スポイラー/スピードブレーキ・システム |
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左翼のスポイラー パネル図。番号 はスポイラーパネ ルのナンバー |
-400には片翼6枚ずつ計12枚のスポイラーパネルが装備されている。外側4枚のパネルをアウトボード・スポイラー、内側2枚のパネルをインボード・スポイラーと言う。左主翼のスポイラーパネルは左から順に#(ナンバー)1,2,3,4,5,6、右主翼のパネルは左から順に#7,8,9,10,11,12となっている。
スポイラーは減速時(や降下率を上げる時)に使用されることからスピードブレーキとも呼ばれるが、スピードブレーキの機能以外にもラテラルコントロール・フライトスポイラーとしての機能も有している。これは旋回時に下げ翼側のスポイラーパネルのみをアップさせる事により下げ翼側の揚力を減少させエルロンの働きを助けるもので、エルロンの効きが悪い低速時に主に使用される。スピードブレーキはスピードブレーキ・レバーにより、ラテラルコントロール・フライトスポイラーは操縦輪によりコントロールされる。
スポイラーパネルにはグランド・スピードブレーキ、インフライト・スピードブレーキ、ラテラルコントロール・フライトスポイラーの3つのモードがある。各々のモードで使用するスポイラーパネルは異なるが、スピードブレーキ・レバーによるスピードブレーキ・コントロールと操縦輪によるラテラル・コントロール両方の入力がミックスされた上でパネルが制御される。またスポイラーはマニュアル・インプットもしくはオートマチック・インプットにより制御される。
マニュアル・インプット パイロットの手動操作による入力
オートマチック・インプット オートスピードブレーキ・アクチュエーター・オペレーション
もしくはオートパイロット・コンピューターによる自動入力
それではスポイラーパネルの3つのモードについて、順に解説していこう。
@ グランド・スピードブレーキ
・全てのスポイラーパネルが最大45度アップする。 |
グランド・スピードブレーキは、ON GNDにおいてスピードブレーキ・レバーを引いた時に機能する。ON
GNDではスピードブレーキ・レバーの機構に内蔵されているスピードブレーキ・レバー・ディテント・ロックが解除され、DN位置からUP位置まで自由にレバーを引ける仕組みになっている。
IN FLTにおいてスピードブレーキ・レバーをARM位置にセットするとオートスピードブレーキ・アクチュエーター・オペレーションがアームされ、着陸しエア・グランド・センサーが2組ともON
GNDである事を示すと、#1およ#3スロットルレバーがアイドル位置にあればスピードブレーキ・レバーがARM位置からUP位置まで自動的に移動し、グランド・スピードブレーキが作動する。これをオートスピードブレーキと言う。
また離陸時のRTO(Reject TakeOff:離陸中断)の際リバースに入れるとスピードブレーキを自動展開させる為の機能が設けられており、エア・グランド・センサーが2組ともON
GNDである事を示し、#1および#3スロットルレバーがアイドル位置にあり、#2もしくは#4リバース・スラストレバーがリバース位置にあればスピードブレーキ・レバーがDN位置にあってもUP位置まで自動的に移動し、グランド・スピードブレーキが作動する。この機能のお陰で、例えば着陸前にスピードブレーキ・レバーをARM位置にセットし忘れていても、着陸し#1および#3スロットルレバーがアイドル位置にあり、#2もしくは#4リバース・スラストレバーがリバース位置にあればスピードブレーキ・レバーが自動的にUP位置まで移動しグランド・スピードブレーキがフルエクステンドする仕組みになっている。
ちなみにグランド・スピードブレーキは、#1または#3スロットルレバーをアイドル位置よりも前方へ進めた時に自動的にリトラクト(格納)される仕組みになっている。これは着陸滑走中にゴーアラウンドする場合や、ゴーアラウンド実施中にタッチダウンしたがそのままゴーアラウンドを継続する場合に有効な機能である。
A インフライト・スピードブレーキ
・スポイラーパネル#3,4,9,10は、最大45度アップする。 ・スポイラーパネル#5,6,7,8は、最大20度アップする。 ・スポイラーパネル#1,2,11,12は、作動しない。 |
インフライト・スピードブレーキはIN FLTにおいてスピードブレーキ・レバーを引いた時に機能する。IN
FLTではスピードブレーキ・レバー・ディテント・ロックがエンゲージされ、レバーが誤ってFLTディテントからUP位置へ入らないよう保護されている。この為、IN
FLTにおいてはレバーはDN位置からFLTディテント位置においてのみ使用可能となり、スポイラーパネル#1,2,11,12は作動しない。スピードブレーキ・レバーとスポイラーパネルの関係を示したグラフがあるので、このグラフを基に説明していきたい。
まず、スピードブレーキ・レバーのレバー角度は80度あり、0度の位置がDN位置であり、この位置ではスポイラーパネルは全て格納されている。レバー角度で8度の位置までは「遊び」の部分で、スポイラーパネルは格納されたままである。この間にARM位置がある。更にレバー角度で38度の位置がFLTディテントとなっており、IN
FLTにおいてはこの位置よりもレバーを後方に引く事が出来ず、FLTディテントがマックス・インフライト・スピードブレーキの位置となっている。グラフを見ると、スポイラーパネル#1,2,11,12はレバー角度で43度以上にならないとアップし始めない事を示している。IN
FLTではレバー角度で38度よりも後方へは引けないから、このグラフによりIN
FLTにおいてはスポイラーパネル#1,2,11,12はインフライト・スピードブレーキとしては作動しない事がわかる。
それではスピードブレーキ・レバーを徐々に引いていった時、個々のスポイラーパネルがどのような挙動を示すか見てみよう。まずレバーを8度まで引いた時、スポイラーパネル#3,4,5,8,9,10がゆっくりとアップし始める。スポイラーパネル#5,8は#3,4,9,10に比べるとアップの仕方がゆっくりである。レバー角度が28度になったところでスポイラーパネル#6,7が0度から一気に20度までアップする。そしてレバー角度38度でスポイラーパネル#3,4,9,10は45度、#5,8は20度となり、この位置がマックス・インフライト・スピードブレーキである。
ちなみにグランド・スピードブレーキとして機能する場合、その後どのような挙動を示すか見ておく事にしよう。まずレバー角度43度でスポイラーパネル#1,2,11,12が徐々にアップし始め、レバー角度75度で45度アップとなる。またレバー角度が50度になったところでスポイラーパネル#5,6,7,8は20度から一気に45度までアップする。-400の場合、オート・スピードブレーキが作動すると、約1秒間かけてレバーがDN位置からUP位置まで移動する。その為、客席からスポイラーパネルがアップする様子を見ていると、アップする迄の約1秒間、個々のスポイラーパネルがばらばらに作動しているかのような印象を受ける。
B ラテラルコントロール・フライトスポイラー
・スポイラーパネル#1〜4及び#9〜12は、操縦輪の傾け角度に応じて最大45度アップする。 ・スポイラーパネル#5及び8は、操縦輪の傾け角度に応じて最大20度アップする。 ・スポイラーパネル#6及び7は、作動しない。 |
ラテラルコントロール・フライトスポイラーは操縦輪によるロールコントロールを補助するもので、操縦輪を8°ないし14°(速度によって可変)以上傾けると、その角度に応じてラテラルコントロール・フライトスポイラーが作動する。操縦輪からの入力信号は、スポイラー・ミキサー・ユニットを介してアクチュエーターへ伝えられる。ラテラルコントロール・フライトスポイラーはON
GNDおよびIN FLTの両方で作動する。離陸前のフライトコントロール・チェックでパイロットは操縦輪を前後左右に限度一杯まで操作するが、その時エルロンと共に作動するスポイラーがラテラルコントロール・フライトスポイラーである。
スポイラーパネルはエルロンとは違って翼面よりも下方へ下ろす事が出来ないので、スピードブレーキを使用していない時に操縦輪を8°ないし14°以上傾けると、下げ翼側のラテラルコントロール・フライトスポイラーのみがアップする。ではスピードブレーキを使用中に操縦輪を傾けたらどうなるかと言うと、下げ翼側のラテラルコントロール・フライトスポイラーはアップし、上げ翼側のラテラルコントロール・フライトスポイラーはダウンする(もちろんダウンすると言っても0°よりもダウンする事はない)。例えば今、スピードブレーキをレバー角度で20度使用しているとしよう。この時、スポイラーパネル#3,4,9,10は約30度アップし、スポイラーパネル#6,7は約10度アップする。この状態で操縦輪を左へ傾けた時、スポイラー・ミキサー・ユニットから左翼側のラテラルコントロール・フライトスポイラーに10度アップを、右翼側のラテラルコントロール・フライトスポイラーに10度ダウンの指令を送ったとする。この時の各スポイラーパネルの角度をまとめると以下の通りである。
スポイラーパネル# → | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
操縦輪・ニュートラル | 0° | 0° | 30° | 30° | 0° | 10° | 10° | 0° | 30° | 30° | 0° | 0° |
操縦輪・左へ傾ける | 10° | 10° | 40° | 40° | 10° | 10° | 10° | 0° | 20° | 20° | 0° | 0° |
このように、スピードブレーキを使用中にロールコントロールを行なうと、スポイラーパネルの角度がバラバラになる事がおわかり頂けると思う。ちなみにローワーEICAS:STATページに表示されるサーフィス・ポジション・インジケーター内のスポイラーは、パネル#4及び12のみである。
単純そうに見えるスポイラーも、実はかなり複雑なシステムである事がご理解頂けたのではないだろうか。