IRSモード・セレクター
【左右に捻る】
-400には3基のIRSが備わっている関係上、モード・セレクターも3つ備わっている。左から各々L IRS,C IRS,R IRSである。モード・セレクターにはOFF,ALIGN(アライン),NAV(ナブ),ATT(アティチュード)位置があり、通常はNAVモードを使用する。ALIGNモードは後述するハイラティチュード・アラインメントやクイック・アラインメントを行なう際に使用し、ATTモードは全てのIRSがフェイルした場合やAC(交流)1〜3全てがフェイルした時に機体姿勢および機首方位を計器に表示させる為に使用するものである。通常ON GNDにおいて駐機中はセレクターがOFFになっており、飛行前のフライト&コクピット・プレパレーション時にセレクターをOFFからNAV位置にセットし、着陸後スポットインしてからOFF位置にセットする。
OFF |
IRSがOFFになる。
ALIGN |
IRSがアライン・モードになる。ハイラティチュード・アラインメントやクイック・アラインメントを行なう際に使用する。
NAV |
IRSがナブ・モードになる。
ATT |
IRSがアティチュード・モードになる。
IRSのオペレーション |
@アラインメント
飛行前にはIRSのアラインメントを行なわなければいけない。アラインメントにはフル・アラインメント、ハイラティチュード・アラインメント、クイック・アラインメント、アブリービエイト・クイック・アラインメントの4種類の方法がある。B767までの飛行機とは違ってアラインメント中にIRU内で何が行なわれているのか経過をコクピット内でモニターする事はできないが、アラインメントが終了するとプライマリーEICASに表示されていたIRS ALIGN MODE L,C,Rメッセージが消えるので、メッセージが消える事によりアラインメントが正常に終了した事を確認できる。ちなみにオプションで、アラインメントの最中にあと何分何秒でアラインメントが終了するのかND画面左上に表示してくれる機能を有した飛行機があり、PS744でも再現されている。
フル・アラインメント |
【左右に捻る】 PS744操作:右クリック1回
セレクターをOFF位置からNAV位置へ(そののち現在位置をCDUに入力)
朝一番のフライトの時やNAVモードで24時間以上飛行(途中経由地での着陸含む)する場合、または途中の航路周辺にVORなどのナブ・レディオが少なくレディオ・アップデートが不充分だと予測される時、出発前にフル・アラインメントを行なわなければいけない。フル・アラインメントには約10分かかる。どのアラインメントの際にもアラインメントの最中に機体に大きな振動を与えたり、あるいは移動させてはならない。これはIRUが地球の自転を計測するからである。セレクターをOFFからNAVにセットするとフル・アラインメントが開始される。同時にCDUのPOS INITページLSK4RのSET IRS POSラインにボックス・プロンプト(四角形の枠)が現われ、自機の位置(緯度/経度)を入力する事を要求する。ここに現在位置を入力しないでおくと、IRSはいつまで経ってもNAVモードに入らないので注意が必要だ。フル・アラインメントの最中、IRSは以下の事を自動的に行なう。
・真北(True North)の位置を算出する
・出発位置を確立する
・内部速度をゼロにする
・全てのナブレディオ・アップデート(更新)バイアスを元に戻す
・離陸時TO/GAスイッチをプッシュする事で行なわれるTO/GAアップデート・バイアスを元に戻す
・水平方向及び垂直方向の基準を確立する
・DC(直流)によるIRSの動作確認を含めたシステムのセルフテストを行なう
・CDUに入力した現在位置とFMCにストアされている最新の機体位置との比較を行なう,また緯度のサイン/コサインテストを行なう
フル・アラインメントの最中に、PFDに表示されていたATT,VERT,HDGフラッグ、NDに表示されていたTRKもしくはHDG,MAPフラッグが徐々に消え、正常な計器表示となる。フル・アラインメントが終了しNAVモードに入ると、プライマリーEICASに表示されていたIRS ALIGN MODE L,C,Rメッセージが消える。
ハイラティチュード・アラインメント |
【左右に捻る】 PS744操作:右クリック1回、左クリック1回、17分以上経過したのち右クリック
セレクターをOFF位置からALIGN位置へ(そののち現在位置を入力)→最低17分経過したのちNAV位置へ
ハイラティチュード・アラインメントは自機の駐機位置が北緯/南緯70°12.0’〜78°15.0’の間にある時に行なう。アラインメントの原理はフル・アラインメントと変わらないが、操作はワンステップ増える。フル・アラインメントよりもアラインメントに時間がかかるのは、高緯度においては地球の見かけ上の自転速度が遅くなる為、真北の位置を測定するのに時間がかかるからである。まずセレクターを3つともOFFからALIGN位置へセットする。これでアラインメントが開始される。CDUのPOS INITページに現在位置を入力、17分以上待つ。そののちセレクターをNAVにセットする。プライマリーEICASに表示されているALIGNメッセージが消えたらアラインメントは終了だ。
クイック・アラインメント |
【左右に捻る】 PS744操作:左クリック1回、現在位置をCDUへ入力したのち右クリック1回
セレクターをNAV位置からALIGN位置へ(そののち現在位置を入力)→NAV位置へ
クイック・アラインメントは経由地でターン・アラウンド時間が短い時、パイロットのワークロードを減らす為に使用される事があり、アラインメントに要する時間は約30秒である。但し前回のレグで長距離路線を飛んできた時はIRSドリフトの影響によりIRS POSにエラーが生じてきているし、次のレグが短距離路線であってもVORなどのナブ・レディオが少ない時はレディオ・アップデートが不充分になるので、この時はフル・アラインメントを行なわなければいけない。クイック・アラインメントについて、現役-400パイロットはこう話している。「国内線などのようにターン・アラウンドが短い場合は、クイック・アラインメントです。フル・アラインメントでもINSほど時間はかからないのですが、一度シャットダウンしてしまうとクイック・アラインメントよりも時間がかかってしまいますからね。それにINSと違ってDME updateが完璧なので、クイック・アラインメントで充分なのです」日本国内のようにナブ・レディオが充分備わっている所では経由地でのクイック・アラインメントが一般的になっている。クイック・アラインメントを行なう際は前レグの着陸後、モード・セレクターをOFFにせずNAV位置のままにしておく。そしてアラインメントを開始する時にセレクターをALIGN位置にセットする。これによりCDUのPOS INITページLSK4RのSET IRS POSラインにボックス・プロンプトが表示され、現在位置の入力が可能となる。現在位置の入力が完了したら、再度セレクターをNAV位置に戻す。アラインメントの最中、IRSは以下の事を行なう。
・出発位置を確立する
・内部速度をゼロにする
・CDUに入力した現在位置とFMCにストアされている最新の機体位置との比較を行なう,又緯度のサイン/コサインテストを行なう
アブリービエイト・クイック・アラインメント |
【左右に捻る】 PS744操作:左クリック1回、右クリック1回
NAV→ALIGN→NAV
アブリービエイト・クイック・アラインメントはクイック・アラインメントと同様に経由地でターン・アラウンド時間が極めて短い時、パイロットのワークロードを減らす為ごくたまに使用される事があり、アラインメントに要する時間は約30秒である。アブリービエイトとは短縮という意味で、クイック・アラインメントよりも更にワンステップ操作が省かれる。アブリービエイト・クイック・アラインメントを行なう際はクイック・アラインメントと同様に前レグの着陸後、モードセレクターをOFFにせずNAV位置のままにしておく。そしてアラインメントを開始する時にセレクターをALIGN位置にセットし、すぐにNAV位置に戻す。CDUに現在位置を入力しないので、IRS POSは前回のレグで使用されていたPOSがそのまま使われる事になる。アラインメントの最中、IRSは以下の事を行なう。
・内部速度をゼロにする
A出発前のFMS/CDUへのIRS POSへの入力
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フル・アラインメント、ハイラティチュード・アラインメント、クイック・アラインメントにおいては、アラインメントの最中にCDUへの現在位置の登録が必要だ。IRSはここに入力された現在位置を基に、以後IRS POSを絶えず算出する事になる。まずIRSモードセレクターを各アラインメント手順に従って所定の位置にセットする。次にCDUのPOS INITページへアクセスする。 | |
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LSK2LのREF AIRPORTラインに出発空港の4レターコードを入力しよう。例えば現在伊丹空港で駐機している場合、CDUのキーボードでRJOOとタイプする。するとCDU最下方のスクラッチ・パッドと呼ばれる空白の部分にRJOOと表示される。次にLSK2Lをプッシュする。これによりLSK2Lにデータが入力された事になる。当該空港の標点(AIRPORT REFERENCE POINT)のコーディネート(緯度/経度)がFMSのNAVデータベースから呼び出されLSK2Rに表示される。一方でLSK1RのLAST POSラインに表示されているコーディネートは、FMSが記憶している最新の現在位置だ。但しこれは全IRSがOFFになっている時に機体を移動(例えばトーイング)した場合に正確な位置を示さなくなる。また現在ゲート(スポット)に駐機している場合、LSK3LのGATEラインにゲート・ナンバーを入力する事により、当該ゲートのコーディネートがNAVデータベースから呼び出されLSK3Rに表示される。パイロットがチャート類からゲートの緯度/経度を調べなくても、FMSがゲートデータを記憶してくれているので便利である。 |
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ところでIRSモードセレクターを所定の位置へセットすると、LSK4RのSET IRS POSラインにボックス・プロンプトが表示される。ここに現在位置を入力して下さいよ、という意味だ。そこでここにLSK1R,2R,3Rいずれかのコーディネートを入力する事になる。もちろんLSK4Rにコーディネートをマニュアル入力する事もできるのだが、誤入力の可能性があるのでお奨め出来ない。LSK1R,2R,3Rいずれかのデータが使えるのであれば、それをLSK4Rに転送した方が手っ取り早いのである。LSK1R,2R,3Rの内どのデータを使用すればいいのかは、駐機している状況によって異なる。一番確実なのはゲートに正確に駐機している場合だ。この時、LSK3Rをプッシュしてゲートのコーディネートをスクラッチ・パッドに移した上でLSK4Rをプッシュすると、当該ゲートのコーディネートがLSK4Rへ転送(トランスファー)される。これでIRSに現在位置(初期位置:イニシャル・ポジション)が登録される訳だ。PS744ではデフォルトでいくつかの空港のゲートデータしかPS744のVデータベースに収録されていない。特に日本国内の空港のゲートデータは1つも入っていないというお寒い状況である。しかし幸いな事に海外の方が日本国内を含む全世界8000に及ぶPS744用のゲートデータ・ファイルを公開しており、これをダウンロードしてPS13フォルダの中に入れてデフォルトのファイルを上書きすれば、日本国内のフライトもリアルさが増してさらに面白くなるだろう。私のHPのPS1.3アドオンファイルページにおいて当該ホームページへアクセスする事ができるので、PS744ユーザで導入されていない方は是非ともインストールして頂けたらと思う。 |
BATTモードとは?
このモードは普段の飛行では使用しないものであり、全てのIRSが故障したりACバス(電気系統の母線)1,2,3がともに故障した時の緊急モードとして使われる。これらが故障するとPFDやNDのほとんどがブランクとなってしまい、このままでは航法を続ける事ができなくなってしまう。そこでATTモードによりPFDの水平儀とNDのヘディング・インフォメーションを再度表示させるのだ。ヘディング・インフォーメーションが得られればND画面をVORモードにしてVORをマニュアルチューンする事により昔ながらの航法で飛ぶ事ができるし、PFDの水平儀が復活すれば小さな予備水平儀(PS744には備わっていない)に頼らずに済む。但しATTモードで与えられる情報は極めて少ないので注意が必要である。ちなみに実機ではオプションで機長席側にRDMIを備えた機体もあり、その機体ではRDMIによりVORやADFを受信する事ができる(受信の設定はCDU
NAV RADページにて行なう)。このオプションは日系航空会社ではともに採用している。PS744ではこのRDMIは装備されていない。
ではIRSが3つともフェイルしたらどうなるのか、実際に試してみる事にしよう。
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IRSが3つとも故障してしまう。プライマリーEICASにコーション・メッセージが表示される。 PFD内の水平儀、昇降計、ヘディングポインターとND内のMAP画面、ヘディング・ディスプレーがブランクとなり、自動操縦が自動的に解除される。 現在位置の情報がインヒビットされる為、CDUのPOS REFページへアクセスしても現在位置がブランクとなっている。 ND画面のモードをMAPモードからVORモードに変更しておこう。 |
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実機では予備水平儀、予備高度計、予備速度計が配置されているが、PS744ではCRTが故障した場合やIRSがALIGNもしくはATTモードに入りCDUにPOS
INITもしくはPOS REFページが表示されている場合、シーナリー画面上方に予備速度計、予備高度計、予備コンパス計が表示される仕組みになっている。 まず全てのIRSモードセレクターをATTモードにセットする。 続いてCDU POS INITページにアクセスし、LSK5RにSET IRS HDGが表示されている事を確認して予備コンパス計に表示されている現在の機首方位を入力する。この為、入力する間は機体をウイングレベル(バンク角0度)にして機首方位が変わらないようにしなければいけない。 |
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予備コンパス計に135度と表示されているのでLSK5Rに135と入力する。すると数秒後、NDのヘディング・ディスプレーに135と表示される。 |
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これであとはVORによる航法を行なう事になる。CDU
NAV RADページにてVORをマニュアル・チューンする。 ちなみにジャイロの特性上時間の経過と共にドリフトが生じるので、15分おきにCDU POS INITページLSK5Rへ現在のヘディングを予備コンパス計にて確認して入力しなければいけない。 |
トリプルIRSフェイルの状況下では、LNAVやVNAVなどAFDSを使用したフライトはできない。NAV RADページにおいてVORをマニュアル・チューンし、完全な手動操縦で飛行を継続する。洋上飛行でこのような事態が発生しない事を祈るばかりである。最もIRSモード・セレクターをATTモードにしなければいけないような事態が発生する事は、まずないと思うが……。
この一連のオペレーション・プロシジャーについてはPS744のビデオにも収録されているので是非ご覧頂きたい(インストラクターズ・ページOptions項のLoad Videoをクリックし、Triple IRS failure,ZZZZZ023.VDSをクリック、OKボタンをクリックする事で再生される)。
ちなみにこのシチュエーションを実際に体験してみたい方は、以下の方法により再現する事が可能である。
まず適当なシチュエーション・ファイル(巡航飛行中であると良い)を選択し、インストラクターズページAirplane項のAdd Malfunctionをクリックし、IRS Fault Any IRUを選択し飛行、EICASにIRS故障表示が出た所でインストラクターズページに戻り再度IRS Fault Any IRUを選択し飛行、もう一つIRSが故障した所でまたインストラクターズページに戻り再度IRS Fault Any IRUを選択し飛行する事により3つ全てのIRSをフェイルさせる。