『奄美・沖縄エッセイ』054 |
---|
■■■■■>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>◆ 2010.03.16 ■ ■■◇■ ◆■■ ---------- ■ 奄美・沖縄エッセイ ■◇■ ■■ ■>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>◆ No0054 ■ =========================================================== +++++ 等幅フォントによってレイアウトされています。++++++++ =========================================================== ■□■ 奄美・沖縄、なんでも話題、メールマガジンです。■□■ ■□■満月と新月の夜に配信します/本日旧暦0201●新月■□■ -=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=- □◆□◆□▼ パワースポットとしての沖縄 ▼□◆□◆□ ハイサイ。また、ご無沙汰です。登録して下さっている皆様は、いま さらと、お思いのことと思います。 さて、今回取り上げるのは、イマイマの話題です。ある男性お笑いタ レントとアメリカのパワースポットを旅行したことで最近世間を騒が せたのは、沖縄出身のアーティスト安室奈美恵さんです。以前に、ダ ンスグループtrfのサムさんと離婚し、二人の間にできた子どももす でに小学生とのこと。その彼女が独身の男性タレントと二人で密かに 旅行したことが、ゴシップになりました。芸能界でよく知られた二人 と、それに、パワースポットという味付け、マスコミが見逃すはずは ありません。 それにしても、なぜパワースポットなのでしょうか。そもそもパワー スポットとは何なのでしょうか。そんな話題が頭にあったせいか、先 日の新聞の雑誌広告が目が留まりました。雑誌の名は『allora』3/15 号、朝日新聞出版の雑誌です。初めて意識する雑誌なので、自宅近く のよくお世話になっている小さな書店に置いてあるか不安だったので すが、ちゃんと売っていました。雑誌そのもののサブタイトルには「 もうひとりの女友だち」とあります。つまり、女性のための雑誌なの です。そういえば、女性雑誌のコーナーに置いていました。 この雑誌のどのような記事が気になったのかといいますと、「沖縄の 聖地めぐり」という特集です。もう一つの、そしてメインの特集で取 り上げられている沢村貞子の大きな写真の横に、「神が降り立つ場所 で、日々の健康と幸せを祈る」とあります。きわめて現実をしっかり と生きた女性の特集とこれ、この二つの特集はちょっとミスマッチで すね。一年の中でもこの時期は、3月末からの沖縄への観光旅行の本 格化を前に、マスコミで沖縄が取り上げられることが多くなります。 関西の番組ですが、やはり沖縄を特集している番組を先日観たばかり です。この記事もそういう流れの中にあるのでしょう。 日本の他地域に沖縄を紹介するやり方は、早くにある意味で限界に来 ていて、紋切り型が目立ちます。昨日のテレビ番組もそうでした。メ デイア側もそのような自覚はあるようで、なかには目新しい素材を求 めているうちに、ディープな沖縄へと踏み込んでいくことがあります 。この特集もそういう内容のものだと思います。巻頭の記事は、沖縄 に住んでいた作家の池澤夏樹が書いています。彼が紹介するのは、斎 場御嶽です。このメルマガ(No21)でも触れたことがあります。沖縄 の世界遺産の一つとしてつとに有名になった場所ですが、彼は沖縄在 住時代の後半、この近くに家を建てて住んでいました。 彼がフランスに引っ越す際に、沖縄の友人に連れられて、蔵書の整理 で池澤氏の自宅を訪れたことがあります。彼は、斎場御嶽の近く、か つては人が住むということが考えられない場所、地元の人がアマバル と呼ぶ葉所に家を構えていました(池沢夏樹『アマバルの自然誌』参 照)。そこから、特集でも取り上げられている、そして、このメルマ ガでも何度か取り上げたことのある神の島、久高島の見える部屋が彼 の書斎でした。たしか朝日新聞に掲載したエッセイで、その視線を遮 る家が新たに建ったことで、沖縄を引き払う頃合いだとして記してい ました。 さて、前置きが長くなりました。パワースポットとは何か。こういう イマイマの言葉の意味をとりあえず確認するのにはWikipediaがもっ てこいです。「エネルギースポット、気場などともいい、オカルト的 なエネルギーが集中していると風水やスピリチュアリティの観点から 見なされる場所のことである。……パワースポットは和製英語である 。広い意味で使われるパワースポットに対応する英単語は存在しない 。」引用しておきながらなにですが、オカルト的な、などと記すと、 どうも「いかがわしさ」といった意味が加わり、これを「信仰」する 沖縄の人々に失礼ですが、まあ、超自然的な力を感じることのできる 場、といったところでしょうか。 そういった場所が人々の関心を集める背景には、時代的な要請がある のでしょう。どうも行き詰まった感のある「先進諸国」の人々は、自 らが信じてきた科学ではなく、かつて人々をして信仰の対象としてき た事象に自らの救いを求めているのでしょう。雑誌の特集巻頭には、 先に引用した特集サブタイトルの言葉に続き、「自分と向き合い、来 し方を想う場でもあるようだ。」と記されています。つまり、人々は パワースポットで自らにも向き合うのです。そのようなことは、私に もどこかわかる気がするのですが、ここで、安室奈美恵さんに戻ると 、では彼女は、なぜ沖縄のそのような場所に戻らなかったのか、とい う疑問が湧きます。 もちろん、日本中で有名な彼女にとって、地元沖縄も人目を気にせざ るを得ないという現実的な問題があるでしょう。彼女にとってたいへ ん心の痛む事件が地元で起きたこともありましたし。ただ、私が問題 にしたいのは、そのような超自然的な信仰の問題というのは、地域の 文化のあり方に異存しているのではないかということなのです。つま り、安室奈美恵さんを癒すのは、彼女が生まれ育った地元の文化と切 り離せない信仰の場ではなかったかということです。この雑誌には「 そんな沖縄の聖地めぐりの旅へ!」とも記されていますが、もし、信 仰といった問題が地域の文化に異存する側面があるとすれば、この雑 誌を手に沖縄を訪れた他地域の主に女性たちに、聖地は癒しを与える のでしょうか。 一般的に文化には、地域に異存する側面と、普遍的な側面があると想 います。パワースポットという和製英語は、その後者としての側面を 強調しているように想えます。つまり、信仰、宗教のグローバル化で す。たしかにすでに世界宗教というものも早くから存在します。しか し、これが地域に定着するあり方を具体的に確認してみると、たとえ ば、カトリックひとつを取り上げても、日本の長崎でのそれは、地域 の信仰という地盤を踏まえたものでした。地元の文化を通して普遍的 な宗教を受け容れるということです。このメルマガでも取り上げた奄 美大島のカトリックの事例(No39)なども、長崎などと同様だと思い ます。少なくとも、日本列島で世界宗教が受け容れる背景に、同様の 事情があったと思います。 安室奈美恵さんたちが訪れたアメリカのパワースポットも、地元の先 住民族の聖地でした。本来なら、地元の人にとってのみの聖地が、他 の地域の人々を癒すことがあるとするなら、それは宗教、信仰といっ たものが持つ、普遍性によるものであることは間違いありません。そ こで、雑誌の特集の池沢夏樹氏の文章には「神々がいると感じ取れる 場所」とあります。そのように、他地域の人々はいきなり普遍的な存 在を感じることができるのでしょうか。私はかねがね人には生活する のに適した広さの空間というものがあると思っています。それは、人 が身体という限られた大きさのものを持っているからだと思います。 宗教、信仰といった文化もこれを前提とするのではないかと思うので す。 パワースポットという言い方には、そういう側面、手続きを無視する 、あるいは軽視する要素が含まれているように思われます。インター ネットという仮想の空間でなら、そのなかのゲームでなら、そういう ことはあり得ることかも知れませんが、いきなり神といった普遍的な 存在に触れることに、少しの危うさを感じてしまいます。なぜかとい えば、生活するのに心地よい空間といったものを無視して、グローバ ルに、つまり地球人としてとてつもなく広い空間に投げ出されるよう な不安を、私は感じてしまいます。テーマが広くなりすぎて、オチが 見えなくなってきました。結論を急げば、安室奈美恵さんがそのよう な癒しを求めるうちに戻ってくるのは、沖縄の、地元の聖地なのでは ないかということです。 行き詰まり感の強い現代、パワースポット的な場所への要求はますま す加速するでしょう。そういえば、片山恭一の小説を映画化、TVドラ マ化した『世界の中心で、愛をさけぶ』も、その「世界の中心」はオ ーストラリアの先住民アボリジニの聖地でした。もちろんストーリー では、修学旅行で訪れるはずだった場所がそこだったということなの ですが、そこが先住民の聖地であることも重要な要素だったと思うの です。私たちは、そのようなグローバルな視線で宗教や信仰といった ものを受け容れることに抵抗が無くなりつつあります。一方で、その 反動として、地域の文化へのこだわりというものを取り戻そうという 動きが出ているようにも思われます。これは、おそらく個人の「居心 地の良さ」の問題だと思います。私は、地球人として自分を想像して もあまり居心地の良さは感じないようです。長くなりました…… (^_^;)。 -=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=- ■◇■ あとがき ■◇■ 『allola』の特集は、20頁の小さなものです。そして、このような聖 地(パワースポット)紹介本はけっこうたくさん出ています。沖縄本 島を中心としたもので、私がお勧めのものは、おおき・ゆうこう・田 名真之著『沖縄 琉球王国ぶらぶらぁ散歩』(新潮社、とんぼの本) です。世界遺産ばかりが注目される沖縄の聖地ですが、それ以外の代 表的な聖地を丁寧に紹介しています。 この本の場合、書名がその内容をうまく著してはいないように思いま す。むしろ、沖縄のパワースポットと言えば、この本は写真と文章で それをうまく紹介してくれています。とくに、歴史学者の田名さんが 、それの歴史的な形成過程を丁寧にフォローしてくれているのがあり がたいです。パワースポットはおそらく、一朝一夕に形成されてるも のではありません。その場所で生きてきた人々の歴史がそこに深く関 わっているのではないでしょうか。 -=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=- ■<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<■ □------◆ 電子メールマガジン:「奄美・沖縄エッセイ」 □----◆ 発行人:末次 智 (すえつぐ さとし) □--◆ E-mail:suetsugu@kyoto-seika.ac.jp □◆ 配信の解除URL:http://www.eonet.ne.jp/~rekio/ ■<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<■ |