『奄美・沖縄エッセイ』031
■■■■■>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>◆ 2006.05.12 ■ ■■◇■ ◆■■ ---------- ■ 奄美・沖縄エッセイ ■◇■ ■■ ■>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>◆ No0031 ■ =========================================================== +++++ 等幅フォントによってレイアウトされています。++++++++ =========================================================== ■□■ 奄美・沖縄、なんでも話題、メールマガジンです。■□■ ■□■満月と新月の夜に配信します/本日旧暦04.30○満月■□■ -=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-   □◆□◆□▼ 「未開社会」とシマ共同体 ▼□◆□◆□ ハイサイ、みなさん、お元気ですか。またまた、一ヶ月ぶりです。 連休も終わり、日常が始まりました。連休に、琉球弧の島々を訪れ た方もいらっしゃるのではないでしょうか。 さて、今回は、すこし理屈っぽい内容になるかも知れません。最近 、柄谷行人という著者の『世界共和国へ』という新書を読み進めて います。柄谷という人は、現代の日本を代表する評論家、思想家で 、私もかつてその著書に影響を受けました。彼の著書はたいへん難 解ですが、その思考は根底的で、射程が広く、いろいろと教えられ ることが多いのです。 今回の著書の副題は、「資本=ネーション=国家を超えて」とあり、 現代の社会を、この三つの関わりとして捉え、これを超える方向性 を示す(帯には「私たちの進む道はここにある」とあります)とい う、新書でありながら、すごい内容の本なのです。これは、今まで 彼が著してきたことを「普通の読者」に向けて、わかりやすく書き あらわしたものなのです。 そのような著書に、奄美や沖縄のことが出ているのかと皆さんは、 思われることでしょう。そうなのです。読み終えた箇所にはもちろ ん、これから読み進む部分にも、奄美や沖縄について具体的に触れ ているとは思われません。それなのに、この本をなぜ取り上げるの かと言えば、そこに示される考えに、私は奄美と沖縄の問題を重ね てしまうからです。 本書の「第2部 世界帝国」のなかで、柄谷は、歴史的に想定され る「原始社会」と地球上に現存する「未開社会」を厳密に分けたう えで、マーシャル・サーリンズという歴史社会学者の著書を参照し ながら、次のように述べています。 たとえは、マーシャル・サーリンズは、未開社会の多くは豊かで、 人々はわずかしか労働しないことを指摘しています(『歴史の島々 』)。この指摘は正しいと思います。(中略)未開社会が豊かであ るのは、それが総じて、狩猟採集にとって有利な熱帯地域にあった からです。もちろん、彼らの側に、国家や文明を拒否する意志があ ったわけですが、そのことを可能にしたのは、くりかえすように、 自然環境と同時に、他の国家あるいは文明から孤絶するほどに隔た っていたことです。(p46) 私は、この箇所を読みながら、奄美や沖縄のシマジマのことを考え ています。島ではなく、あえてシマと書く理由については、皆さん には、説明するまでもないかも知れませんが、シマとは奄美や沖縄 の島々では集落のことを指し、人々が生活する最小の共同体のこと です。そのようなシマが、上記の未開社会のイメージと重なったの です。 もちろん、シマは「未開社会」ではなく、奄美と沖縄には、沖縄本 島を中心に王国が歴史的には成立し、現在は、鹿児島県と沖縄県に 属するのですから、すぐ近くには中国という大国が存在しています から、正確には、柄谷が言う「未開社会」には当てはまりません。 しかし、シマの豊かさを考えるとき、その「孤立性」と「(亜)熱 帯性」は、大切な要素だと思うのです。 柄谷は、「未開社会」の重要な用件を、共同内での「贈与と返礼」 である「互酬性」に求めました。これは、あくまでも共同体内での やりとりであり、外部には開かれないものです。シマ内部での関係 には、まだ、こような互酬性を残す比率が高いでしょう。これは、 琉球弧のシマに限らず、私たちの身近な共同体でも、同様ではない でしょうか。柄谷によればこのような「交換は、実益というよりも 、むし、それを通して共同体であることを確認するためになされて いる」(p68)のです。 暖かい気候に恵まれ、比較的閉じられた社会のなかで、贈与と返礼 という交換によって結びつく社会、これはまさにシマ社会のことで はないでしょうか。これが成り立つには、中央の社会からより離れ て、つまり孤立したほうがよいのですから、奄美と沖縄の離島の小 さなシマジマほど、この条件に近くなるということなのです。 少し理屈っぽくなりましたが、何が言いたいかと言えば、琉球弧の シマジマを、なぜ(私が)心地よいと感じるかを、この本は説明し てくれているように感じたということです。とうぜん柄谷自身は、 どこか閉塞感の漂う現代の社会を見据えて、これからの進み方を渾 身で示そうとしているわけですが、私は、その方向に、琉球弧のシ マジマが参考になるのでは、と考えているわけです。でも、柄谷に そんなことを言っても、「甘い」と言われるとは思いますが。 -=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=- ■◇■ あとがき ■◇■ 読書半ばで、つい感想めいたものを書いてしまいましたが、この本 はぜひ最後まで読み通したいと思います。最近は、新書一冊読むの がたいへんだといいう情けない状況ですが、柄谷行人という人が指 し示す未来像を、確認したいと思います。最後まで読んでみると、 今回の感想とは違った考えになるかも知れませんが、それが、奄美 や沖縄に結びつけば、このマガジンに書かせてもらいたいと思いま す。みなさんも、ぜひご一読のほどを。 =========================================================== ■<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<■ □------◆ 電子メールマガジン:「奄美・沖縄エッセイ」 □----◆ 発行人:末次 智 (すえつぐ さとし) □--◆ E-mail:suetsugu@kyoto-seika.ac.jp □◆ 配信の解除URL:http://www.kyoto.zaq.ne.jp/suetsugu/ ■<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<■




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