エンジン騒音の低減

 ドライバーに聞こえるエンジン騒音(車内音)には、大きく分けて「透過音」「伝達音」の2種類がある。
 透過音は、主に動弁系、シリンダブロック、吸排気系、フューエルインジェクタなどから出る放射音で、車内へはダッシュ(室内とエンジンルームの間にある鉄製の板)を通して聞こえてくる。周波数は1kHz〜2Hz、もしくはそれ以上の高周波域。
 伝達音は、主にエンジンのアンバランス、回転変動がマウントを通じて社内に伝わるもので、周波数は100〜300Hzのあたり。エンジン・ミッションの結合剛性やボテー剛性が大きく影響する。
 アイドル振動も広義の伝達音のカテゴリーに含めて、ラジエータのダイナミック・ダンパーについて解説する。こちらは10〜50Hzの領域。
 それ以外に排気音もエンジンから発生するが、こちらは車外音に属する分野で、マフラーで対策するので、ここからは除外する。
 それでは、透過音(放射音)、伝達音、アイドル振動、それぞれのメカニズムと低減方法について解説して行こう。

[透過音(放射音)]
1.動弁系
 近年主流となっている直打式(カムが直接バルブを押す構造、OHC=オーバー・ヘッド・カム)動弁系では、カムとバルブリフタ(カムの力を受けるカップ状の部品)との間にクリアランスが設けてある。これは、バルブの熱膨張でカムのベースサークル(リフトしない部分)と干渉し、バルブが閉じなくなることを防ぐためだ。なので、カムがバルブを押し上げる時に、カムとリフタがぶつかり、音が発生する。また、バルブが着座する時にも、バルブとシリンダヘッド(正確にはバルフシート)とがぶつかり、音が出る。カチカチという、金属を叩く音だ。
 カムのプロフィール(輪郭)は、狙いのリフト曲線によって決まるが、空気をたくさん取り込むために、出来るだけ急激に開くように設計する。ただし、開き始めと閉じ終わりの部分には、先ほど説明したクリアランスがあるので、それが温度条件で変化することから、いきなり曲線で立ち上げると、ぶつかる時の加速度が変化し、音が大きくなったり、無理な荷重がかかったりする。そこで、必ず一定の速度で立ち上がるように、ランプという等速度区間を設けている。
 騒音に影響するのは、クリアランスの大きさとランプ角度だ。クリアランスが大きい程、ランプ角度が大きい程、衝撃が大きくなり、騒音も悪化する。これは、耐久信頼性と性能との取り合いになるので、バランスよく設計することが必要になる。
 高性能エンジン用として、スイングアーム方式(F1などで採用)があるが、事情は変わらない。過去には多かったロッカアーム方式は、カムシャフトが1本で済むが、最近はあまり見られなくなった。こちらも騒音に関しては同じ考え方だ。
 クリアランスをほぼゼロにする方策として、油圧ラッシュアジュタというものがあり、ユーザーの要求の高まりを受けて、採用が増えてきている。こちらは、伸びやすく縮みにくいダンパー構造をしていて、ややスペースが必要になるのがエンジンの小型化には不利な点だ。
 カムの騒音(打音)は、完全になくすことは出来ない。ならば、外に聞こえなくすればよい。
 音を伝えるのは、シリンダヘッドカバーと呼ばれるヘッドのフタ。この設計が肝になる。伝わり方も、透過音(通り抜け)と放射音がある。
 透過音については、一言で言うと重量が支配的だ。鉛を防音材に使うのは、重くて空気で押し引きしても動きにくいから。だからといって、エンジンは出来るだけ軽量化したいから、鉛は使えない。一般的には、樹脂やアルミ、または鉄板を用いるが、振動減衰性(イナータンスという)に優れたマグネシウムが、実は最も騒音低減効果がある。後はもう、スピーカーにならないよう曲面化したり、肉厚を増やしたり、リブを張り巡らせたりするしかないが、リブを配置する場合でも規則正しい形は取らない方がよい。基本、膜振動なので共振点を持たない設計が望ましい。見た目の美しさは、この場合プラスにならない。ただし、樹脂やアルミの成形性(湯流れ)を確保しないといけないので、T字路のような構造は出来るだけ避けること。
 放射音については、カバー全体がスピーカーになる状態を防ぐために、シリンダヘッドとの結合をフローティング構造にする。ただし、シリンダヘッドカバーのシール性を確保しないといけないので、ふわふわに浮かせばよい、というものではない。様々なアイデアが実用化されているので、各社の苦労の賜物をベンチマークしてください。

2.シリンダブロック(発生源は、ピストン、クランク)
 何といっても、エンジン音の代表格は、爆発に関わる部分だ。
 爆発音そのものは、エンジンの成り立ちから言って防ぎようがないが、周波数が半端なく高いので、構造物や冷却水に遮られてそのまま外に放射される訳ではない。ただし、シリンダブロックの壁面はスピーカーになるので、曲面化やリブは欠かせない。
 ここでは、特にムービング系のクリアランスについて、解説する。
@クランク系
 クランクシャフトは、シリンダブロックとの間、コンロッドの大端部との間に、メタルを介してクリアランスを持っている。ここで発生する音を、メタル打音と呼んでいる。クリアランスを詰めれば詰めるほど静かにはなるが、詰めすぎると焼き付いたり、メカロスが増えることもある(こちらは一概に言えない)。
 特にアルミ製のシリンダブロックは、鉄製のクランクよりも熱膨張率が大きいので、高温時にはクリアランスが広がり、逆に極低温時には縮まるという性質がある。極低温時に食いつかないようにクリアランスを設けると、高温時には広がり過ぎて騒音の原因になる。そこで広く採用されているのが、クランクシャフトを固定するキャップ(クランクキャップ)を鉄製にするという方法。これでクリアランスの変化は半分に抑制される。
 メタルクリアランスを詰めると、オイルのリーク量が減り、オイルポンプを小型化出来るメリットはあるが、オイルは冷却機能も持っているので、メタルの温度が上昇し焼き付き性に対しては不利な方向になる。またシリンダ壁面にかかるオイル量が減ることで、オイル消費が改善される可能性もある一方で、ピストン焼き付きに悪影響があるかも知れない。このように、過去からの経験値を超えて詰めるには、徹底的な排反の確認が必要だ。
 クランクシャフト径にもシリンダブロック内径にも製造上のバラツキがあり、クリアランス調整のため、メタルは厚みの異なるものが数種類用意されている。通常は上下2枚のメタルは同じものを使うが、生産現場のわずらわしさを許容するなら、別々のものを使うことで、クリアランスの幅は抑制できるので、下限値を据え置いて上限値を下げることは可能だ。これにより平均値は小さくなり、騒音低減が可能になる。実際に採用しているメーカーもある。
 ここで問題にしているように、製造物にはバラツキがあり、必ず上限・下限の確認はしなければいけない。また、中央値も、もし特異点があるならそこも確認が必要だ。物により、どういう評価が必要かは、前例に倣うだけでなく、設計者がしっかりと考えないといけない。
Aピストン系
 ピストンは基本アルミなので、温度差による径変化が大きい。シリンダは一般的には鉄で出来ており、クリアランスは大きく変化する。なので、低温時にはクリアランス拡大によるピストン打音(首ふりによるカタカタ音)を、高温時にはクリアランス縮小による焼き付きを防ぐような方策が必要だ。一般論で言うと、ピストンクリアランスを詰めると騒音は改善するが、フリクションは増大して燃費は悪化する。
 実は、ピストンピンは、多くの場合ピストンの中心にはない。ひとつには、コンロッドの首ふりによってピストンが回転させられること、もうひとつはピストンにかかる燃焼圧が一様ではないことにより、それをキャンセルするように少し中心からずらせてある。この値(オフセット量)が最適かどうかを見極めることで、ピストン打音が低減出来る場合がある。
 ピストンのスカート部の形状(プロフィール)も重要だ。プロフィールには、縦と横(円周方向)があり、特に縦プロフィールが騒音との関連が大きい。ピストンは上死点付近でコンロッドの角度が左右入れ替わる際に、シリンダへの当たり面が逆転する。その際に、感覚的な表現になるが、バンと当たるのではなく、コロンと転がるように当たるようなプロフィールが打音に対しては良い。先ほどのビストンピンのオフセットとの合わせ技で改善して行く。確認は必要だが、打音の低減が耐久信頼性に悪影響を及ぼすケースは少ないと思われる。フリクションに対する影響は、ケースバイケースだ。
 いずれにしても、理論やシミュレーションだけでは答は出せず、諸条件での綿密な評価、排反の確認が重要だ。
 
3、吸気系(インテークマニホルド、エアクリーナ)
 吸気音の正体は、吸気バルブが開閉するときに生じる吸気脈動が、吸気口(空気の取入れ口)から放出されたり(トランペットのように)、膜振動となって放射されたりするもの。例えば4気筒4サイクルエンジンで常用回転数を1500rpmとすると、回転2次で変動するため、50Hzとなる。ボーというような低い音だ。アクセルを踏み込んだ時、少しエンジン音が大きくなるのは、ほぼ吸気音と考えてよい(ドライバー席の場合)。
 吸気口からの音は、そのまま室内に伝わる訳ではなく、伝達系によって増幅されたり減衰したりする。車体構造などが大きく影響し、ピークを持つような場合はリニヤ感がなくなり、ある回転で急に音が目立つようことが生じる。これがドライバーに認知されると、「うるさい」と感じられる(こもり音とも呼ばれる)。
 吸気システムそのものも、管楽器と同じように共鳴周波数を持っている。その組み合わせでドライバーにどう伝わるかを、一般的には耳の付近にマイクを設置して測定する。その結果、どの周波数を抑えるかが開発段階で決まる。
 吸気音の低減には、以下のような方法がある。
@エアクリーナの容量を大きくする
 これにより、全周波数域で音が小さくなる。ただし、搭載スペースが問題。
A吸気口を絞る、または長くする
 最も簡単な方法で全周波数域に効果があるが、これは最大出力との取り合いになるので、限度がある。というか、性能屋はなかなかうんとは言わない。
Bヘルムホルツの共鳴箱を吸気ダクトの途中に設置する

 レゾネータとも呼ばれるこのシステムは、容量にもよるがターゲット周波数に対して比較的広範囲の低減効果がある。
C共鳴管を吸気系の途中に設置
 こちらはピンポイント狙い。ブロー成型などで吸気ダクトと一体で作れば、コストは抑えられる。
Dアクティブ・ノイズ・コントロール
 吸気騒音と逆位相の音をスピーカーから流してキャンセルする方法。こちらはどの程度実用化されているか筆者に知見がないが、振動に対しても同様の考え方があり、技術の進歩でいずれ普及が進めば、これまで追加的に行って来た様々な対策がすべて不要になる可能性もある。

4.燃料系(フューエルインジェクタ、燃料パイプ)
 キャブレタから電子制御燃料噴射への移行により、燃料はフューエルインジェクタで間欠噴射されるようになった。ニードル弁が開閉することで燃料を噴射、開弁時間(ミリセコンド)によって流量が決まる。バルブがストロークする際、特に閉弁時にはバルブが着座するカチカチという音が発生する。これが、特にまわりが静かなアイドル時に室内まで聞こえてくることがある。インジェクタ本体は、部品メーカーの設計になるので自動車メーカーでは如何ともし難く、また膨大な数量を生産してコストを抑制するいわば装置産業的な部品なので、簡単に変更も出来ない(と、部品メーカーからは言われる)。それでも、発音のメカニズムが存在するので、対策は可能だ。簡単に言うと、本体ボディーの遮音とバルブの軽量化によって、騒音は低減出来る。ただ、最近はアイドル・ストップ車が増えたので、あまり問題にはならないかも知れない。
 燃料の圧力(燃圧)は大気圧の数倍(ポート噴射の場合)あり、噴射の度に細かく変化する。それが燃料配管を経由して室内に伝わることもある(コトコト音)。燃料パイプの支持方法を工夫するなどの対策方法もあるが、発生源対策としてはパルセーション・ダンパがある。これは、燃料配管中に、空気と接するダイヤフラムを備えた部品を追加する方法で、ダイヤフラムがわずかに動くことによって脈動を和らげることが出来る。水道管の振動対策としても、似た構造のものがある。

[伝達音]
1.エンジンのアンバランス
 直列6気筒エンジンは、原理的にアンバンスがない。それ以外のエンジンでは、必ずアンバランスが発生する。ピストンやピストンピン、コンロッドの小端部などの往復質量を、クランクシャフトのカウンターウェイト(回転質量)ではキャンセルし切れないためだ。さらにコンロッドは揺動運動もしているので、これは全く逆位相で同じ動きをするものでキャンセルしないと取り切れない。
 直列4気筒エンジンの場合、そのアンバランスをフーリエ変換すると、各次数のアンバランス量が得られるが、その中で最大の2次アンバランスを取るために設けられるのが、2次バランサだ。エンジン回転と逆方向に2倍の速さで回す。
 3気筒エンジンでは、上下左右のアンバランスは原理的に発生しないが、エンジン回転と同方向の偶力が発生する。そこで、往復質量の1/2をカウンタウェイトに付加し、エンジンと逆回転のアンバランス(偶力)を1/2の大きさで生じさせて、これをエンジン回転と逆位相のバランスシャトでキャンセルする。6気筒エンジンにアンバランスが生じないのは、発生する偶力の位相を逆にした3気筒エンジンの組み合わせと考えると分かり易い。
 2気筒4サイクルエンジンの場合は、ピストンが2気筒同時に上下するので、どうしてもバランスシャフトが必要になる。3気筒と同様に往復質量の1/2をカウンタウェイトに付加すると、逆位相で1/2の質量のアンバランスが発生する。これをバランスシャフトでキャンセルするが、1本ではローリング(揺動)モーメントが発生するので、本来はバランスシャフトが2本必要だ(過去にはそういうエンジンが多く存在した)。ただ、2本では燃費悪化を招きコストもかかるので、最近では1本にして(フィアット、タタなど)、その配置を工夫することで振動を抑えている。
 ここまでは、原理の話をして来たが、近年エンジンのマウント技術開発が進み、4気筒や3気筒のエンジンでバランシャフトを備えたものはほとんどない。要はエンジンが振動しても車内に伝わらなければよい訳で、ここはエンジン屋の分野ではなく車体設計に委ねることになる。ただし、車体とつながる部分の剛性はしっかり確保して、実用域での共振は避けなければならない。ちなみに、4気筒エンジンで考えると、6000rpmで回転2次周波数は200Hz。共振には裾野があるため、共振点は300HZくらいを目指すべきだろう。回転2次周波数を問題にするのは、4気筒4サイクルエンジンでは爆発間隔が1回転に2回で、爆発1次成分が最も大きいから。

2.回転変動
 エンジンは爆発と排気、吸気、圧縮を繰り返すため、ミクロ的に見るとその都度回転が上がったり下がったりする。それを安定させるためにフライホイル(近年ではトルクコバータがその代用となっている)があるが、それでも変動はゼロにはならない。実は、フライホイルを大きくすると、クランクシャフトの回転変動は小さくなるが、エンジンそのものの動きは大きくなるとも言われている。さて、これは正しいのだろうか。
 いずれにしても、回転変動そのものを止めることは出来ない。これが伝わる経路はふたつあって、ひとつはエンジンマウントから、もうひとつは駆動系(ミッション、ドライブシャフト、車輪など)からだ。
 ここではエンジンのマウント方法に関して解説する。
 近年主流となっているのは、慣性主軸支持という方法だ。慣性主軸とは、エンジン・ミッションを結合した状態で、エンジンの回転変動により揺動する際の中心軸のことで、クランク軸とややずれているのが一般的。その中心をマウントすることで、エンジン振動伝達を最小にするのが狙いだ。アンバランスに対しても、よく動く部分とそうでない部分があり、回転変動との組み合わせでマウント方法を決めていくことになる。
 ちなみに、クランクシャフトには、周波数の高い固有のねじれ共振というものがある。そのままでは補機駆動用のベルトが滑ったり、極端な場合クランクシャフトが折れる事態も発生する。そこで、クランクシャフト先端のクランクプーリに、トーショナル(ねじり)ダンパーを設けた例が多い。これはこれでいろいろ解説したいこともあるが、だんだん本筋から外れてくるので割愛する。

3.エンジンの結合剛性の影響
 エンジンとミッションの結合剛性がエンジン騒音に大きく影響することは、かなり以前から知られている。それぞれが重量物なので、相当な剛性があっても、曲げ、ねじれ、もっと複雑な様態での変形を起こす。それが車体に伝わって騒音になる。
 そもそもエンジンは、クランクから下の構造物としてはオイルパンがあればよい。そういうシリンダブロックをショートスカートと呼んでいる。それに対して、結合剛性を高めるためにスカート部を延長したシリンダブロックをロングスカートと呼ぶ。この場合、フロントとリヤのオイルパンとのシール構造に工夫が必要になる。そこで、オイルパン全体をアルミダイカストにして、ミッションと結合する方法が広く採用されるようになった。その時の懸念は、アルミ製だと石当たりで割れたりしないか、というものだった。鉄板の場合、石が当たるとへこむことはあっても割れることはない。底だけを鉄板にする方法もあったが、コストがかかる。結局、底面の地上高を上げたり、車体にオイルパンをガードする構造を追加したり、エンジン・アンダーカバーで保護したりして、問題ないレベルに仕上げている。
 最近では、暖機性がよいという理由で樹脂(ナイロン)製オイルパンも採用が検討されていて、結合剛性に対してはよろしくない(ヤング率が低い)ので他の手段で補う必要があるが、これが石当たりに対しては予想外に強い。ナイロンは大きく変形しても割れることがなく、しぶとい材料だからだ。インテークマニホルドやシリンダヘッドカバーなどにも採用されている。ただし、耐熱性を高めるためにガラス繊維を混ぜていて、その比率を上げ過ぎると脆くなる。

4.アイドル振動
 最近は横置きエンジンが主流だが、その場合、アイドル時のエンジンの揺れは、車体に対して横方向の軸を中心とした回転になる。前後に対しては、車体の剛性は非常に高いが、上下に対してはエンジンルームが前方に張り出している分弱くなる。すると、丁度アイドル回転数辺りの振動で車体が上下に揺れる。それが車内に伝わって、不快に感じられる。これをアイドル振動という。
 この改善策として、広く採用されているのが、主にラジエータの質量を利用したダイナミック・ダンパーと呼ばれるシステムだ。
 簡単に言うと、ラジエータ(エアコンのコンデンサや冷却ファンが一体となったものが多い)をゴムマウントし、その共振周波数を車体が揺れる周波数に合わせることで、車体の振動がキャンセルされるというシステムだ。車体が動こうとすると、それと同じ周波数でラジエータが逆位相で邪魔をする、というイメージ。
 ダンパーは、一般的に狙いの周波数では動きを抑制するが、その前後に逆に動きが大きくなる周波数帯があるので、それが車内への振動伝達に悪影響しないようなチューニングが必要だ。

 また、ゴム材としては、NR(天然ゴム)が最もバネ定数の温度依存性が小さく、つまり温度の変化に対して共振周波数の変化が少ないので、広くダンパー用として採用されている。ただし、合成ゴムに比べると耐候性(主に耐オゾン性)や耐熱性に劣るので、使用個所によって使い分けが必要だ。

 以上、エンジン騒音低減について、その考え方の概要を紹介した。それぞれのキーワードを元に、専門書やウィキペディアで理解を深めていただければと思う。個別のデータについては、実務の中で当然目にするだろう。その時、その数値にどんな意味があるのかを、全体像を知った上で理解してほしい、そんな思いでこの記事を書きました。
 特に若い技術者は、技術の中の毛細血管のような部分を担当することが多い。その時、自分がどの内臓のどの部分を担当しているのかを自覚しているとしていないとで、仕事の質は大きく変わる。山に登る時、山全体を把握し、必ず頂上に向かっていることを確かめながら進むのは、とても大切なことだ。手段が目的にならないよう、常に最終のゴールに向かって進む、難しいことだけれど忘れてはならないことなので、心して開発に邁進してください。

[添付図の出典:ウィキペディア]