『奄美・沖縄エッセイ』043
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■■■■■>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>◆ 2008.02.21 ■ ■■◇■ ◆■■ ---------- ■ 奄美・沖縄エッセイ ■◇■ ■■ ■>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>◆ No0043 ■ =========================================================== +++++ 等幅フォントによってレイアウトされています。++++++++ =========================================================== ■□■ 奄美・沖縄、なんでも話題、メールマガジンです。■□■ ■□■満月と新月の夜に配信します/本日旧暦0115○満月■□■ -=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=- □◆□◆□▼ 詩人たちの「南島論」 ▼□◆□◆□ ハイサイ、じつに四ヶ月振りです。寒さが続く中、みなさんお元気に お過ごしのことと存じます。 さて、昨年末、沖縄タイムス誌上で第53回伊波普猷賞が発表され、こ のメールマガジンのNo26とNo36で取り上げたことのある、藤井貞和氏 の『甦る詩学「古日本文学発生論」続・南島集成』が受賞しました。 本書の企画編集に関わらせていただいたことはすでに書きました。こ の本には、1974年から現在までのおよそ35年にわたる藤井氏の奄美沖 縄対象とした仕事が集められています。そのなかで、副題にある『古 日本文学発生論』は、1978年に単行本として上梓されました。 それから30年ぶりの本書の特色は、研究業績のみならず作品が収めら れているところにあります。本賞の意図には郷土の学術発展とともに 「文化振興」への寄与が掲げられているものの、作品を含めた仕事が 受賞するのは、同賞の歴史でも初めてではないでしょうか。収録され た作品は、詩と小説。そう、藤井氏は、物語研究者であると同時に日 本を代表する詩人でもあります。そして、研究と詩作は緊密に結び合 っています。氏を最初に南島にった折口信夫(釈迢空)の仕事のように 。 藤井氏を南島へと向かわせたもう一人は、やはり詩人でもある吉本隆 明氏であり、彼の南島論でした。しかし、「琉球王朝の継承儀礼から 日本天皇制の根源を衝く」という論のモチーフは、のちにアフリカ的 段階へと進展し、その普遍性への指向からむしろ思想家としての吉本 氏の仕事ということができます。一方、藤井氏の目的は、前著に典型 的に現れているように、日本列島のうたの始原へと遡ることにあり、 それは詩人としての氏の関心の核心にあるものです。 やはり詩人の黒田喜夫氏から提出された、古代支配層から詩を亡滅さ れた側からの視線、という重い課題を引き受けて展開された仕事は、 普遍とは対局の「私性」へと、つまり詩に向かう自らを南島を経て問 うことへと向かいます。だからこそこの仕事は、南島の詩人を触発し ました。もっとも早い反応は、前著の基になる仕事が詩誌連載中に、 沖縄の詩人清田政信氏からのものでした。奄美からは、やはり詩人の 藤井令一氏等からの書評もありました。いずれも、藤井氏の連載に二 人の文章を引いたことへの反応であり、清田氏や令一氏は、藤井氏の 発言に耳を傾け、丁寧に批評しています。彼らは、藤井氏のモチーフ に詩人として共振しています。むろん当の黒田氏も同様でした。 藤井氏の南島に関する文章には一つの特色があります。先行の仕事を して語らしめる傾向が強いことです。氏の物語研究にも、それを私は 感じます。対話を求めているということでしょう。南島に向かうと、 この傾向がより強くります。「キャッチボール」、相手とのやり取り を藤井氏自身はそう呼びます。本書にも詩人高良勉氏との往復書簡が 収められています。また、上梓を最初に引き受けたのは、徳之島出身 の詩人作井満氏であり、氏の逝去後、遺志を継いだのは、俳人でもあ る、まろうど社の大橋愛由等氏でした。伊波を父とする「沖縄学」へ のこのキャッチボールは、詩人のいわば魂のリレーともいえます。こ れを、「詩人たちの南島論」と私は呼びたいと思います。本書が伊波 賞を受けるのは、このボールを現在の沖縄学が受けとめたことなので はないでしょうか。 -=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=- ■◇■ あとがき ■◇■ 2月12日(火)夕刻より、沖縄那覇市のザ・ナハテラスで行われた、 第35回伊波普猷賞贈呈式に出席してきました。昨年該当賞が無く、今 年は3氏の受賞となりました。詳しくは、沖縄タイムスのHPをご覧下 さい。 さて、今回の文章の基は、じつは藤井氏の受賞にあたり、沖縄タイム スの「論壇」に投稿したものでした。よって、前に配信したマガジン と内容がダブった部分がありますが、ご容赦下さい。ここに転載した ことからもわかるように、結果はボツでした(T_T)。 沖縄の知人からの情報と、贈呈式のあとの祝賀会での関係者の方との 会話で判ったことですが、賞の審査員に文学関係者が居なくて、上に 記したように、「作品」を含むことが受賞対象となるかが、問題とな ったようです。そこで、審査員外の文学関係者に意見を伺ったとのこ とです。 しかし、私の投稿は、読んでいただければかわるように、問題となっ た「作品」を含むことを積極的に評価したものです。とくに詩人にと り、作品とそれ以外の文章を分けて考えることは難しいからです。な かでも、藤井氏の仕事は、両者の緊張が仕事の質を引き上げていると 思われます。意見を請われた文学関係者の方もそのことを認めて下さ り、結果として受賞となったようです。ということで、「論壇」向き の少し重い内容となりました。ご容赦下さい。 私が沖縄を訪れたその日、沖縄では、北谷町で前日の10日夜、米海兵 隊員が中学3年生の女子生徒(14)を暴行する事件がまたも発生しまし た。次の日に沖縄を訪れた私は、夜のホテルのテレビでそのことを知 りました。藤井氏の受賞記念講演では、沖縄のおかれた政治的な状況 にも言い及んでいました。そういったことまでも含めたオキナワを丸 ごと引き受けたものとして、藤井氏の仕事があります。関心をお持ち の方は、ぜひご一読下さい。 =========================================================== |