EECとは……

EEC(Electronic Engine Control:電子エンジン制御装置)はFADEC(Full Authority Digital Electronic Control:全自動電子式エンジン制御装置)を構成する重要な装置で、最適なエンジン推力が得られるようエンジンをコントロールするものです。EECは各エンジンに備わっていて、推力に関するパラメーターやスロットルレバーによる推力調整の状況などをモニターおよびコントロールし、エンジン関連パラメーターのデータをプライマリーEICASおよびセカンダリーEICASへ表示します。
在来型747ではEECの前身であるFCU(Fuel Control Unit)によりエンジンの保護を図っていて、FCUによりTIT(Turbin Inlet Temperature:タービン入口温度)をスロットルレバー角度に対応させる事でパイロットがTITを的確に制御できるようにし、かつエンジンの加減速に際してコンプレッサーストールが発生しないよう燃料流量を的確に調整できるようにしています。
-400で採用されたEECはこのFCUの機能を飛躍的に向上させ、以下のような機能が付加されました。

・エンジン・コントロール・システムが相互に独立した2系統になった。
・離陸出力/上昇出力/アイドル出力に対応するスロットル・レバー角度は、速度/気温/気圧高度に関係なく常に同じ位置になった。
・許容される最大出力は、前進出力/逆噴射出力ともにスロットル・レバーのメカニカル・ストップ・ポジション(スロットル・レバー/リバース・レバーを最前方位置まで押し進めた位置)で得られる。
・スロットル・レバーの個々の特性による微妙なズレがなくなった。
・N1/N2のレッドライン・リミットを超えない保護機能がある。
・デジタル・エア・データ・コンピュータ(DADC)が故障してもエンジンの制御を継続できるよう、必要なエア・データはエンジン側で独自に得られるようになっている。
・エンジン・スラスト・パラメーターを現在の出力とスロットル・レバーにより指示した出力の両方とも表示できるようになった。
・エンジン・コントロールに必要な電力は、エアプレーン・エレクトリカル・システムと別にエンジン側で独自に作っている。
スロットル・レバー角度と実際に出る出力との関係がほぼ比例するようになった。
・スロットル・レバーを操作するのに必要な力が必要最小限まで小さくなった。
・電力/油圧用のブリード・エアの調整が自動で行なわれる。
・サージ・ブリードのオート・モジュレーションができるようになり、エンジンの安定性/性能が向上した。
・スロットル・レバーの動きに対しオーバーシュートする事なく早く安定して応答させられるようになった。
・エンジン出力の加減速に要する時間のバラツキが減少し、エンジンの劣化に影響されにくくなった。

EECにはNORM(ノーマル)モードとALTN(オルターネート)モードとがあり、オーバーヘッド・パネルにあるEECモード・スイッチによりNORMとALTNいずれかのモードをセレクトする事ができます。

NORMモードでは、EECN1計(GEエンジン)もしくはEPR計(PWエンジンおよびRRエンジン)を推力設定のパラメーターとして使用します。EECは絶えず現在の最大出力を算出し、スロットル・レバーを最前方位置へセットした時に最大出力が得られるよう推力をコントロールします。また通常EECはエンジンがオーバーブーストしないようN1GEエンジン)もしくはEPRPWエンジンおよびRRエンジン)をコントロールおよびモニターしています。但し出力がアイドルの時およびエンジン・スタート時はN2のみをコントロールするので、A/Tアーム・スイッチ(MCP)がARM位置にある時にFMCにより作動する各エンジン間のオート・トリミング(自動的に回転数を同調させる機能)もN2に対して行なわれ、この時のN1の値は必ずしも一致しない事になります。この為アイドル出力で各エンジンのN1に3%以上の差が生じると、EICASアドバイザリー・メッセージ >IDLE DISAGREE が表示される事があります。

FMCによるオート・トリマーはA/T アーム・スイッチがARM位置にセットされている時にのみ働く。但しA/TモードがHOLDモードの間はHOLDモードがエンゲージされる直前のトリム・コマンドのままになる。

・FMCは、スラストが最も大きいエンジンのN1をターゲットN1としてセレクトする。
・FMCは残りのエンジンのEECに対して△N1トリム・シグナル(リファレンスN1とコマンドN1の差)を出し、各EECは△N1トリム・シグナルの分だけコマンドN1を増加させてエンジン間の出力のばらつきを解消する。
・他のエンジンをエンジンのトリム調整範囲内一杯にアップしても揃わない場合、FMCはスラストが最も大きいエンジンのN1をトリム調整範囲内でダウンして合わせようとする。従ってオート・トリマーによる調整範囲は最大でトリム調整範囲の2倍になる。但しリファレンス・スラストにセットする時は、リファレンスN1以下に下がる事はない。
・A/TアームスイッチがARM位置にセットされておりマニュアル・モード/地上では、左右のエンジン出力の違いを旋回操作などで使えるようにスラストが最も大きいエンジンのActual N1がターゲット・スラストの5%N1内に入ってからオート・トリマーが働き始める。
・トリム・コマンドは19500FTまで±1.5%、それ以上の高度では±2.5%がトリム調整範囲の最大となるよう抑えられており、これを超えた△N1 トリム・シグナルは無視される。従って任意のスロットルレバーをアイドルに絞った際、A/Tアーム・スイッチがARM位置にセットされておりオート・トリマーが働いている時のアイドルN1と、A/Tアーム・スイッチがOFF位置にセットされておりオート・トリマーが働いていない時のアイドルN1は同じ値になる。

EECはスロットル・レバーの角度に応じた推力を供給します。パイロットもしくはA/Tがスロットル・レバーを希望する位置にセットすると、EECはスロットル・レバーの位置に応じたN1(GEエンジン)もしくはEPR(PWエンジンおよびRRエンジン)を算出し、フューエル・メタリング・ユニットに信号を送り燃料の流量(FF)を制御し推力調整を行ないます。-400ではFADECにより推力制御はケーブルではなくフライ・バイ・ワイヤで行なう為にスロットル・レバーにいわゆる「遊び」がなく、ダイレクトにエンジンを制御する事ができ、スロットル・レバーを希望する位置にセットしたあとは個々のエンジンの特性や飛行環境、抽気(ブリード・エア)系統の負荷を考慮した上でスロットル・レバーの位置に応じた推力を継続的に供給します。この為、飛行環境が変化してもスロットル・レバーの位置が移動していなければ同じ推力が得られる訳で、在来機のように飛行環境が変化したから各スロットル・レバーの微調整が必要だという事もほとんどありません。
またEECはN1/N2を常にモニターしていて、レッドライン・リミットである117.5%N1および112.5%N2を超えないよう自動的に制御し、EECの故障によりオーバースピード・プロテクションが働かなかった場合でも、HMU(ハイドローリック・メカニカル・ニユット)のオーバースピード・ガバナーにより113%N2でバイパス・バルブを開き強制的にFF(燃料流量)を下げる仕組みになっています。このオーバースピード・ガバナーはエンジンをスタートする度にセルフテストが自動的に行なわれ、テストにフェイルするとSTATUSメッセージ ENG X OVSP GOV がSEC EICASのSTATページに表示されます。
飛行中もしくは地上でアイドル出力にセットした時、
EECは状況に応じてアプローチ・アイドル(フライト・アイドル)もしくはミニマム・アイドル(グランド・アイドル)にします。ミニマム・アイドルは地上で供給されるアイドル出力であり、これが最小出力となります。一方でアプローチ・アイドルは飛行中にフラップ角を25度もしくは30度にセットした時、またはナセル・アンチアイスが使われている時、あるいはスラスト・リバーサーが作動しかかる/作動をやめる時、もしくはイグニッションがオンの時に供給されるアイドル出力で、ミニマムアイドルよりも推力は大きくなっています。これはアイドリング状態からのレスポンスが悪いジェット・エンジンの特性を考慮したもので、ゴーアラウンドやウインドシアからの脱出時、より早くアイドル出力からゴーアラウンド出力までエンジンをスプールアップできるよう図ったものであります。

EICASメッセージリスト》
EICASメッセージ レベル 内  容
>ENG(14) LIM PROT C 当該エンジンのEECALTNモードであり、N1回転数が運用限界を超えた時。
>ENG (14) EEC MODE A 当該エンジンのEECALTNモードとなった時。