Nature Column



望郷


『歴史は何も教えない』



人がこの地球に現れてから現代に至るまで,民衆はいつも時代に翻弄され,忘れ去られていく


 

 『ライダーズイン奥物部』のある高知県物部村の集落を貫け,笹温泉を左手に,笹渓谷沿いの生活林道を上って行く。



 笹渓谷には,川の大きさに不釣合いなぐらいの巨岩が散在する。
民家のすぐ傍にも美しく苔むした巨岩がどんと鎮座したりしている。



 小さな集落を通り過ぎると,よくしまったダートへ,やがて厳しい断崖淵の祖谷山林道へと続く峠にさしかかる。


そこが矢筈峠,別名アリラン峠と呼ばれるところだ。



 この地に立ち,遠く祖国を離れ,異国の辺境の地で労働を強いられた人々の望郷の思い,心痛苦痛を思う。



 看板には強制労働との文字は見られない。立場上この表現が精一杯だったのか。

けれども,過去の事実を伝えることはできた。


四国を旅した多くのライダーも,僕と同じように足をとめ,彼らの想いに胸を痛めただろう。



 日本中の林道の中には,このような歴史を持つものも多いのか,知らず知らずのうちに通り過ぎているけれど。

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