2004年 4月 19日

 TOTTSUAN(SxOxB)
 



  音楽界を震撼させた、Napalm Deathの出現から、早くも十余年が過ぎ去ろうとしている。超高速ノイズ・ハードコア・バンド。超人的で超高速な演奏と、聞き取り不可能なLoud Voice。Napalm Deathは、現在の音楽シーンに確実に影響を及ぼした。あるいは音楽を変革した。更に言えば、音楽を終焉へと導いた。
 この伝説のバンド、Napalm Deathに決定的な影響を与えたバンドこそ、日本のSxOxBである。1986年、大阪で結成され、当初から世界最高速を誇っていた。いちはやく海外に紹介され、SxOxBの音楽スタイルはグラインド・ハードコアと呼ばれるExtream(究極)なバンド形態を確立し、多くのバンドを乱立させた。SxOxBこそ、音楽で日本が世界に誇れる唯一のバンドであり、世界に影響を与えた唯一のバンドである。YMOや少年ナイフは単に話題になっただけで、音楽シーンに決定的に影響を及ぼした形跡はない。しかし、SxOxBは、その音楽性、演奏スタイル、あるいはパフォーマンスにおいて、確実に影響を及ぼした。
 そのSxOxBのボーカル、TOTTSUAN(トッツァン)こと鈴木義智こそ、世界に誇れる大阪のカリスマである。原始人が踊るようなTOTTSUANのマイク・パフォーマンスと、地獄から聞こえる叫び声、あるいは煉獄から轟く重低音のうなり声。またTOTTSUANの何かにとり憑かれたような目つきは、どうしても金八先生PARTUの加藤優を想い起こさせる。
 しかし、その異様な目つきの奥に見えるのは、TOTTSUANの生真面目さだ。バンド初期の破壊的で破滅的なライブ・パフォーマンスにおいても、TOTTSUANのキレ方は尋常ではないが、何かしら生真面目すぎてキレている様相を呈している。その後、破壊的な要素を除外したライブでも、その威風堂々とした風格の中に、TOTTSUANの生真面目さが伝わってくる。生真面目ゆえに、危険とさえ感じられた。
 その生真面目さは違ったかたちで証明された。1995年6月22日、TOTTSUANは大阪の八尾駅で、電車に飛び込み自殺した。享年29歳。薬物をめぐるトラブルが原因で、生真面目なTOTTSUANは、死を選んだ。彼の死は全くメディア取り上げられなかった。音楽雑誌のほんの片隅にたった数文字、記されただけが彼の死の全てだ。ほとんど世間的には無名のまま、この世を自ら去ったTOTTSUAN。彼の功績もほとんど認知されることなく、ただ世間から良心の呵責だけで死んでいったTOTTSUAN。
 マスメディアでは、尾崎豊やらHideやらが、大々的に取り上げられ、世間はそれを涙ぐんだり回顧したり。しかし、尾崎やHide等は何を残したというのだろう。何も残さなかった。単なるセンチメンタルだけではないか。それに比べ、SxOxBのVo.TSTTSUANは全世界に確実に足跡を残し、スタイルを確立して、消えていった。TOTTSUANこそはオリジナルであった。だが、世間では誰も彼を顧みることなく、それどころか知られることさえない。
 TOTTSUANは確実にこの大地に傷跡を残して去っていった。TOTTSUAN、俺も後に続くから地獄で待っていてくれ。SxOxB。


 極私的 夭折列伝 
    トップ戻る