昨年あたりからアクティヴな言動が多い柄谷行人が、更なる啓蒙的な著書「倫理21」を発刊した。柄谷行人は本著で天皇をはじめとする責任論を、カントを引いて論究しており、そこから21世紀はどうあるべきかを示唆している。難解である柄谷行人にしては、異様なまでに平易に書かれた本著は、ぜひお薦めである。平易故に安易な解釈を読者に招く恐れはあるが、今までに見られない柄谷行人の、あるいはアカデミックな著作においては、本著は意義のあるもであろう。それは本著でも述べられているフィヒテの「ドイツ国民に告ぐ」を思わせる。
   私は昨日、本著を購入したのだが、カバーに「初エッセー」と記されてあるのを見て、「柄谷行人もおちぶれたなあ」と思ってしまったが、いざ読んでみると、平易な文章である事もあるのだが、日常具体的な事を例に引きながら難解な問題を解説している本著は、「在ってほしい」著作である。「難しい事を、簡単に書く事などできない」とかつて小林秀雄は言っていたが、まったく読まれない難しい著作よりは、意味があるのかも知れない。「他者」に対して読まれるという事で。
   個人的な事だが、私は仕事で毎日近畿大学に出入りしているが、柄谷行人を大学内で見かけた事がないのが、ずっと残念で仕方ない。
 




  倫理21 柄谷行人

  2000年 2月27日

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