『奄美・沖縄エッセイ』059
■■■■■>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>◆ 2010.03.05 ■
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◆■■ ---------- ■ 奄美・沖縄エッセイ ■◇■
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  □◆□◆□▼ 私説、沖縄研究との出会い ▼□◆□◆□

ハイサイ、いつのまにか3月になりました。古都では、暖かい日が多
くなり、春が近づいていることが体感でわかります。私の家では、梅
が満開の花を咲かせています。

さて、仕事の上で奄美や沖縄について関心を寄せているため、ウェブ
上でのいくつかの検索サイトに、その分野に関わるキーワード検索を
設定しています。そこには、たくさんの情報が引っかかってくるので
すが、ほんの時たまですが、なかには、とても大切な情報がピックア
ップされることがあります。今回は、そのようにして知ったテレビ番
組に導かれたお話です。

いつものようにキーワード検索にかかったHPを開いている中に、見覚
えのある懐かしい人物が写った1枚の写真を見つけました。これに惹
かれて番組の解説を読むと、それはまさに私がこれまで取り組んでき
たテーマに深く関わる番組でした。奄美や沖縄に関わる番組はたくさ
んあるのですが、これほど私のテーマに沿った特集番組は今までにも
無かったようにと思われます。

それは、先月の20日(日)22時から、NHK教育テレビで放映された、
「ETV特集 深く掘れ 己の胸中の泉 沖縄学のまなざし」という番
組です。写真の中の懐かしい人物は、仲宗根政善(なかそねせいぜん
)という方です。番組でも紹介されていましたが、この方は、第二次
世界大戦沖縄戦でひめゆり学徒隊を率いたことで知られます。しかし
一方で、番組で紹介されていたように、『沖縄今帰仁方言辞典』(
1983年、角川書店)とい大著を残されたすぐれた方言学者であったこ
とは、それほど知られてはいなかったのではないでしょうか。

番組は、沖縄を対象とした主に人文分野の研究の全体像を指す「沖縄
学」というテーマを、その分野を最初に切り開き、後に「沖縄学の父
」と呼ばれることになる伊波普猷(いはふゆう)という人物と、上記
の仲宗根政善氏の師弟関係の中に見ていくという内容でした。私が主
たる研究対象としている、16世紀から17世紀にかけて琉球国が編集し
たの歌謡集『おもろさうし』は、1609年の薩摩による侵略前の琉球の
姿を記録した数少ない資料として、伊波がはじめて本格的に研究に取
りんだ文献でした。

その『おもろさうし』を対象とする研究会(おもろ研究会)が、沖縄
県立芸術大学教授の波照間永吉氏の下で現在も続けられていることも
番組は紹介していました。波照間氏は、私が所属した琉球大学国文学
科の先輩です(といっても4歳年齢が上なので、私が入学したときに
はすでに法政大学の大学院に進学されていましたが)。1968(昭和
43)年から始まったおもろ研究会は、最初那覇市の松川にあった仲
宗根政善氏宅で始まりました。番組では、波照間氏をはじめその初期
のメンバーが写った写真も紹介していましたが、実は、私もその研究
会で勉強させてもらった1人なのです。

まだ現在の首里城がある場所に琉球大学のキャンパスがあった頃、
1978(昭和53)年にそこに入学した私は、国文学科に在籍しながら、
やはり仲宗根氏が同学に創設した方言研究クラブ(これも現在の調査
の様子が番組に出ていました)の部室によく遊びに行っていました。
クラブの部員の中心が、同学科の学生、先輩や同級生で構成されてい
たこともあり、また、その頃住んでいた大学寮はキャンパスから歩い
て5分弱、現在の沖縄県立芸術大学の場所にありましたから、一時期
はほとんど毎日通っていたような気もします。

その時に、部室の隅の黒板におもろ研究会の開催日時が記されており
、これに関心を寄せた私は、先輩にも誘われたこともあり、2回生の
時から、会の末席を汚すことになりました。毎週金曜日の夕方、やは
り研究会に通う先輩や同学科の先生たちの車に同乗させてもらって、
仲宗根氏のご自宅に通いました。それが卒業までの4年間(大学には5
年間在籍しました(^^;))続くことになります。いつもやさしく私た
ちを迎えて下さる仲宗根先生を中心に、机を囲む顔ぶれは、当時はよ
くわかっていなかったのですが、沖縄ではよく知られた方ばかりで、
その中に恐れを知らない未熟者な学生として、いろいろと生意気な質
問をしていたように思います。

でも、勉強することのほんとうの面白さを知ったのは、この会におい
てではなかったかと思います。それまで不勉強であった私が、毎週飽
きもせずに下調べをし、ノートを準備していたのは、『おもろさうし
』という書物に記録されたうた、その難しさ、不思議さ、面白さが、
会の議論の中で浮かび上がる場を共有できる喜びがあったからではな
いかと思います。このメルマガno51でも紹介した、私の恩師、琉球文
学の池宮正治先生、物語文学の関根賢司先生も、この会の一員でした
。以前配信していた『琉歌(りゅうか)詞華集』no16で取り上げた、
やはり学科の先輩であった故嘉手苅千鶴子先生もやはり会員でした。

大学内での授業でも、受験のための勉強とは違った面白さは感じまし
たが、学外でのおもろ研究会は、私にとって、今でも、いや今だから
こそというべきでしょうか、勉強するうえでの、理想の空間であるよ
うに思います。そこには、私のような学生の意見も含めて、互いの意
見を尊重する自由な雰囲気に満ちていました。その会での発表をまと
めたものが、私がはじめて活字化した文章です。『おもろさうし』の
うたの一語について、現地におもむき調べたささやかな内容の発表で
したが、それについて仲宗根先生他の会員の方から暖かい言葉を掛け
て頂いたことを今でも覚えています。その感覚は私の研究の根元にあ
るような気がします。番組で、その会が今でも続いてることを番組で
知り、とても懐かしく感じました。
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           ■◇■ あとがき ■◇■

今回、偶然見つけた番組を観ていて、自分と勉強との出会いを想い出
しました。勉強との出会い、それはやはり人との出会いではなかった
かと思います。これをきっかけとして、勉強の面白さに目覚めた私は
大学院に進学し、そして結果として、今学生たちに向かう立場に立っ
ている訳ですが、おもろ研究会の先生方が私にそうして下さったよう
に学生に対しているかと言ったら、やはり疑問だと言わざるを得ませ
ん。番組を見ながら、期せずして、教員としての自分の今のあり方を
反省することになりました。
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