『奄美・沖縄エッセイ』056
■■■■■>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>◆ 2010.08.10 ■
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◆■■ ---------- ■ 奄美・沖縄エッセイ ■◇■
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    □◆□◆□▼ 沖縄病と書物 ▼□◆□◆□

ハイサイ。また、ご無沙汰です。世の中は、いつのまにか猛暑の夏、
本番となっております。古都伏見の拙宅では、私のエアコン嫌いのた
め、扇風機が音をたてて回っておりますが、午後4時で、部屋の中の
温度は35.3度、もうすぐ体温に届きそうな暑さです。多くの方が熱中
症にかかるのも、汗だくでうなづけます。さきほどから使っているパ
ソコンもかなり熱を発しており、熱暴走か、ときおり反応しません。

さて、いまさらですが、私は、慢性沖縄病の末期患者を自認いたして
おります。そして、この沖縄病症候群には、さまざまな症状が見られ
ることが知られています。たとえば、街の中を歩いていて、「そば」
という文字を見ると、「沖縄そば」が無性に食べたくなり、近くの沖
縄料理屋をケータイで検索して探す、とか。本日みたいに暑い日はな
おさらで、さまざまな沖縄幻覚が現れます。目の前のコーラが、ルー
トビア(主に沖縄にあるA&Wというファーストフード店の主要飲料)
に見えてしまうとか。そんな猛暑のなか、遅読の私にしてはめずらし
く、昨日一日で読み終えてしまった本には、同病の患者の手になると
思われる、次のような症状が記されています。

▽そう、沖縄本を集めていると「沖」とか「縄」とかという文字が目
に飛び込んでくるようになるんです。他に「琉」とか「球」とか「八
」とか「宮」とか「奄」とか「南」とか「那」とか……。/一番まぎ
らわしいのは「縄文なんとかかんとか」といった類の本。間違いなく
沖縄本だと早合点してしまいます。「沖」も多いですね。以前、東京
の古書店の百円均一コーナーで、「おっ、沖縄本発見!」と興奮した
のはいいものの、よく見たら『沖田総司哀歌』でした。新撰組に用は
ない。▽

この箇所には、吹き出してしまいました。というのも、私も似たよう
な経験を持つからです。とくに「縄文本」には、まったく同じ経験を
したことがあります。上記は沖縄のボーダーインクという出版社から
7月23日に刊行されたばかりの『沖縄本礼賛』という新書の一部です
。紙幅の関係で、それぞれの文字についての解説は省きますが、著者
は、平山鉄太郎という方。著者略歴によれば、1967年東京都生まれ、
今もそこに居を定める、フリーランスの校閲者です。自分の文章を活
字化するさいに、誤植ばかりが目立つ私(このメルマガの読者の方は
よくご存じですよね)からすると、そういえば、この本の誤植にまっ
たく気付きませんでした。実は、沖縄関係の本は、誤植が多い場合が
多いのですが、この本にはそれがほとんど見られないのは、著者の職
業的な力によるものでしょう。

この本は、タイトルと、上記に引用した文章からも判るように、書物
を通して重度の沖縄病にかかってしまったその体験を、赤裸々に記し
た、いわゆる病状告白モノ(?)なのです。著者を中毒にしている
「沖縄本」を、次のように明確に定義しています。

(1)沖縄に関して書かれた本や雑誌。
(2)ページ数は少なくても沖縄について書かれた文章が収められてい
て、「これは沖縄本」と私が決めた本や雑誌。

なんと単純明快な定義であることでしょう。もちろんこの「沖縄」に
は、地域としては琉球列島全域が含まれてます。著者は正確には『奄
美沖縄宮古八重竝周辺離島本礼賛』とするべきだとしながら、しかし
これでは「中国の本みたい」だといいます。うーん、確かに!よって
本書に「沖縄本」と出た場合には「奄美沖縄宮古八重竝周辺離島本」
と脳内で読み替えて欲しいと書いています。著者は、沖縄を訪れ、病
気に罹患し、その後、沖縄を知るために本を集めるうちに、沖縄病症
候群の中でもしばしば重症となる、「沖縄本病」に罹ってしまったの
です。おかわいそうに!

仕事柄、私も、書店に行ったら、地方出版のコーナーに行き、沖縄関
係の本、そう沖縄本(以下、著者に倣って沖縄本と記します)を探し
ます。沖縄に関わっていつものまにか30年以上経ってしまった私にも
、地方出版コーナーが無くても、だいたいどのような箇所に行けば、
沖縄本が置いているのか判ります。著者も同じようです。さらに深い
ところで、著者と私には共通点があります。著者は沖縄本について何
か疑問があると、宜野湾市にあるBOOKSじのんの店長、天久斉氏に電
話する、あるいはメールするのだと書いています。このメルマガの古
い読者の方なら、ここに何度か登場したことのある、沖縄古書の生き
字引である天久氏が、共通の知人なのです。うーん。

このように沖縄本に取り憑かれた人物のことを天久氏から聞くことが
時折ありますが、本書の著者については、この本によってその重症度
をはじめて知りました。同病相憐れむとは、このことでしょう。『沖
縄本礼賛』を繙きながら、私と同じ重度の慢性沖縄病、なかでも沖縄
本型という変種の患者として、著者の心が痛いほど解ります。たとえ
ば、本書の第3章には「ネット時代の沖縄本病患者」、いやいや「沖
縄本収集」という項目がありますが、そこに挙げられているサイトは
、私がブックマークしているものとほとんどかぶっています。ただ、
たとえばYahooオークションのアラートで以前検索していた私は、そ
こにヒットする数のあまりの多さに最近チェックを完全に諦めていま
すが、著者は粘り強く探し続けているようです。

本書の帯にも明記されている〈沖縄本の神〉、じつはこれまで私だけ
が深く信仰していると堅くそして密かに信じていた神が、著者の元に
も時折舞い降りていたことを知ったことは驚きで、そのことにおおい
なる嫉妬を感じてしまいました。神はほんらい平等であるべきなのに
、一冊しかない沖縄本をめぐって、私は本書の著者と知らないうちに
何度かバトルを繰り広げたことがあるかも知れないのに。そのとき、
重度沖縄病変種沖縄本型患者の唯一の救い主である〈沖縄本の神〉は
、どちらに微笑んだのでしょう。それは、神のみぞ知るということで
しょうか。ああ、沖縄本の神よ、吾に多く微笑み給え!

さて、文章がだんだん病んできましたので、ここら辺でキーボードか
ら手を放したいのですが、『沖縄本礼賛』に教えていただいたことは
多かったのですが、一つだけ最後に書きます。とにかくまず買うこと
を主な目的とする著者が、本書の中で最後まで読み終えたことを断言
している一冊の本、宮本常一の『私の日本地図』第8巻「沖縄」(未
来社)に強く惹かれました。これほどの沖縄本病患者を感動させるこ
の本について、私は今まで注意を払ったことがありませんでした。

それで、本書読了後に、さっそくネットで検索しました。1970年に刊
行された定価650円の本なのですが、Amazonでは、なんと、最低8500
円の値段が付いています。本書で著者が言及している、Amazon古書の
不当な値付け、です。でも、昨日検索したときは、たしか6000円代だ
ったような。ひょっとすると、『沖縄本礼賛』が値段を上げるきっか
けになったのかなどと思いながら、日本の古本屋で検索すると、Y社
という古書店が、3000円を付けていました。私がこちらでこの本を注
文したのは、言うまでもありません。また、長くなりました。スミマ
セン。
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           ■◇■ あとがき ■◇■

よく職場の学生や、同僚の教員に、私はマニアックだと言われます。
そうなのです、私はマニアなのです。これと決めたら、徹底的に集め
ます。この気持ち、「コンプリート癖」という項目まである『沖縄本
礼賛』の著者なら、ぜったいにわかってくれるはずです。

その一端を記しますと、このメルマガでも取り上げたことがあります
ように、以前から沖縄出身のアーティストCoccoに関心があり、資料
を収集しているのですが、今、私の手元には沖縄セルラー電話(au)
が発行しているフリーペーパー、PIPOPA2010年7月号、があります。
無料のチラシなのですが、Coccoで検索すると、これがYahooオークシ
ョンで引っかかりました。値段は、650円!タダのチラシがですよ!

でも、これには「今月の特集」としてCoccoのインタビューが載って
います。明日沖縄を初めて前面に出した画期的なアルバムを出す彼女
ですが、これについて、短いながらもとても貴重な本人のコメントが
掲載されていました。内容はまったくわからなかったのですが、入札
者は私一人、もちろん落札しました。そうです、〈沖縄本の神〉が舞
い降りたのです。今回は、私に!しかし、もし、このメルマガを『沖
縄本礼賛』の著者が読めば、これをなんとしてでも、手に入れようと
するのは、間違いありません。でも、負けたくない。神様、助けて下
さい。あー、本書に引っ張られて、病んでしまいました。
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