お久しぶり紀州



 2002年7月20日,湾岸線から阪和道,湯浅道路を経て,吉備インターから一般道へ清水町から南谷城ヶ森林道を目指す。案の定,清水町,高野龍神スカイライン両側から舗装化が進んでいた。ツルツルすべる濡れた舗装路を走り抜けると,峠付近から道はダートに,尾根近くでは遠く紀州の山々が望め,山深さを実感できる。

 2頭のかわゆい雌ジカに遭遇,バイクを止めるが急な斜面を一気に登って姿を隠してしまった。スカイラインに出て少し南下,人の多いごまさんタワーをパスしてすぐさま駐車場横から猪笹林道へ突入する。先週の台風の後にもかかわらず,大きなクレパスも無く快調なダート走行だ。しばらく行くとゲートがある,近づいてみると錠は掛かっていなかった。


 
腹の虫が騒ぎ出したので,行き止まり支線の林道脇で昼飯にした。 
エアロステェッチのジャケットはごつい感じだが袖口,脇,背のベンチレーションで走行中は思いの他涼しかった。でもいかんせん36℃の酷暑,バックパックを担いでいると背中はあまり換気が効かない。ジャケットを脱ぎ捨て,モトパンずらして高校生のお兄ちゃんよろしくハミパンだ。
 
 バックパックの荷を解き,ホエーブスに点火,インスタント焼きそばを途中で汲んだ湧き水で空っぽの胃袋に流し込んだ。


 
 途中から,林道は拳大の石ゴロゴロの荒れた姿に変わっていく。
日帰りかっとびライダーなら大喜びってとこだろうけど,重い荷物,重いバイク,超へたくそテクニックの僕は安全運転に徹する。

猪笹林道は24km前線未舗装,周囲の林道の舗装化が進む中,ぜひとも残して欲しいダートだ。
写真は425号線出口です。
 猪笹林道を出て国道425号を東に走る。1.5車線のクネクネ道は国道とは思えず,スピードも上がらず,睡魔との闘いが続く。

 途中の万屋で買い物をするライダーを横目でやり過ごしていたが,眠気に勝てず道路脇にバイクを止め休んでいると,さっきのライダーもバイクを止めヘルメットを脱いだ。おッ!ゲージンさんだ。

英語で独り言のようにしゃべりながら僕のバイクの周りをグルグル回り,『いいバイクだ。いい,いい,このでかいタンクはHPNだな,海外にも行くのか?』などとのたまう。英語に不習いの僕はしどろもどろで答える。どうやら通じているよう。彼はイングランドから来たマーチンさん,ロシアを経てユーラシア大陸を横断し,日本にやって来た。日本の次はタイに行くそうである。

バイクはYAMAHA XT600,海外では人気のあるタンクパニア,ツアラテックのアルミパニア等のシンプルな装備だった。XTはここまで故障無しだそうでこれも良いバイクだと言っていた。確かに僕もXT400アルテェシアに乗っていたことがあるが,シンプルで低価格,旅バイクとしての完成度は高いと思う。

良い旅をとマーチンさんはまだ見ぬ道を走り始めた。
 また狭い舗装道を,上湯温泉公衆浴場に向かう。道路横にバイクを止め,自販機の傍らの石段を降りていくと,以前有った露天風呂は無くなり,ログハウス風の『岩谷(?)温泉』になっていた。入浴料金は前と同じ500円,透明の肌がツルツルする気持ちよい湯で汗を流し,湯から上がると走行風がすこぶる心地よかった。
 
 十津川で食料の買出しを目論み走り回るが,適当な店が無い。地元の人たちはどこで買い物するんだろう?しかたなく愛想の悪いコンビニ風の店で賞味期限切れ間近,解凍済み(?)冷凍スパゲッティ,ヨーグルト,トマトを買い込み,白谷池郷林道へ向かう。
 
 天気予報どおりの雷・夕立に遭い,今更カッパに着替えるのも面倒なので木陰で雨宿り,20分程で小降りになり,重い腰をあげる。しばらく行った左コーナー,対向ワゴン車がおもいっきり寄ってきたのでうまくかわしたつもりだったが,崖から突き出た石に左エンジンガードをヒット,細い側溝にタイヤを落とし転倒してしまった。

幸運にも怪我は無い。重いGSを溝から引き出そうとするが,うんともすんとも動かない。仕方なくハンドルを下に押してみたら,右エンジンガードを支点に難なくタイヤが浮いた。うん,こりゃいい!!そのままゴリゴリと引きずってバイクを救出,エンジンガードの傷ぐらいでエンジンも一発でかかる。あたりも少々薄暗くなってきたし,さっきの転倒で弱気になっていたので,誰も来そうに無い道路脇の森林公園の休憩所を今夜の野宿地に決定する。
 さかいやのセールで新調したシェラデザインズのアストロCDを設営し,荷物を片付け,一息ついてからビールで大地に感謝を捧げ一人乾杯!!今宵のディナーはリッチに屋根付,米も炊かず冷凍スパゲッティ2人前をかき込む。すぐ横にあるトイレでオオグモにびびりながら,それでもありがたい紙つき,儀式も無事済ませる。腹も一杯,酒も回っていい気分。テントにもぐりこみ,水飲み場のしし脅しの音,虫の音,奇妙な鳥の声を聞きながら眠りに落ちる。
 朝方は結構冷えた。アストロCDは裏口は無いけど換気が良いのだ。サマーシュラフをバッグから引き出し,スッポリ体全体を入れてちょうど良い心地だった。



朝5時目がさめる。森はまだ霧の中,うだうだしながら,それしかなかったのでインスタントラーメンとインスタントのコーヒーをズルズルとすすり,撤収の準備に取り掛かる。
 野宿地に感謝の礼をし,白谷池郷林道をめざす。入り口の大きな栃の木の前で林道突入前の休憩。木漏れ日が美しい。さあと出発するが30mも行かないところに真っ赤なゲートが,施錠してあり,ついさっき作業者が進入したような形跡があった。面倒をおこしたくないのでしぶしぶ走行を断念した。
 大塔林道を貫けるか迷ったが,元来た道をもう一度走ってみることに決定。

425号を淡々と西へ。あづ〜い,朝から塩辛いラーメン食ったせいか,やたらのどが渇く。やっと見付けた自販機で冷えたペプシをゴクーリ。失敗した!芯から渇いた時はあの甘さがまた渇きを呼んでしまうのだ。野宿地で汲んできた湧き水をグビグビグビ,体にすーっと生気が戻ってきた。
 5月以来のダートに体が馴染んできたのか,今日の猪笹林道は快調である。晴れわたった空の下,汗を拭い走ってきた林道を振り返る。尾根を越す風が心地よい。ゴマさんタワーで買ってあったパンで昼飯にする。,平日なのにライダーが多い。半袖Tシャツの若者達も猪笹林道へ入っていく。暑いけどここの石は鋭角に割れているから危ないよ。転倒してガードの上から肘を切ったこともあるからね。
 
 師曰く『いつも死ぬことを考えて運転しています。そうすると自然とアクセルは緩んでくるものです。』。そして『なるべくアクセルは開けたくない,なるべくブレーキはかけたくない』はやはり林道走行の極意なんだろう。寺崎組長のごとくパワーに頼らないスムーズかつ速い走行はなかなか出来ないものだ。
 
 南谷城ヶ森林道では同じところで昨日の鹿たちを目にした。紀伊は山深い,四国のような開放感には欠けるが,多くの動物達に遭遇できる。言い返せば狭い限定された地域に追いやられているのかも知れないが,大塔林道では熊の子,絶滅したといわれるニホンオオカミかもしれない2頭の黒いイヌのような子供,カモシカ等を見かけた。ともにこの地球に生きている仲間たちの存在をまれにこの目で確かめられることは,嬉しく,また悲しいことだ。