P

ペテネーラス/Peteneras

  1. ペテネーラスのリズム(6/8と3/4の交代)
  2. ミの旋法
  3. 歌、ギター、踊り
  4. インテルメディオ
  5. アンダルース
  6. 「パテルネーラPaternera」つまり、「パテルナ生まれの女」から来たものだという。パテルナと名づけられた町あるいは村は、カディス、ウエルパ、アルメリーアなどにあり、そのいずれがこの歌の本場かについては論議が分かれる。
  7. もとアンダルシアの田舎の民謡であるが、19世紀前半からカンテ・フラメンコとして歌われていたことが知られる。パテルナ出身の美しいカンタオーラが歌い初めたという伝説をもつこの歌は、1860年代に大流行し、おそらくこの頃、中南米へも伝えられた。しかし、この民謡がカンテ・フラメンコとして定着したのは、今世紀の初め、ニーニョ・メディーナおよびニーニャ・デ・ロス・ペイネスがすぐれたスタイルを編み出して、その格調を高めてからである。ことに後者の創唱した型は名高く、美しく、またむずかしいものである。それが真似がたいせいか、あるいはこのカンテに「不幸を招く」というヒターノの間の言い伝えがあるせいか、詩的な美をひめたユニークなものでありながら、さほどひんぱんには演唱されない。
  8. クァルテータ、詩行の繰返しかたは独特。

プライェーラス(プラジェーラス)Playeras

このカンテは古い文献によく見るが、現在は歌われない。諸説を総合したところでは、シギリーヤスの別名と考えるのが妥当のようである。語源はplaya(浜辺)にはなく、planidera(葬いの祈りの”泣き女”)にあるとする説が有力。シギリーヤスのうち、普通の四行詩形ではなく三行詩形をとるものがこう呼ばれたという研究家もいる。

ポロ/Polo

  1. ソレアーレス系
  2. ミの旋法(長調に転ずる部分が多い)
  3. 歌、ギター、踊り(近年つけられた)
  4. グランデ
  5. ヒターノ(?)
  6. 不詳。ただし同じ名のサロン風歌曲(舞曲)が18世紀より知られていた。
  7. カーニャとはつねに兄弟のように、一対のものとして扱われるカンテで、同様に古く、格調高く、特色あるリフレインも共通している。上記のサロン風歌曲との間に直接の関連は認められない。古来ポロ・ナトゥラルPolo NaturaIおよびポロ・デ・トバロPolo de Tobaloの2型があるとされてきたが、後者を伝承するカンタオールはごくまれで、実体は必ずしもなお、カーニャおよびポロは、ソレアーレスやシギリーヤスのように多様なスタイルに発展せず、ひとつの古い形をほとんど変えずに伝承してきた。この仲間に入るものとして、文献には「メディオポロMediopolo」「ポリカーニャPolicana」などという、おそらく派生的なカンテ・グランデの名が見えるが、現在は絶えてしまっている。

R

ロアス/Roas

これはアンダルシア・ジプシー(ことにグラナダの)の間に伝わる原始宗教的なお祭りの歌で、レコードにも聴かれず詳細はわからない。語源はrodada(さすらい)にあるという。通常カンテ・フラメンコには数えられないものだが、しばしば文献に見るので褐げておく。

ロマンセ(〜・ヒターノ)/Romance(〜・Gitano)

  1. ソレアーレス系(現在伝承されるものについて)
  2. ミの旋法
  3. 歌、ギター
  4. インテルメディオ〜グランデ
  5. ヒターノ
  6. ロマンセはこの場合、独特の詩形(八音節の詩行を長くつらね、偶数形のみが一定の韻を踏んでゆく)をとるスペインの伝統的な物語の歌
  7. 15世紀頃に起源を持つ、多くは騎士道物語をテーマとするロマンセの一部が、アンダルシアのヒターノたちによって伝承された。エステーバネス・カルデロンの著書(1840年代)には、トリアーナの名カンタオールたちによってロマンセがみごとに吟じられるようすが描かれている。その後この伝承はしだいに下火となり、現代ではまれなものに数えられる。アントニオ・マイレーナは熱意をもってこれの復興をはかった。ロマンセ・ヒターノには、コリ一ドCorrido、ナナ・モルーナNana Morunaといった別名もある。

ロメーラス/Romeras

  1. ソレアーレス系
  2. 長調
  3. 歌、ギター、踊り
  4. チーコ
  5. ヒターノ(?)
  6. 1)「巡札女」を意味するリフレインの文句から。
    2)19世紀のカンタオール、Romero el Titoの名にちなむ。
  7. カディスに行なわれた軽い踊り歌のひとつで、メロディはいわゆるカンティーニャス(挟義の)とたいへんよく似ており、まず特微となるのは〈Romera、ay mi romera……〉というリフレインの文句であるといえる。今世紀に入って久しく忘れられていたが、1950年代、ラファエル・ロメーロの歌によって復活した。
  8. クァルテータとアレグリーア

ロンデーニャ/Rondena

  1. 自由リズム、部分的にはタラントスに準じタンゴス系
  2. ミの旋法(長調の部分が多い)
  3. ギター、踊り(まれに)
  4. インテルメディオ
  5. どちらともいえない
  6. 「ロンダ地方のしらべ」
  7. ロンダの山地に隠れ住む密輪業者たちが弾いていたという言い伝えもあるが、その真偽はともかく、これに定型を与え多くの創意を加えて最も美しいトーケ(フラメンコ・ギター曲)のひとつにしたのはラモン・モントーヤである。歌はつかないが、気分的に最も似たものはタラントであり、この意味で「ファンダンゴス系」に分類されることもある。めったに踊られることはないが、カルメン・アマ一ヤによるこの踊りはすばらしかったという。
  8. (歌われない)

ロンデーニャス/Rondenas

  1. ファンダンゴスのリズム(セギディーリャに類するもの)。
  2. ミの旋法(ファンダンゴス式)
  3. 歌、ギター、踊り
  4. チーコ
  5. アンダルース
  6. 「ロンダのうた」
  7. ロンダ地方のファンダンゴスの一型。若者たちが集って、娘のいる家の窓辺にセレナードを送るスペインの古い習慣「ロンダ」との関連を考えた研究家も多い。そぼくな愛矯をそなえた、味のよいカンテである。なお、さきのギター曲「ロンデーニャ」とは、はっきり別なもの。

ローサス/Rosas

アレグリーアスの一型、「アレグリーアス・ポル・ローサス」ともいう、主としてギター独奏の場合、Aでなく.Eのキイをとり、優美にゆるやかに弾かれるスタイルをこの名で呼ぶ。語意は「バラの花」。

ルンバス・ヒターナス/Rumbas Gltanas

  1. タンゴス系(速く、独持の拍節を伴う)
  2. 短調が多いが一定しない
  3. 歌、ギター、踊り
  4. チーコ
  5. ヒターノ
  6. キューバ起源の舞曲の名に、「ジプシーの」を意味する形容詞をつけたもの
  7. 1930年頃から世界に広まったキューバン・リズムがフラメンコに取入れられ、タンゴス(タンギーリョス)のリズムと結びついてこれができた。初めさかんになったのがカタルーニャ地方のジプシーのあいだであるため、「ルンパ・カタラーナCatalana」ともいい、「ルンパ・フラメンカ flamenca」と呼ぶのもさらに普通である。1960年代に流行をきわめてお祭りさわぎに欠かせないものとなり、フラメンコ一座の幕あけやフィナーレに必ず使われた。官能的な面白味はともかく、深味のあるものではない。

S

サエタ/Saeta

  1. 自由リズム(ときにシギリーヤス系のリズム)
  2. ミの旋法
  3. 歌(本来無伴奏だが、特殊な場合ギターを伴うこともある)
  4. グランデ
  5. どちらともいえない
  6. 「矢」の意
  7. 年々、春に行なわれる聖週間の行列のさい、殉難のキリスト像や嘆きの聖母像に手向けて、窓やバルコニーから投げかけられる宗教歌。この点、一般のカンテ・フラメンコとは大きく趣を異にする。曲調とその表現には激しく悲痛な美しさが宿っており、起源のきわめて古いものと思われるが、ふしぎと記録に現われるのは19世紀後半からである。古い純粋な型は今日あまり聴かれなくなり、今世紀の初頭、カンタオールたちによって作り出された「サエタ・ポル・シギリーヤ」(シギリーヤス風のサエタ)の型が普及している。過去のサエタ歌いとして高名なのは、マヌエル・トーレ、ニーニョ・グローリア、ニーニャ・デ・ロス・ぺイネス、センテーノらであり、現代ではアントニオ・マイレーナのそれが定評を持つ。

セラーナス/Serranas

  1. シギリーヤス系
  2. ミの旋法(長調に転ずる部分も多い)
  3. 歌、ギター、踊り
  4. グランデ
  5. どちらともいえない
  6. 「山のうた」の意、ただしSerranoは俗語でヒターノをも意味する。また、これは”枠な”といったニュアンスの形容詞にもなる。
  7. アンダルシアの山唄(一説にはロンダ地方の)が、前世紀中葉にフラメンコ化したものだといわれる。歌詞に山の風物、山男(羊飼いや密輸業者、山賊…)の生活がしばしば歌い込まれるのも、上の説の根拠となる。シギリーヤスやソレアーレスにくらべた場合、技巧的・外面的なところがあるといえようが、その格調と雄々しい迫力は独持のものである。リビアーナス〜セラーナス〜カンビオ(特別に作られた替え手、後唄)の順に続けて歌われることも普通。
  8. セギディーリャの詩形をとるが、詩行の繰返しが非常に多く、少しずつ小出しに歌い進めていく感し。

セビリャーナス/Sevillanas

  1. セギディーリヤのリズム
  2. 一定しない
  3. 歌、ギター、踊り
  4. チーコ
  5. アンダルース
  6. 「セビーリャのしらべ」。Seguidillas Sevillanasの省略形。
  7. 中部スペインを代表する民俗舞曲セギディーリャがアンダルシアに普及し、ことにセビーリャ市民に好んで歌い踊られると同時に、ニュアンスに変化を来たしたものである。セビーリャのみならず西アンダルシアー帯にさかんで、ウエルバでは有名なロシーオ祭にちなんで「ロシエーラスrocieras」あるいは「ウエルバーナス」などともいう、祭り日の賑わいに興を添える一般民衆の踊り唄で、とくにフラメンコという枠の中に入れて考えるべきものではない。セビリャーナスはいわゆる”生きたフォルクローレ”であって、年々新しいものが作詩作曲され.これを専門にするグループも数多くある。
  8. 最も伝統的なものはセギディーリャ、しかし近年ではクァルテー夕やその他の詩形も使われる。

シギリーヤス(シギリージャス)Siguiriyas(Seguiriyasとも綴る)

  1. シギリーヤスのリズム
  2. ミの旋法
  3. 歌、ギター、踊り(1930−40年代以来)
  4. グランデ
  5. ヒターノ
  6. Seguidilla(この場合、おそらく詩形をさす)からのなまり。
  7. セビーリヤ,カディス両県内から生まれたもので、おそらくトナの一型にギター伴奏のついた形と思われる。昔はカンテ・ホンドといえばこのシギリーヤスをさしていた。「シギリーヤス・ヒターナス」とも呼ばれるように、これはヒターノたちが心のたけを傾けた憂愁の歌であり、しばしば“心の極限状態を表わすカンテ”だといわれる。音楽的にも最もユニークな、深い魅力を持つものといえよう。前世紀からヒターノたちのあいだにたいへん好まれ、多様な形に発展してきたもので、地名(トリアーナ、へレス、カディスなど)あるいは創唱者の名をつけた多く のスタイルが知られている。大体において、古いものはわりあいストレートに飾り気なく歌われ、後代のものほど繰返しのしかたや節まわしが複雑化して劇的な趣を増すといえる。シギリーヤスの名歌手といわれ、そのスタイルを後世に残した人は少なくないが、試みに1ダース挙げるとすれば エル・プラネータ、エル・フィーリョ、クーロ・ドゥルセ、マヌエル・モリーナ、トマス・エル・ニトリ、シルベリオ・フランコネッティ、エンリケ・エル・メリーソ、パコ・ラ・ルス、マヌエル・カガンチョ、エル・ロコ・マテオ、ディエゴ・エル・マルーロ、マヌエル・トーレといったところであろうか。以上、一人の例外もなくセビーリャ、カディス両県から出た人であり、偉大なパーヨ(非ジプシー)、シルペリオ・フランコネッティを除いてすべてジプシーである。
  8. シギリ一ヤスの詩形

ソレアーレス/Soleares〔単数形=ソレアSolea〕

  1. ソレアーレスのリズム
  2. ミの旋法
  3. 歌、ギター、踊り
  4. グランデ
  5. ヒターノ
  6. 「孤独」を意味するSoledadのなまり。またこれは女性の名で、呼び掛けの入ったリフレインから形式名ができたという説も有力。
  7. 「カンテの母」と呼ばれる最も重要な形式で、シギリーヤスとともにフラメンコの土台を支えてきた二本柱のひとつであるといえる。この形式名が文献に見えだすのは意外に遅く19世紀後半であるが、たとえ別な名のもとにであれ、それ以前から存在していたことは間違いない。古い踊り唄ハレオスに由来するという説は、ソレアーレスがカンテ・グランデのうちではただ一つ、早くから踊りを伴っていたことからも有力である、その後19世紀末葉までに、もっぱら歌われるための、荘重で深みのあるスタイルが作られた。やはり発生地はセビーリャ、カディス両県内であるが、最も愛されてきたカンテだけに、アンダルシア中に多くの変型を持っている。おもなものは ソレアーレス・デ・トリアーナ、〜・デ・ウトレーラ、〜・デ・アルカラ、〜・デ・カディス、〜・デ・へレス、〜・デ・コルドバなどで、これらはまたそれぞれ幾通りかのスタイルに分かれる。それらのうちには過去のすぐれた創唱者の名をつけたものも少なくない。たとえばソレアーレス・デ・ラ・サルネータ(ウトレーラ)ソレアーレス・デ・エル・メリーソ(カディス)ソレアーレス・デ・パキーリ(カディス)といったように…
    ソレアーレスの世界はシギリーヤスほどにつきつめたむのではなく、もっとあたたかい包容力をもって、人生のあらゆる感情、あらゆる詩情を包みこんでいるといえよう。それは、フラメンコのすべての情熟と哀愁を凝縮したエッセンスでもある。「ソレアーレスがあるかぎり、フラメンコは減びない」(リカルド・モリーナ)。
  8. 実際にはクァルテータの率が高いが、ソレア(三行詩形)も用いられる。いずれの場合も一定のきまりによる詩行の操返しや、たとえば〈companera de mi alma〉といった慣用句の挿入がある