Last Night A Record Changed My Life

secretlife

(MOJO誌 2004年10月号より)


発表当時は不評だったスティーヴィー・ワンダーの『シークレット・ライフ』。しかしこのアルバムはプリファブ・スプラウトのパディ・マクアルーンをソングライターにさせました。

10代の頃からずっとスティービー・ワンダーが好きだった。「Living For The City」を聴いてすごい曲だって思ったけど、買おうと思った最初のアルバムは『シークレット・ライフ』なんだ。アルバムタイトル(原題:Journey Through The Secret Life of Plants)にはたぶん多くの意味が含まれてるんだろうけど、映画を見ることのできないスティーヴィーがサウンド・トラックを作ったというところに興味を引かれた。映画を見たかって?あいにく見てないけど、きっとこの美しい音楽は映画にピッタリあってるんじゃないかな。そう確信するよ。
このレコードを買った頃、それは1980年だったけど、ちょうど自分のソングライティングのスタイルを確立しようと模索してた時期で、アルバムの中に収録されている数曲に影響を受けた。初期のプリファブ・スプラウトのアルバムを聴いて影響を受けた部分を推測するのは難しいだろうけど、『Swoon』に収録されている「Technique」は顕著にその影響を受けてる。自分自身を思うまま自由に広げていけるって感じたんだ。「On Outside My Window」には「可愛いアイシャ」の名残りがあるけど、歌われているのは赤ちゃんでなく植物で、歌詞を読んでみると、ラッパスイセンのことだってわかる。スティーヴィーは植物のことを歌ってるけど、ひとつの声でひとつの植物、そしてそれが集まって全体を作っていくという構成にしてるんだ。
コンセプト・アルバムって言葉を使いたくないけど、こういうアルバムについて話す時にはそうはいかないだろうね。年をとるにつれて、同じテーマで何曲か作りたいと思うようになってきた。このアルバムはどんなプロジェクトであってもいいタイトルをつければいいスタートをきれるってことを教えてくれたんだ。(註:パディはダイアナ王妃、マイケル・ジャクソン、地球の歴史をテーマにしたまだレコーディングされていない曲を書いている)シングルじゃテーマ全体を表現しきるのに不十分だって思うときがあるよ。それにこのアルバムでは「Venus Flytrap」や「Ecclesiastes」のようなシンセサイザーを使ったインストルメンタルをすごく気に入ってるんだ。電子楽器じゃソウルを表現できないなんて言う人がいたのをまったく気にしないでやってることに感銘を受けた。スティービーの電子楽器のセンスはあの面白い「Superstition」を作るのにも役立ってるよ。
1988年にスタジオで「ナイチンゲール」を録音した時、やっとスティーヴィーと話す機会を持てた。スタジオではスティーヴィーの隣の部屋を予約してたから、ちょっとだけ演奏してもらえないかって頼んだら、ありがたいことに受けてくれたんだ。スティーヴィーはどんな感じだったかって?本当にいい人だったよ。スティーヴィーに対してどういう風に演奏してほしいかを説明する奇妙な立場だったんだけど、ファンキーさを少し抑えて欲しいって頼んでみたんだ。そしたら謙遜でもなんでもなく、注文通り、ちょっぴりファンキーな素晴らしい演奏をして、OKかどうか聞いてきた。
数年前、このアルバムが大きな周期をめぐって再び自分の中に入ってきた。自分の眼の病気がこのアルバムに対する印象を強めたんだろうね。(註:パディは網膜剥離のため一時的に盲目になった)人生を通してずっと盲目だったスティーヴィーとでは大きな違いがあるけど、一時的に盲目になった時、自分にとっては微妙な時期だったんだ。ちょうど結婚して、父親になろうという時期で、しっかりとした生き方をしないといけないと自覚した時だった。僕がどうしたかって?面白いことに、内面の世界に深く入り込んで、想像の世界に身を任せるようになった。その間ずっとラジオを聴いていて、『I Trawl The Megahertz』(註:ラジオのダイヤルをチューニングする旅にナレーションをつけた2003年に発売されたパディのソロアルバム)の着想を得たんだ。
『シークレット・ライフ』が発売された時、評判が悪かったのはちょっとばかり不当だったと思う。収録された小曲の何曲かはサンラみたいな感じで、信じがたいほど立派なアルバムなのに。このアルバムをチャリティーショップで見かけることがあっても、もう買えないんだ。だって人にあげるためにいつも手元に3、4枚はとってあるからね。

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