『 The Early Years of PREFAB SPROUT 』

Gavin Carr氏による手記より


私はウィットン・ギルバート(WITTON GILBERT)という英国の小さな町で育ちました。ウィットン・ギルバートはかつてローマ人が征服しそこねた場所であり、ヴァイキング達はそこを通り過ぎ、ノルマン人が地獄と呼んだ場所でもあります。
町には教会が2つと(パブも2つ)、大きな戦争のあった記念碑があり、20年ほど前からこの記念碑は集められて見せ物として各地を移動しています。
町のはずれに”マクアルーンズ”(McAloon's)とブルーとイエローの大きな文字で書かれた看板がありました。その看板はガソリンスタンドの屋根につけられ、A691幹線道路沿いではなくそこに出る通り沿いという変わった位置に付けられていました。
そのガソリンスタンドの経営者はトミー・マクアルーン。彼はユーモアのある人物であり、そのユーモアは彼自身の健康を維持するのに役立っていたように思います。私の友人であるジョージがオイル漏れかなにかでそこに立ち寄った時にも、彼は車をガレージに持って行く時、そこにいる常連客を冗談半分にどやしつけたりしていたそうです。
マーティとパディの兄弟はこのガレージで父親の手伝いをしていました。といっても機械をいじるわけではなく、タイヤ交換や給油などの作業で、いわばファミリービジネスみたいなものです。夜になってガレージが閉まると、チョコレートバーと煙草がトミーの手によって隠され、このスタンドから道路の向こうまでとどろくような奇妙なことが行われていました。
フラットタイヤの修理の音とはあまり関係のなさそうなドカドカいうドラムの音、がなり立てるようなギターリフと歌声。怖そうな猟犬や競争犬を連れて散歩していた年寄り連中はその音を聞くと犬達に引きずられるように慌ててグレンダリング・アームの酒屋へ向かう道へ飛び出して行きました。次の日になるとチョコレートは元の位置に戻され、そんな毎日が続いていたのです。チョコレートは第一次世界大戦以来、マクアルーン家では神聖なものとして扱われ、日除けのためにいつも布で覆われていました。
ガレージでは「ニセ5ポンド札事件」とか「司教代理の車のラジエーターにオイルを入れたのは誰?」のような多くの珍事件がありました。私がアメリカへ引っ越してしばらくした後、このスタンドの持ち主は変わりましたが、おそらく彼らの去った後は、礼拝式も無事にとり行われ、猟犬や競争犬もやっと好きに吠えることができるようになったと思います。
3年ほど前、私はウィットン・ギルバートの町へ戻って来ました。当時犬を連れていたビルという男もあのガレージでパディ達が何をしていたのかを今ではよく分かっているようです。


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