Guardian Unlimited

Friday June 22, 2001


記事:ガーディアン紙 2001年6月22日



プリファブ・スプラウトのシンガーでソングライターでもあるパディ・マクアルーンはきびきびとした口調で物腰柔らかに愉快に話す。パディはこれまでの人生ずっと完全なるメロディを追い求めてきた。そのメロディの探求は新たな段階を迎え、子供時代からのヒーロー、デビット・ボウイの盟友であるプロデューサーのトニー・ヴィスコンティとギターリストのカルロス・アロマーとタッグを組んだ。その最新アルバム『The Gunman and Other Stories』は今週初めに発売される。


「僕は子供の頃トニー・ヴィスコンティがプロデュースしたTレックスのレコードが大好きだった」今もニューキャッスルに住むパディ・マクアルーンは説明する。パディは今日のインタビューのためにお気に入りの物をいくつか持ってきてくれた。「そしてカルロス・アロマーがギターを弾いてるベルリン時代のボウイのレコードも僕のフェイバリットになった。1978年当時のボウイのスタイルはとても意図的なものだった。僕と弟のマーティンはボウイが次に何をするかを当てるゲームをしたんだ。当時のボウイはソウル・ミュージックをやったばっかりだから次はカントリーが来るって予想した。そして僕らはボウイを出し抜こうとして先に『ファロン・ヤング』って曲を作った。今回のアルバムはいわばその時のアイデアの続きさ。ボウイが大好きだったのは、僕が成長してた頃にはやってた他の単なるロック・ミュージックよりエキサイティングで包容力があったからだ。イーグルスやチープトリックのようなアメリカンスタジアム級のバンドがいたけど、ショートカットのボウイはそこへ出てきて誰よりもうまく歌えたんだよ」

思春期のパディはかなり変わった現代音楽の作曲家を手本として音楽の知識を身に付けていった。エレクトロニクス音楽のパイオニアであるシュトックハウゼンもその一人。「シュトックハウゼンの音楽を理解してたわけじゃないけど僕は彼に夢中になってて、16歳の時こんな手紙を書いた。"親愛なるミスター・シュトックハウゼン、あなたはどうやって作曲しているのですか?テープレコーダーは使っているのですか?"返事は期待してなかったけど、後で彼から直筆サイン入りの楽譜が送られてきた。シュトックハウゼンは僕たちのような普通のミュージシャンとは違って、より完全で形式の整った作曲方法を持ってた。ちょっとひどい言い方をすればそれは数理的なものだ。プラトン哲学に戻った惑星間の関係についての音楽理論。一般人にはあまりにもアカデミックな理論だけどね」

シュトックハウゼンと共にパディはピエール・ブーレーズの書いた本を読むのも好きだ。「楽しみながら読める本なんだ。彼の本は出たら必ず読んでるよ。ブーレーズとはロンドンでの彼のコンサートの後で会ったことがある。もちろん彼はポップミュージックを嫌いなはずだから僕は自分がやってることについて話すつもりはなくて、ただ会って彼と握手をしたかっただけなんだ。「あなたの書いた"Boulez on Music Today"を一生懸命熟読しました」って言ったら「その本はもう無用のものだ」って返事された。彼も真剣だった。あんまりいい体験じゃなかったな。ブーレーズにとっては本を読まれるより音楽を聴かれる方がいいんだろうけど」

パディがよく聴いているのはクラッシック音楽である。「僕はポップスを愛してる。でもレコードを作り始める時期はポップスを聴かなくなるんだ。今まで僕はポップスからいろいろ学んできた。でも自分が歳をとると、まあ例えば25歳になったとき、もう21歳の人間が考えるようなこと、音楽をあまり聴きたくなくなるよね。だってもうその頃のことはすでに自分では経験済みなんだから」

「それはスノビッシュになってるってことじゃないよ。みんなはただ次に何が流行るかってことだけを知りたがってて、フィル・スペクターのようなヒットメーカーを待ち望んでるんだ。でもスペクターにとってポップソングはあるサウンドを作り出すためのきっかけにすぎなかった。多くの人は"You've Lost That Lovin' Feeling"というヒット曲に喜んだかもしれない。でもスペクターはその時その曲を水中で録音したようなサウンドで作った。そこが彼の天才たるゆえんなんだ」

パディのインスピレーションは時々レコード会社が望まないようなレコードを作らせることがある。マイケル・ジャクソンの人生をベースにしたダブルコンセプトアルバムもそうだった。「もし僕が小説家だったら、そんな変わり者にはみられなかったと思うよ。小説を書くのはレコーディングと違って莫大なお金をかける必要もないしね。僕がなにか他とは違うことをやろうとすると、風変わりなヤツって見られるのにはがっかりさせられるね。ポップスやロックは50年代から続いてるんだ。みんなロックやポップスがアクセル・ローズのうわべだけの魅力を超えるようなものを必要としてるってことがわからないのかな?」

パディは自分にずっとインスピレーションを与え続けている数冊の本を取り出してくれた。ジャーナリスティックな視点でハワード・ヒューズ(*40年代ハリウッド映画黄金期にプロデューサーをしていた若き億万長者)を描いたクリフォード・アーヴィング著『Hoax』、そしてケネディ暗殺についてのドン・デリーロ著『Libra』。「これはマーティン・エイミスのエッセイ『War Against Cliche』だけど、どの章も面白かった」パディは説明する。「リー・ハーヴェイ・オズワルド(*ケネディ暗殺犯)の母親の言葉はただただ美しい。『Libra』はドン・デリーロの作品の中でも一番意欲的な傑作だよ」

一風変わった文学的なアプローチをしているのはニック・ホーンズビィの『Fever Pitch』。パディはテープでこの小説を聞いた。「網膜剥離で目が悪くなって、手術をする度に本を読めなくなるんだ」パディは本を読むのに真珠母縁の大きな拡大鏡を必要としている。

「だから僕はオーディオブックを聞いてた。オーディオブックについては持論があって、『Libra』はテープでは文章にあった描写が損なわれてしまう。テープの場合、聴く人の心を動かすのは物語なんだ」

「こいつがそうさ」そう言ってパディは『Fever Pitch』のテープを巻き戻す。「ニック・ホーンズビィはオーディオブックでもいい仕事をしてるよ。これは著者である彼自身がひとりで読んでるんだ。『ロリータ完全版』はジュレミー・アイアンズが7時間もかけて読んでる。そんな長い間とてもテープに向きあってられないよね。ホメロスの『イリアスとオデュセイア』も持ってる。でもこれは次の手術のためにとってあるんだよ」


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