『奄美・沖縄エッセイ』065
■■■■■>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>◆ 2012.04.21 ■
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◆■■ ---------- ■ 奄美・沖縄エッセイ ■◇■
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     □◆□◆□▼ 琉球の怪談 ▼□◆□◆□

ハイタイ。洛中では、いつのまにか桜の花が散り、葉桜になってし
まいました。葉桜の新緑も美しいのですが、職場に向かう叡山電車
からは、比叡山の山麓を平地よりは少し遅れ気味に、山桜の開花が
点々と駆け上っていくのを連日見ることができます。本日あたり、
やっと頂上に近づいた頃だと思います。最近、よく比叡山を眺めて
いますが、山麓は日々その姿を変え、毎日見ていても飽きることが
ないです。

さて、昨年度前期、職場の演習で、「百物語の館」というプロジェ
クトを、近世の仏教文学を研究されている同僚と企画し、その総決
算として、京都マンガミュージアムでの怪談語りの会を学生の手に
よって開催しました。その様子は、ブログにアップされています。
「世にもまじめなお化け屋敷、あるいは、百物語の館」という言葉
で、googleで検索していただくと、トップヒットしますので、もし
、よろしければ、ご覧になって下さい。たくさんの写真も掲載され
ています。私も、かなりの数の投稿をしています。このような演習
を企画したのははじめてのことで、いろいろと勉強になりました。

そのさい、30席ほどの小さな会場で、7月、8月の9日間の公演でし
たが、平日にもかかわらず、たくさんのお客さんが連日入って下さ
り、その人気の高さに正直驚きました。会場には、日本でここだけ
だと言われている、お化け屋敷専門の人形制作を手掛ける岡山倉敷
の中田人形工芸の人形も展示されました。また、公演の期間中、妖
怪研究の権威・小松和彦氏や、小説家の京極夏彦氏の公演も、同ミ
ュージアムで開催されましたが、これも、もちろん大盛況でした。
つまり、怪談ものの人気を知らされたわけです。もちろん、夏に怪
談ですから、まあ、昔から定番と言えば言えるのですが。

さて、なぜこのような古い話を持ち出すのかといいますと、実は、
沖縄でも、怪談がブームだという噂を耳にしたからです。発端は、
タイトルもずはり『現代実話本 琉球怪談』、昨年の2月に沖縄の地
元出版社ボーダーインクから刊行された一冊の本で、サブタイトル
は「闇と癒しの百物語」です。著者は、京都出身の小原猛(こはら
たけし)という方で、実は、私はこの本が刊行された直後、何度か
このメルマガにも登場しているBOOKSじのんの店長天久氏の紹介で
、この方と直接お会いする機会を持ち、本書をいただいたのでした
。内容は、小原さんがいろいろな人から聞いた実話が百話、収録さ
れています。その後、私の職場での講義で、「百物語の館」の学生
達の手で、この本を用いた怪談語りを開いたりもしました。

内容は、本書をぜひご覧いただきたいのですが、「怪談」と銘打ち
つつ、そこに書かれているのは、沖縄の各地でいわば「経験」され
た不思議な話の数々です。怪談というと、亡霊のお菊が皿を数える
番町皿屋敷のタイプの話が有名で、そこには物語が付随しています
。この話を聞き、読む人は、その物語とともに恐怖を楽しみます。
しかし、『琉球怪談』に収録されている話は、フィクショナルな物
語というより、語り手の身近な「経験」になっています。口承文芸
研究の方面では、沖縄の民間説話は、事実に傾斜していることはよ
く知られており、本書を本州のいわゆる「怪談」として手に取られ
た方は、少し違和感を持つのではないかと、私は思っておりました
。よって、この本が沖縄で怪談本として売れるか、少し気になって
おりました。

結果として、この本は沖縄で売れました。昨年に沖縄で刊行された
本としては、もっとも売れた本の一冊と言えます。その証拠として
、やはり同じ「闇と癒しの百物語」のサブタイトルを持つ『七つ橋
を渡って 琉球怪談』という続刊が、今年の2月に刊行されました
。タイトルの由来は本書を見ていただくことにして、ここにも、や
はり語り手の多くの経験が記されています。小原氏のTwitterを拝
見していると、怪談語りの会が沖縄の各地で開かれ、これも盛況を
呈しています。さらに、Usteamでも、著者をメンバーとする「怪談
降臨」という番組が放映され、たくさんのユーザーが視聴していま
し、映像がアップされたYoutubeでも、驚くほどの再生回数を誇っ
ています。

私はこのようなブームとも言える怪談流行に、少し違和感を抱いて
いました。それは、このような話がこうして持てはやされるという
ことは、沖縄での怖い話が内容的に事実に傾いているのに反して、
最近ではどこかフィクショナルなものとして受け取られるようにな
ったからではないかと感じたのです。言い換えれば、楽しみとして
受け取られ、消費されるものになったからではないかと思うのです
。ほんらい事実に傾くということは、それを事実として受け取る人
たちが存在している、少し堅く言えばそのような「共同体」が存在
するということになります。共同体の中では、その話は信じられて
おり、だから、これを楽しんで、娯楽として聴く、読むということ
にはあまりならないのではないか、ということです。

実は、やはりこのメルマガに何度か登場してもらっている奄美大島
の安田ひろぞうさんと、「奄美の怪談」という企画をやったらどう
かと話し合っています。それには、小原さんにも手伝って欲しいと
思っているのですが、しかしその過程で、じっさいに奄美の妖怪(
?)ケンムン、沖縄ではキジムナーですが、これを話題にしたり、
その話を語ったりした場を設定しても、その場に居たくないと、ひ
ろぞうさんは冗談交じりに言うのです。それは、おそらくケンムン
にリアリティー(恐怖)を感じているからです。これは、個人的な
見解というだけではなく、奄美大島本島に住む多くの人たちの感覚
ではないかと思うのです。おそらく、沖縄でも、少し前までは、そ
のような傾向にあったのではないでしょうか。さらに言えば、本州
でもいわゆる「怪談」が流行ったのは、共同体の結びつきが薄れた
近世の都市においてでした。

つまり、沖縄では、口頭伝承など、伝統的な世界を支えてきた共同
体、それをかたちづくる人々のつながりが薄れてきたことを、怪談
ブームが示しているのではないかと思うのです。このメルマガのNo
54で取り上げた「パワースポット」という捉え方、その流行も同じ
傾向からのものではないかと私は思っています。先日、上里隆著/
富山義則写真『沖縄古道』(河出書房新社、2012.03.30)という本
を手に入れました。「沖縄古道」というのは、「熊野古道」を真似
た造語だと思うですが、写真担当の富山氏は沖縄古道を撮影するこ
とをライフワークとしているというのです。富山氏は『琉球怪談』
の小原氏と同じ、本州の人。この本には、沖縄の聖地が取り上げら
れています。地元の人がこの本を手に聖地を訪れる。そこには、外
部の視線によって捉えられた沖縄の姿が表現されています。その表
現を、沖縄の人たちが楽しみとして受け入れるというかたちも共通
しています。
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           ■◇■ あとがき ■◇■

小原さんのTwitter、Facebookを拝見していると、沖縄本島内の聖
地をじつにこまめに訪れています。一昔前なら民俗学の対象となる
はずの場所を、怪談ライター(?)が回っているのです。共同体が
失われたあと、かつて共同体に支えられていた聖地を、人々の記憶
の痕跡を求めて巡るのです。これを、あらたな民俗学と呼んでもい
いのかも知れません。
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