『歌謡(うた)つれづれ』046
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■    歌謡(うた)つれづれ−046 2002/01/17 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■    ★ まぐまぐで読者登録された方へ送信しています。★ ************************************************************ □□■ 新しいスタートを「すたすた」と…… ■□□          末次 智(suesato@mbox.kyoto-inet.or.jp) 久しぶりに登場いたしました、編集子こと末次です。『歌謡つれづ れ』読者の皆さん、あけましておめでとうございます。なにをいま さらとお思いでしょう。でも、なんといっても、今年最初の配信で すので、お許し下さい。昨年は、お世話になりました。今年も、こ のメルマガをよろしくお願いいたします。昨年末の45号で、今年前 半は執筆者の「歌謡、私のベスト3」というテーマを載せると予告 しましたが、最初の今号だけは、それとは別に、歳の初めらしい話 題から入りたいと思います。歳の初めといえば、明るく、めでたい 話題です。 歌謡研究会の例会では、毎回歌謡についてのいろいろな発表がある のですが、発表者と聞き手それぞれが専攻する歌謡のジャンルが違 っても、いろいろと刺激を受けることがあります。とくに歌謡は広 いジャンルにまたがっていますので、なおさらです。また、発表内 容に印象に残る事例があったりします。そのなかの一つ。このメル マガの執筆者の一人である、小野恭靖氏の発表のなかで印象に残り 、私が今でも時折思い出すものに「すたすた坊主」というのがあり ます。最初聞いたときには「ほんとにそんなの居るの」と耳を疑い ました。 『角川古語大辞典』第3巻の「すたすた坊主」の項目には、次のよ うにあります。「近世の物乞いの一種。願人坊主の一態。寒中に裸 体で、頭に縄の鉢巻をしめ、腰にしめ縄を腰簑のように巻き、手に は、銭五ないし七文を串に貫き、三ないし五寸の竹を割りかけたも のに挟んで持って振り鳴らし、あるいは破が扇に錫杖を持って、歌 をうたい、踊りながら家々を物乞いして歩いた。」 また、平凡社の『世界大百科事典』「願人坊主」(山路興造執筆) の項目には、1842年(天保13)の町奉行所への書上が引かれていて 、それには「願人と唱候者,橋本町,芝新網町,下谷山崎町,四谷 天竜寺門前に住居いたし,判じ物の札を配り,又は群れを成,歌を 唄ひ,町々を踊歩行き,或は裸にて町屋見世先に立,銭を乞」とあ ります。つまり、あえて奇態な格好をし、物乞いをした、門付芸人 の一種なのです。 それにしても、上記の説明を読んだだけでも、その奇妙な姿に惹か れるものがありませんか。『古語大辞典』には、図もあります。こ んなのが群れをなして歩いていたら、人の目を惹きますよね。だっ て、格好だけではなく、歌もうたっていたのですから。その歌詞は 次のようでした。『古語大辞典』から引きます。 ************************************************************ すたすたやうやう、すつたあたまに大鉢巻、ゆんべも三百はりこん で、それゆへのはだかの代まいり、独角力(ひとりずもう)、すも うを取るならかうとるものだ、ゑいなんのこつた                       (『続飛鳥川』) ************************************************************ バクチに張り込みすぎて、着物まではぎ取られた姿、つまり裸の自 分の姿を相撲取りに準えて、笑いのネタにしています。次のような うたもあります。 ************************************************************ すたすたやすたすたやすたすた坊主の来る時は、世の中よいと申ま す、とこまかせてよひとこなり、お見世も繁昌でよひとこ也、旦那 もおまめでよひとこ也、とこまかせでよひとこ也                      (『只今御笑草』) ************************************************************ 前半では、自分たちが来ると良い世の中になるとうたっています。 お店も繁昌し、……、とうたいながら、つまり門付で祝福している わけです。どうです、正月にふさわしい歌でしょう。 絵画資料との関わりで歌謡史を捉えようとしたユニークな著書であ る、小野氏の近著『絵の語る歌謡史』(和泉書院)の102頁にも、上 記のうたが引かれていますが、そこにはさらに冨岡美術館が所蔵す る、禅僧白隠の布袋坊主の絵が、上記のうたと似た画賛とともに紹 介されています。ふくよかで微笑むその姿を見ていると、幸せな気 持ちになります。小野氏にお伺いすると、「すたすた坊主」が布袋 として描かれているのは、白隠が禅画として描いたものだけだそう です。私は、この布袋姿のすたすた坊主がとても好きです。上記書 籍ででも、ぜひ一度ご覧になって下さい。 私がすたすた坊主に惹かれたもう一つの理由は、なんといっても 「すたすた」という擬態語にあります。「すたすた」は本来息せき きって急ぐ様子で、あま良い意味ではないかも知れませんが、ここ ではとりあえず、急ぎ足で歩く様という程の意味だと理解しておき ます。上の歌詞がどのような旋律でうたわれていたかはわかりませ んが、とにかく歌詞をつぶやいてみてください。「すたすたやうや う、……」。どうです、なんか意味もなく元気になりませんか。願 人坊主のなかでも、彼らを「すたすた坊主」と呼んだのはその「所 行」によるとのことですから、この格好でまさに「すたすた」歩き ながらうたっていたのでしょう。うーん、本物を見てみたいっ この「すたすた……」に惹かれたのは、私だけではないようです。 私が敬愛する古典(とくに源氏物語)研究者で、詩人でもある藤井 貞和氏の詩集『ピューリファイ、ピューリファイ!』(書肆山田)を めくっていて、題名がそのものずはりの「すたすたぼうずが」とい う詩を見つけました。最初の2連を引きます。 ************************************************************ 「すたすたぼうずが」   すたすたぼうずが、   あたふたかいもの、   もたもたつりせん、   けたけたねえさん、   のたのたぞうさん、   がたがたピアノを、   ばたばた弾いたら、   ずたずたカアテン、 ************************************************************ 「すたすた」という語に導かれながら、言葉遊びが展開します。谷 川俊太郎氏の『わらべうた』に通じるものがあると言ったら、藤井 氏に叱られそうですが、これはやはり口にのせてみてはじめてその 面白さがわかる詩でしょう。つまり、他の擬態語が「すたすた」に 導かれて展開しています。これを見つけたとき、うれしくなりまし た。そして、つぶやきました。「すたすた、……」。 みなさんも、ご一緒にどうぞ。「すたすたやうやう、……」みなさ んのこの一年が、「すたすた」と、明るく進みますように。 ************************************************************ ▼ ひ と こ と ▼[前号配信数/236] 最初から長くなりました。今年から隔週の配信になります。よろし くお願いいたします。 次の号から「歌謡、私のベスト3」が始る予定です。お楽しみに。 (編) ************************************************************ ▼ ご 注 意 ▼ このメールマガジンは、歌謡研究会のメンバーが交替で執筆してい ます。よって、できる限り学問的な厳密さを前提として記している つもりですが、メールマガジンという媒体の性質上、かなり端折っ て記さざるを得ません。ここでの記述に興味をお持ちになり、さら に深く追求なさりたい場合は、その方面の学術書などに直接当たっ ていただくようお願いいたします。 各号の執筆は、各担当者の責任においてなされます。よって、筆者 のオリジナルな考えが記されていることもありますので、ここから 引用される場合はその旨お記しください。 また、内容についてのお問い合わせは、執筆担当のアドレスにお願 いいたします。アドレスが記されていない場合は、このマガジンに 返信すれば編集係にまず届き、次に執筆担当者に伝えられます。そ れへの返答は逆の経路をたどりますので、ご返事するまでに若干時 間がかかります。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ □電子メールマガジン:「歌謡(うた)つれづれ」 □まぐまぐID: 0000054703 □発行人: 歌謡研究会 □E-Mail: suesato@mbox.kyoto-inet.or.jp (末次 智、編集係) □Home Page: http://web.kyoto-inet.or.jp/people/suesato/ ■ ※購読の中止、配信先の変更は上記Webから可能です。 ■ ※また、歌謡研究会の例会案内・消息、それに研究会の会誌 ■  『 歌 謡 ― 研究と資料 ― 』のバックナンバーの目次も、 ■  ここで見ることができます。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




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