"Interview with Paddy McAloon" by Sylvie Simmons

『MOJO4MUSIC』

記事:シルビー・シモンズ(www.mojo4music.com
Paddy


長い長い沈黙の後、プリファブ・スプラウトはニューアルバム「The Gunman And Other Stories」をひっさげて戻ってきた。新しいアルバムの中には新曲の他にシェールの為に書かれた曲が1曲、数年前ジミー・ネイルがカバーした曲も数曲収録されている。かつてブリット・ポップの救世主と言われた男がプリファブ・スプラウトは今どうなっているのかを語ってくれている。


●カウボーイについての"とてもゆるいコンセプトアルバム"の製作時にパニック状態になったとおっしゃいましたが、ソングライターとして神経質になってたということですか?

ある意味ではそう。正直に言えば怠惰になってた。いや怠惰っていうのとも違うかな。描写するイメージや方法が尽きてしまうじゃないかって悩んでたんだ。例えば本を書く場合だったら、1つのテーマにこだわって300ページは書けるかもしれないけど、歌っていうのは大きなアイデアも食い尽くしてしまうから、1曲作ったらまた別のテーマに行かなきゃいけない。

自分の思ったことを曲にする時、「これって前にやったことあったかな?」って自問してみるんだ。以前にやったことがあるなら新しいものを見つけなきゃならない。そうして僕はカウボーイのテーマを思いついた。カウボーイには究極のヒロイックイメージがあるからね。


●スティーブ・マックイーン、アルバーカーキなど、あなたはいつもアメリカに対する強迫観念を持っています。それはあなた自身の故郷であるニューキャッスルをアイダホ州に見立てたようなニューキャッスル風のアメリカなのですか?

まったくそのとおり。それは夢のアメリカなんだ。昔はじめて人から「あなたの書く曲にはアメリカに関するものがたくさんありますよね」って言われた時、馬鹿げてるように思うかもしれないけど、僕自身まったくそんな風には考えてなかったんだ。おそらく自己認識が驚くほど欠如してたんだろうね。アメリカに関する曲を書いてることすら自分ではわかってなかった。アメリカの音楽を聴きながら、たくさんの西部劇を見て育ってるから、それが風景の一部のようになってるんだと思う。

小さい頃から音楽や映画でアメリカのイメージを見てるから、僕のアメリカのイメージはまさにニューキャッスル風のアメリカってことなんだけど、どうやってそんなイメージが浮かぶのか自分でもまったくわかってない。そのイメージは本当のアメリカよりいくぶんエキゾチックかもしれないし、僕が実際に住んでるニューキャッスルよりはテーマにする価値があるかもしれない。これはわかりきったことなんだけど、曲のテーマにするには僕はその夢のアメリカをちゃんと目指さなきゃならないんだからね。若い時は自分の住んでた北部の小さな町から逃げ出したかった。だからこそ違うものについて書いてた。でも今はもう逃げ出したいなんて思わなくなったし、今でもまだ自分の生まれたところのすぐ近くに住んでる。なんでまた今回もアメリカになってしまうのかは自分でもまだわからないんだよ。


●何曲かは以前ジミ-―・ネイルが歌った曲ですよね?

そう。このアルバムに収録されてる多くの曲が他人の為に書かれた曲で、ジミー・ネイルがやったのは「Cowboy Dreams」「Love Will Find Someone For You」「I'm Troubled Man」「Blue Roses」の4曲、それは依頼されてやった仕事なんだ。ジミーはニューキャッスルから出てきてカントリー&ウェスタンの歌手になりたがってる男が主人公のTV番組をやってた。カントリーはニューキャッスルでは本当にポピュラーな音楽なんだよ。ジミーは僕にこう言った。「TVで流れてるようなカントリーミュージックは今のレコード会社にはほとんど相手にされてない。それが問題なんだ。だから君には今のレコード会社がこの番組に出てくるシンガーソングライター志望の男と契約したがるようないい曲を作って欲しい」頼まれてやった仕事だけど、僕はいいチャレンジができたと思ってる。

頼まれ仕事は自分のやってることからさほどかけ離れたものでもないんだ。おそらくプリファブ・スプラウトとして曲を書くより、音楽的にはちょっとシンプルになるし、コードもたくさん使わない。歌うのは一人のシンガーだし、曲の全体像もわかりやすいものにならざるをえない。でも手間はかかるけど、この仕事はうまくできそうだと思った。自分が歌わなくていいって、あらかじめわかってる曲を書くのにワクワクしたし、曲を通してあるひとつの物語を描くという本来の目的を持てて、ゾクゾクするような快感も覚えたよ。制限事項を持つと拘束衣を着せられるような束縛を受けることになる。でも同時に、他人の為に書く曲だからあまり奇想天外なことはできないとか、TV番組の登場人物に沿った曲でなきゃならないっていうこれらの制限事項が、かえって表現力を自由に解放してくれるんだ。


●その後であなたはシェールに「Gunman」を書いてます。

ジミーが僕の曲を歌った1年後に、ワーナーのジミーの担当者が今シェールが風変わりなレコードを作ってるって言ってきた。そんなこと言われても、風変わりなシェールってイメージしにくいよね。もともと風変わりだし、シェールはシェールなんだから。子供の頃の僕はシェールのファーストアルバム「Gypsies Tramps & Thieves」が大好きだったんだよ。

だから僕はその仕事を引き受けて、ちょっとサウンドトラックみたいな感じの曲を書いて欲しいって言われたから、その中間ぐらいの小品を彼女の為に書いたんだ。実際はトータルで8分とちょっとした短編映画ぐらいの長さになってしまったけど。曲をワーナーに持って行ったとき、担当者からは「ボーカルが入るところが3分しかないじゃないか!」って言われたよ。アレンジしたトレバー・ホーンは気に入ってくれてシェールに歌うように薦めてくれた。でもこれは僕の想像なんだけど、シェール自身はこの曲を気に入ってないんじゃないかな。今まで聴いた曲で一番変な曲だとか言ってたと思うよ。この曲はいくつかの確信的な手法で彼女の過去の作品と関係付けてみた。でも彼女はそれに気づいてくれなかった。そのことにちょっとがっかりしてるんだけどね。


●他人に曲を提供する仕事は長らく待たされたプリファブ・スプラウトとしての活動にはどういうことをもたらしましたか?

自己防衛システムってやつさ。他人に曲を書くときはいつも自分に言い聞かせていた。もしジミー・ネイルと一緒にやらなかったら、それにもしジミーが僕の書いた曲を気に入らなかったら、僕はプリファブ・スプラウト用の曲を書いたほうがいいんじゃないかってね。当時、ジミー・ネイルの為に仕事をしてるって何人かに言ったら、ボツにした曲をやっつけ仕事で彼につかませてるかのように思われて、ジミーに対して同情的な態度をとられたんだけど、それって侮辱だよね。僕にとって仕事を終わらせるには、その仕事を好きになって没頭しなきゃならない。はじめはあまりうまくはいかなかったかもしれないけど、やってる途中でその作業にのめり込むようになって、数曲を書き上げた。曲の構成と全体像はかなり様式化されて、トラディショナルな感じになったけど、すべてがしっくり馴染んで、こうあるべきだってものになった。そして頭の片隅で「いつかこれをプリファブ・スプラウトでもやってみよう」って思ったんだ。


●プリファブ・スプラウトの現在の正式なメンバーは誰ですか?あなたと弟のマーティンとセッションに参加したメンバーですか?

僕だけだって言うようにしてる。っていうのは1日のほとんどの時間、ひとりで曲を作ってるから。でも恐ろしいことにレコードを作る作業にはちっとも関わってない。僕はほとんど演奏しないんだ。だからメンバーは僕とマーティンってことになるだろうね。ウェンディは実質的にグループから脱退してしまった。彼女が歌うのを僕がやめさせたわけじゃないよ。人生はどんどん流れてて、ウェンディは男の子を産んで、聖アレクサンドロ技術学校で教鞭をとって、ボイス・ムーヴメント・セラピーをやってる。グループの中で民主的な手順を踏むことに対して僕が十分な敬意を払ってたとは思ってない。プリファブ・スプラウトはそういうバンドなんだ。グループにはそのバンドがどういう方向性に行こうとしてるのかっていうヴィジョンが必要とされる。そのヴィジョンがよくないなら僕に言ってくれ、気に入ってくれたら一緒に演奏しようって具合にね。でも僕はそんなグループのヴィジョンなんかにかまってられない。

これって驚かれるようなことかな?正直に言わせてもらえば、プリファブ・スプラウトはソロ・アーチストのようなアプローチでやってる。だって僕が全部曲を書いてるんだからね。ニール・コンティには「君には職人的なドラマーは必要ない。君のすることにあわせて適切なドラマーを選ばなきゃならない」ってきわめて丁寧な口調で言われたことがある。でもまさにそのとおりなんだ。ニールはその時、僕が書いたプリファブの昔の曲を他のシンガーが歌うアルバムを作る作業をしてたから、そこではよりソウルフルでオープンな彼の演奏が聞けるかもしれない。よく思うんだけど、ツアーをしないなら、バンドとしてやることはほとんどないよね。その仕事にあった正しい人選をしなきゃならないっていうのが僕の結論で、グループっていう概念にはもううんざりしてるんだ。


●ツアーをする予定はありますか?

いつだって可能性はある。去年10年ぶりに短期間のツアーをした。とてもうまくいったよ。だけどライブは僕の後天的な第二の天性でやってるってことがわかったんだ。だからもう集中的にツアーをすることはない。だってツアーに出ると僕の天分である曲を書くことからずっと引き離されてしまうからね。


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