『奄美・沖縄エッセイ』063
■■■■■>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>◆ 2011.11.26 ■
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◆■■ ---------- ■ 奄美・沖縄エッセイ ■◇■
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□◆□◆□▼ 日本一大きな本屋と日本一小さな古本屋 ▼□◆□◆□

ハイタイ。古都では、この時期どこへ行っても、たくさんの観光客で
賑わっています。私の職場へ向かう小さな電車も、平日でも満員。普
段は座れないことはない静かな電車が、連日たいへんな混雑になって
います。乗客の目的は、もちろん紅葉です。しかし、今年の紅葉は、
気温が暖かく、冷え込む日が少ないこともあって、残念ながら、それ
ほど色鮮やかではありません。いつもは、頂上から色づいてくる比叡
山も、その色がすこし褪せているように感じます。

さて、このところ、沖縄でちょっとした話題となっていることを、今
回は取り上げたいと思います。このマガジンでも何回か登場してもら
っている、BOOKSじのんの店長、天久氏を通して最初に聞いたことで
すが、その内容が、ネット上でも、そして、それを超えて、大きな話
題となって広がってきていることです。このメルマガの読者の方であ
れば、よくおわかりのことと思いますが、仕事上の必要もありますが
、それ以上に、私は書物が大好きです。まあ、マニアといって間違い
無いと思います。自宅の私の部屋は、最近流行の片付けコンサルタン
トのこんまり(近藤麻理恵)さんに来てもらって、掃除してもらいたい
くらいです。でも、私の場合、すべての本に「ときめいて」しまうの
で、こんまり流の掃除は役に経たないかも知れません。

それも、職業柄当然のことですが、奄美・沖縄関係の本をとくに集め
ています。だから、大学時代の同窓である天久氏は、30年来の大切な
友人でもあります。その彼からはじめて聞いたのが、日本一小さな古
本屋のことでした。それは、沖縄那覇市の市場通りにあるのだと。「
日本一小さい古本屋!」それも「沖縄」で。これの話題が私を刺激な
わけはありません。沖縄を訪れたさい、私は今でも沖縄本島では、天
久新都心ではなく、かつての中心地、那覇市の国際通りに宿をとるの
ですが、そこを散策するさいに、天久氏に聞いた公設市場向かいのそ
の本屋よ立ち寄ったことが何度かありました。

最初、探したときは、実は何度か見落としてしまいました。1つが一
坪ほどの小さな店の集まりの中で、その本屋「とくふく堂」を見つけ
たのは、二三度その前を通った後でした。「ここが古本屋?」すでに
雑誌などに紹介されていたその本屋は、それほど小さな本屋でした。
私は、いつもBOOKSじのんで、奄美・沖縄関係本を大量に見ています
が、しかし、その小さな本棚に置いている一冊一冊の本が妙に輝いて
見えたことは確かです。でも、その語の何度かの訪問でも、そこで購
入したことはありませんでした。

ところが、この日本一小さな古本屋が、最近にわかに脚光を浴びたの
です。奄美・沖縄で現在もっとも大き本屋といえば、ジュンク堂那覇
店。これまでの沖縄の新刊書店の歴史を知る人なら、ダイエー那覇店
、略してダイナハのビルを、そのまま丸ごと書店としたその売り場面
積の圧倒的な広さに驚くこと間違い無しの書店です。私などは、沖縄
でそんな本屋が商売上成り立つのか心配になったほどです。そして、
広さだけでなく、奄美・沖縄関係書籍の品揃いもやはり随一です。も
ちろん新刊書についてなのですが、すでに30年古書店をやっている天
久氏にも、「僕が古書を取り扱っていて良かったよ」と言わせるほど
のものです。

ジュンク堂は、その本店が震災前の神戸にあった頃からの付き合いで
すが、当時から書籍の品ぞろいは圧倒的でした。そのジュンク堂が現
在は全国で大規模な店舗を展開しています。京都にも河原町周辺に2
店舗があります。ネットによる購買ではなく、現物を手にして確認し
たい時は、そこに足を運びます。大阪の梅田茶町には、老舗丸善と組
んだMARUZEN&ジュンク堂という、日本で最大規模の書店が開店してい
ます。私は、書物好きの学生たちと一緒にそこをわざわざ訪れ、その
書物の森を散策したことがあります。

さて、その日本一大きな書店と、先に書きました日本一小さな古本屋
が結びついたことを知ったのは、このマガジンで取り上げたことのあ
る、沖縄関係書のコレクター、『沖縄本礼賛』の著者平山鉄太郎さん
のTwitterでのつぶやきからでした。そのジュンク堂那覇店で副店長
をしていた女性がそこを辞めて、売りに出ていたふくとく堂を、な、
な、なんと引き継ぐというのです。お名前は、宇田智子(うだともこ
)さん。神奈川県の川崎生まれで、東京大学で日本文学を学んだとい
うその彼女が、ジュンク堂池袋店を経て、那覇店に志願して勤務され
、副店長まで勤められたというのに突然そこを辞めることになったと
いうこと。

沖縄好き、書物好きの私がこの話題に飛びつかないはずがありません
。そして、まず電話で確認したのは、もちろん天久氏。彼は、宇田さ
んの古書店への転身のことがすでに沖縄の業界では話題になっている
ことを教えてくれ、彼女が書いてるブログ(高文研)「本屋繁盛節/
沖縄の古本屋から」のことも教えてくれました。たしかに、お名前で
検索すると、そのブログが引っかかってきました。そこには「2011年
7月31日、ジュンク堂書店への最後の出勤を終えました。」とありま
す。おおーっ、なんと、偶然にも私の誕生日に辞めているではないか
などと勝手に感動しながら、9年4ヶ月も勤められたジュンク堂を辞め
たことが記されていることを確認いたしました。そして、ブログや、
ネット上に公開されている彼女の文章にも、ざっと眼を通しました。

また、天久氏からは、沖縄タイムス誌上に、「本との話」というタイ
トルで、天久氏と隔月で連載を始めた文章もファクスしてもらいまし
た。11月19日付のその文章の冒頭には「2011年11月11日、牧志公設市
場前に、『市場の古本屋 ウララ』を開店した。」とあります。世の
中では、「1」が続くということで話題になっていたこの日、南の島
の市場の一角で、日本で一番小さな古本屋がリニューアルされて静か
に開店していたのでした。実は、平山氏や、やはり沖縄の古書店ちは
や書房店主のTwitterのつぶやきから、ウララが開店するまでの状況
を知っていましたが、こうしてご本人の文章で知ると、ますます関心
が高まります。「それでも『狭い』ことより市場の前にあることが面
白く思えて『市場の古本屋』を名乗っている」と書かれてもいます。

日本一大きな書店に勤務していた方が、日本一小さな古本屋を沖縄の
市場で開く。このこと自体が私の関心を強く引いたのですが、彼女自
身の言葉を読んでいると、そこに浮かび上がるのは、沖縄の市場、そ
の小さな一角に集う人々の関係であるように思います。もちろん、ジ
ュンク堂時代の文章にも、多くの人が登場しますし、その人たちとの
関係を彼女が大切にしていることがよくわかりますが、ウララに集う
人たちとの関係は、それとは違ったものであるように私は感じました
。ちょっとおおげさな言い方をさせてもらえば、グローバルからロー
カルへと言えば良いでしょうか。産業資本社会は、資本の集積をもた
らし、商家電量販店に典型的に見られるように、商店は巨大化、一極
集中化していくように思えます。ジュンク堂は、大規模化することで
、書店の文化をなんとか保とうとしているように私には見えます。し
かし、amazonなどのネット書店の品揃えにはかなわないでしょう。

その中に居た宇田さんが、そこから抜けてウララを開店したのには、
そういうローカル化に向かおうとする、言い換えれば、ちょうど良い
人間関係を求めようとする人の心の傾きがあるように、私には思えま
す(彼女はそんなことは否定するかも知れませんが(^_^;))。さて、
宇田さん、あるいは、彼女と書きましたが、私は、ご本人とはお会い
したことはまったくありませんし、やりとりをしたこともありません
。彼女の周囲に居る、たとえば天久氏のような人たちを通して、そし
て、ネットを通してそのことを知ったに過ぎません。ただ、ひそかに
、ウララのTwitterのフォローを始めています。このように、社会の
グローバル化の原動力となっているネットを通して、ちいさな人間関
係のあり方を知るというのも、現代的なのかも知りません。ネットに
はグローバル化とは反対の力が働くこともあるのかも知れません。だ
から、ウララの今後に関心を寄せています。もっと、わかりやすく言
うと、これから沖縄を訪れる時、立ち寄る場所が増えたということで
す。
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           ■◇■ あとがき ■◇■

日本一小さな古書店ウララについてこのメルマガで取り上げてみたい
と考えていた矢先、すでに彼の平山氏がつぶやいてもいますが、なん
と本日、2011年11月26日付『朝日新聞』朝刊の「ひと」欄に、「『日
本一小さな古本屋』を継いだ、宇田智子さん」と紹介されていて、び
っくりしました。那覇の市場の一角で始まった彼女の行動は、なんと
全国に知れ渡ったのです。「『こんな本を探している』という客にち
ゃんと対応できるのがうれしい」という彼女の言葉を載せています。
私のこころを動かした宇田さんの行動、その背後にあるちょうど良い
人の関係を求める彼女の気持ちが、朝日新聞の記者を動かしたのかも
知れません。
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