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君が抱く幸福
なんて幸せな国なのだろう。ウェラー卿コンラートは真白い雪に埋もれた国土を見下ろし、そう思った。 地上のありとあらゆるものを覆い隠す程の力を持った雪と云う存在は、当代魔王に似ている。 …あの方の両腕で抱かれたこの国は幸せだ。 これ以上無い程大きな宿敵だ。国に嫉妬なんて馬鹿気ているとは分かっている。 それから、ふっと溜息を吐いてしまって後悔した。この吐息は諦めから出たものだろうか、だとしたら国に負けを認めたようでは無いか。国にも渡したくは無い気持ちは本物だ。けれど、嫉妬の対象としては最悪だ。きっとあの方には嘲笑われてしまうだろう。
長い時が過ぎた。国は安定期に入って暫く経つ。平和を体現しているかのようなこの国は、コンラートとしても自慢だ。それも当代魔王の尽力の賜物である、傍で見てきたのだから当然感慨も深い。 まるで夢のような時の流れだ。その一瞬一瞬が信じられない。最愛の主が目の中に映るだけで現実感が薄れる。 他者と云うものは長く見ていれば見ているだけ、存在を高貴だとは思えなくなるものだと思っていた。けれど、どうしたものか名付け子には当てはまらない。新しく知る彼に、また愛を覚える。だからいつまで経っても彼からは離れられないのだろう。 魂から愛しているのだから、変化を成さない感情なのかもしれない。
*
深い夜だった。雪に埋もれたのは城下だけでは無い。城は真っ白に化粧して、太陽が落ちれば窓硝子の向こう側も見えやしない。 度々叩きつけるような音が耳を打つ、風が窓を打つ暴力的な音だ。 こんな夜は、聊か獣染みた気分に陥る…。 寝台を軋ませ、シーツに埋め込んだ最愛の人の体を見下ろす。白く冷たい体だ。雪を思い起こさせる。 鼻腔を擽る香りは、冬の花を想わせた。凛としていて涼しげな、けれども包み込むような柔らかな香りが華やかだ。 軍服の上着は早々に脱ぎ落とし、間も置かずベルトを引き抜く。金属が床に落ちた際に高い音を立てたが、それも些細なものだ。 膝を立ててズボンの前を早急に寛げる。下着の内側に指を突っ込み、反応を見せてはいない中身を無表情で掴み出した。 いつもは真っすぐに伸ばされた背を内側に折り、両手の指を己の性器に宛がい、慣れた仕草で扱く。 寝台に横たわる主の瞳にも表情が浮かんではいない。ただ見詰めている。それが居たたまれなさを生み、コンラートは目を伏せた。 脳内で反響するように自分の名を呼ぶ声を聴く。「コンラッド」と親しげにかけられる声が、いつしか甘く蕩けるような響きに変化していった。 指先がペニスの先を執拗に触りだし、追い詰めるような動きを繰り返す。息は大して荒れない。無音の行為だった。 ――だから驚いた。背後から楽しげな響きを持った声をかけられたのには。 「へぇ、あんたってそうやって慰めるんだ?」 肩が跳ねるように動き、恐る恐るコンラートは声の方向に顔を向ける。 鍵がかけてある筈の扉の前には、至上の色を纏った美しい人が立っていた。当代魔王陛下だ。 背筋を正す事も出来ず、ペニスに絡めた指を放す事も出来ずに呆然としてしまった。 寝台の上にはコンラート一人しかいない。寝台に縫い付けた愛しい人は妄想でしか無い。あの冬の香りも精油による芳香だ。 不覚としか言いようが無い。気配には過敏であるにも関わらず気付けなかった。それは護る対象である彼だったからだろうが、室内の空気の変化さえ察せずに欲を扱いていたとは。 「見たの初めてかも」 コンラートの眉間の皺は、発射間際で止められた為に今も苦しくそそり立つ男性器のせいだ。王の訪問を嫌ってでは無い。 ユーリは寝台横の椅子にどっかりと座りこみ足を組んだ。出て行く気は無さそうだ。寧ろ、にやにやと口許を歪めている。 「…見ているつもりですか」 「邪魔しちゃ悪いだろ?」 心からそう思っているのだったら、コンラートが何をしているのか理解した瞬間に部屋を出て行った筈だ。 コンラートは剥き出しの性器から手を離し、自らの白いシャツのボタンに指をかけると襟元から開いていった。暗い室内で浮き上がる肌をじっとユーリは見詰めている。 ボタンを全て外し終えてもコンラートがシャツを脱ぎ去る気配は無い。指はまた性器の元へと戻っていった。それにつられるようにユーリの視線も股間へと移動する。 手の甲の上に顎を乗せて傍観するユーリの表情は、愉快そうなものから段々腹立たしげなものへと変化していた。 「どうしました?」 ピクリとユーリの指先が反応する。目の前の痴態に集中していたと云うよりも、ぼんやりしていたようだ。内心で何を考えていたのかはコンラートには分からない。 「披露する甲斐がありませんね」 「披露ってあんたな…」 「貴方がそんなだから、いくにいけないじゃないですか」 先端を弄っていた為に先走りで汚れた指先をユーリへと緩慢に伸ばす。手首を捕まえてからが速かった。そのまま寝台に引き摺り倒される。 瞬きを二回して、ユーリは状況を正確に把握した。 「何だよ、一人でしたいんじゃなかったの?」 「…貴方がいるのに、どうしてそんな結論に至るんです」 「おれを呼ばなかったくせに」 見下ろした魔王陛下の目は怒りを訴えている。睨んでくる強さが眩しい。 腕の中に彼の体を納めると、冷たくなど決して無い確かな体温を感じた。肩口に顔を埋め、精油などでは太刀打ち出来ない体臭を吸い込む。 自慰があまりに切ないのは、物足りないからだろう。一度でも彼の奥深くを知ってしまうと、どんな過激な妄想でも役には立たない。 「お疲れでしょう?遅くまで会議続きで。明日も朝から外に出る暇も無い程忙しい」 魔王のスケジュールなら誰よりも把握している。こうして抱き合う時間すら取れない多忙さだ。せめて睡眠をとって欲しいと願うのはコンラートの本心だった。 「…睡眠欲と同じくらい性欲も持て余してるんだ。付き合え」 体勢が逆転する。コンラートが体重を乗せていなかった為に、体格で劣るユーリでもひっくり返す事は可能だった。 コンラートの上に馬乗りになって自身の夜着に手をかける。簡素な作りの衣服だ、裾を捲くり上げて頭を潜らせれば脱げてしまう。それからズボンも恥ずかし気無く足から抜き、放り投げれば壁にぶつかって離れた所に落ちた。 しかし肌寒くて仕方ない。外は雪が降っているのだから当然だ。だからコンラートもボタンを外しただけだったのかと理解し、ほぼ全裸になるのは浅慮だったと反省した。 震える肩を見てはいられなかったのだろう。コンラートがシャツを脱ぎ、ユーリに羽織らせる。それを苦々しく思い、ユーリはコンラートから視線を背けた。 「すぐに熱くなりますから待ってて下さい」 「…んな台詞いらねぇ」 くすくす笑っている様子からは想像出来ないが、コンラートの下肢を見れば、衣服の隙間から飛び出している陰茎がそそり立ったままだ。未だ達していないのだから当然なのだが。 「すみません。でも限界なんで、乱暴にしますよ」 言うなりコンラートは、ユーリの太股を鷲掴みし左右に割り開いた。中心にある下着も躊躇無く紐を解いて取り払う。 「おい、こら。おれ未だ全然やる気出てないんだけど!」 「挿れてしまえば嫌でも喘ぐでしょう、貴方は」 何て奴だと罵れど、堪える様子の無い臣下は頭を下げたままの主の性器を上下に扱きだし言葉を奪う。雑では無いが荒々しく、早急に熱を帯びさせるやり方だ。 「あんたの欲求解消の為に来たんじゃねぇよ!」 「…一度ユーリの中でいかせてくれれば、その後は貴方の好みで抱くから。少し黙って」 イラっとしながらも、ユーリは黙した。破裂直前まで放置したのは自分にも責任があると思ったからだ。 それに、長い事セックスをしていない。山の如き責務で押し込めていた性欲を此処まで掘り起こされたのだ、この状態で言い合いなどしたくは無い。 「ああもう、さっさと入って来いよ!んな扱かなくても、挿れれば感じんだろ、おれは!」 ユーリは腰を上げ、両手の指で奥の蕾を押し開く。当たり前だが濡れてはいない。目で探しても常用しているローションは見当たらない。ならばとサイドテーブルの上で熱されている皿に指を付ける。熱かったが呻きは漏らさずに、皿の上で揺れている精油を掬い取った。コンラートが口を挟む暇も無くその油をアナルに塗り付け、どうにか入口を作る。 そして凶器のようなペニスを掴み入口に押し込めた。久々の行為の為に抵抗は強かったが、無理に体重を使って腰を下ろせば呑み込めた。詰めていた息を漸く吐き出し、呼吸する。 「くるし…。挿れればよくなるなんて嘘だ」 「無茶をする」 苦笑を滲ませながらも、下から突き上げる。より深く抉れた体内にユーリは顔をこわばらせた。 コンラートが腹筋を使って上体を起こすとユーリを抱きかかえた。ユーリは折りたたんでいた足を伸ばすと、コンラートの背中へと絡める。 「きつい…」 「もっと締め付ければ、いく?」 「使い物にならなくなるかもしれない」 「そんなに?」 顔を覗きこめばコンラートの顔面に汗が噴き出ているのが分かる。けれど、それが少し嬉しいユーリだ。 「押し広げますよ」 縦横無尽に動き回るペニスは、コンラート自身の欲を高めているだけだ。いつも執拗に擦られる場所を中々突いてくれなかった。それを非常に残念に思ったので、意地悪をした。 「…っ!」 腹と尻に力を込めて締め付けてやったのだ。 押し出してしまうかもしれないと思ったが、深く打ち込まれた杭はそう簡単に抜けやしない。全身を一瞬で圧迫された為にコンラートの表情は苦し気に硬直したが、すぐに持ち直して動き始めたのは流石だ。ユーリは舌打ちしたが、聴こえない振りをしてくれたらしい。 そして間もなく、体内で達した。 荒い息使いが落ちて来る。ユーリは膀胱内で増した質量を堪えてからコンラートの首の後ろに両腕を回した。 「もっと早くいけよな。もう年?」 憎まれ口も耳元で囁かれれば愛しく感じるらしい。 ペニスを挿したままユーリの背中を倒し、シーツの上に縫い付ける。さて、と前置きをして、 「何をお望みですか、ユーリ陛下」 訊ねると、悪戯をする時のような表情をしてユーリは言った。 「後ろだけでいきたい」 「仰せのままに」
*
いつの間にか風は止んでいた。雪も今は休んでいる。 時間にしてはそんなに経っていないだろう。欲の赴くままに体をぶつけあった。スローセックスとは程遠い求め方をして、体はぐったりとしている。 「もう眠った方が良い。体が資本なんだから」 「あんたが言うなよな、絶対おかしな所が筋肉痛になってそうだ」 ぶっきらぼうな言い様だったが、体はぴったりと密着したままだ。胸に顔を埋めたままでは彼に愛されている事を疑う余地が無い。 「また暫くは時間取れないでしょうねぇ…」 先の予定もすらすらと言えてしまうコンラートだ。ユーリは、暫くとはどれくらいだろうかと考えて、途中でやめた。 「だからって、一人で抜くなよ」 「…耐えろと?」 「違えよ、呼べって言ってんの」 「体力削りますよ?」 「無謀な事しないで、時間短縮」 貴方を相手に無茶を言う、とコンラートは溜息した。疲れて睡眠を欲しているのに、未だ彼を得たいと思う。それくらい渇望しているのに。 「それから」 もぞもぞと手を動かしたユーリは、何でも無い顔でコンラートのペニスを掴んだ。驚いて目を剥く。 「これ、おれ以外には使うなよ」 言われた言葉の意味する所を理解すると、どくんと脈を打つ。握っているユーリはそれに勿論気付いただろうが、綺麗にスルーされた。 代わりに両腕でしっかりと抱きしめられる。背中にまわされた手は熱い。 「おやすみ、コンラッド」 瞳を閉じた恋人を見て、黒い髪の上にキスをした。 彼の腕に抱かれて、窓の向こうへと視線を向ける。曇った窓硝子では碌に見えやしないけれど、そこから見える国土を浮かべた。 …幸せなのは俺も同じだ。 満たされた気持ちで、瞼を下ろす。耳には彼の寝息だけが聴こえた。
『blind』の遠野さまから頂戴しました!
遠野さんと茶会でご一緒した時に誕生日の話になり、幸運にも誕生日プレゼントを頂けることに。
で、あたしがリクエストしたのが「(次男が服を脱いでいるのを)視姦してる大人陛下」です。
いやぁ〜、何でも言ってみるもんですねぇwww
こんなに素晴らしくもエロエロしいお話戴けちゃったものvv
やっぱり遠野さんの書かれる大人陛下と次男は最高!
体力削ってガンガン愛し合っちゃってくださいv
心潤うコンユ、ありがとーございました!!
okan
(2010/02/12)
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