があるかも知
れません。その聞得大君が祭る御殿があったのですが、ここでは、
そこで「お祭りしてある神の」という訳がついていますが、しいて
そのように訳す必要はないと思います。
その聞得大君の霊力で、旅に出た者が守られていることよ、という
内容です。作者の「浦添王子朝熹」(1805-54)は、近世を代表する
知識人で、漢詩や和歌に通じ、国相にもなっています。
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▼ひとこと▼
第3回目にしては、ちょっとヘビーな歌ですが、比嘉さんの訃報
に引っ張られたでしょうか。
サミットを直前にして、これからマスコミで沖縄についての情報
がさまざまに流れると思います。サミットそのものよりも、それが
沖縄にどのような影響を与えるのかを見守りたいと思っています。
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