■■■■■>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>◆ 2005.12.02 ■
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◆■■ ---------- ■ 奄美・沖縄エッセイ ■◇■
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□◆□◆□▼ 風に泣くウタ ▼□◆□◆□
ハイサイ、みなさん、お元気ですか。
ふと、気がつけば、すでに師走。いちおう教師を職業としている
私も、「走る」月となったわけですが、最近の教育現場は、12月に
かかわらず、いつも走っているように思います。まあ、これは私た
ちの現場にかかわらず、社会全体がそのような状況だからですが。
そのような中で、奄美・沖縄について学生に話しながら、そこに流
れる少しゆつくりとした時間の大切さについて触れることが多いで
す。そして、これは私の力量の無さのせいでもありますが、奄美・
沖縄について話すのに、余裕無く、せっかちに話すことは、その時
空を裏切ることになっていまうのではないかとも考え、講義では、
できるだけゆっくりと話すようにしています。
さて、今日は、今年読んだ奄美・沖縄に関わる本の中で、印象に
残ったものを一つご紹介しようと思います。それは『奄美・沖縄 哭
きうたの民族誌』という本で、今年の6月に小学館という出版社か
ら刊行されました。著者は、川村学園女子大学で、文化人類学や民
族音楽学を専攻されている、酒井正子さんという方です。酒井さん
は、奄美・沖縄の民族音楽、とくに徳之島の島唄研究者として知ら
れています。そのフィールドワーク(調査)は、相手の胸の内に深く
入り込むもので、調査が苦手な私は、酒井さんのお仕事からいつも
大切なものを教えていただきます。
この本は、奄美・沖縄(そして韓国)の、死に関わるウタを紹介し
たものです。この本では、死に関わるウタを「葬送歌」=「哭き歌」
と呼んでいます。生命を持つものである以上、避けることのできな
い人の死には、じつはウタが深く関わっていました。私は、日ごろ、
ウタについて考える機会が多いのですが、そのさい、人生のどのよ
うな状況にウタが関わるかは、大切なポイントとなります。なかで
も、よく知られるのが、出会いや別れといった恋愛の場面ですが、
人の死も、古くからウタと深く関わる人生の一場面でした。万葉集
に収められた一群の挽歌などが、そういったウタとして知られてい
ます。
日本列島最西端の島、与那国島。最近では、海中遺跡などという
もので有名になりましたが、ここに「カディナティ」という哭き歌
があることを、酒井さんは、33年忌を調査に訪れた、1996年の与那
国訪問で知ります。「カディナティ」とは、「『風無き』、すなわ
ち号泣のことで、『あはりどぉ△△△』という文句を女性たちが一
定のフシでうたう」というものです。△△△の箇所は、無くなった
方の名前が入ります。与那国では、人の死の直後から、このカデイ
ナティのメロディーに包まれるのだといいます。酒井さんは、この
本の冒頭に、2000年に行われた、ある一家の父の葬儀手について、
次のように書いています。
♪あーはーりーどーー イェエエエ いーやーよーーー
(哀れなり、父さんよ)
死の直後から、遺体の周囲はカディナティの慟哭のメロディーに
包まれる。/野辺送りではその声はひときわ高く、死遊楽はずれの
海を見渡す広大な死者の都、ニンバラ(浦野墓地)へと向かう。その
高い歌声こそ、死者をあの世に送り届けるのだという。与那国は断
崖がそそり立つ孤島で、いつも風が吹き渡っている。その風にのっ
て、痛恨の声は高く低く、ちぎれてただよう。
なんと印象的な場面でしょうか。たしかに文字ではなく、声を聞
きたいと思いも抱きますが、一方でそんなに簡単に聞いてはならな
いような気もします。この世のものではなくなった父への呼びかけ、
これがカディナティというウタだというのです。ここには、人がな
ぜ歌うのかという、人類の文化そのものに関わるような深い問いの
答えがあるような気がします。地元の方々は「その高い声こそあの
世に届く」、あるいは「この歌をうたわないと後生の扉が開かない」
と伝えていることを、酒井さんは記しています。生きている者の手
が届かない死後の世界、そこに届くのはウタだけなのです。そして、
そのようなウタの力により、この世からあの世への通路が開くとい
うのです。
私たちは、普通に話してもあまり感じることがない言葉でも、ウ
タにのせることで、深く心に届くことを経験として知っています。
日常の言葉にはない、ウタの力。これをまざまざと見せつけてくれ
るのが、このカディナティではないでしょうか。この本では、他に
も、奄美本島、徳之島、沖永良部島、沖縄諸島、そして、韓国の哭
き歌が紹介されています。これらのウタは、死のタブーに包まれて、
ほとんど外に出ることはありませんが、これを、シマの人々の深い
関係を結びながらなされる酒井さんの丁寧なお仕事が明らかにしま
す。たしかに重いテーマの本ではありますが、ウタの根元に触れた
いと思う方には、ご一読をお勧めします。
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■◇■ あとがき ■◇■
師走になると、街はなぜかウタであふれるような気がするのは、
私だけでしょうか。あるいは、こちらの歳から新たなあちらの歳に、
何かを伝えようとしているのでしょうか。
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