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このコーナーでは、スタートレック関係の書物を紹介します。ただし、筆者は映画と 原作を読み比べないことを信条としているので、基本的には映像化されたものの小説 を取り上げることはありません。(例外はありますが・・・)



StarTrek Into Darknessのノベライズも読んでみました。
スター・トレック イントゥ・ダークネス
アラン・ディーン・フォスター (著), 尾之上 浩司 (訳) 角川文庫(Kindle版)


斉藤伯好氏の訳の影響下にありながらも、正しい用語に戻そうという意識が垣間見える本でした。
基本的には好意的に読めたことをお断りしておきます。
ただし、残念な表記があったのでこれも指摘しておきます。
斉藤伯好氏の呪縛下にあったもの。
・航宙艦
 ほんとうに罪な造語をされたものです。「宇宙船」又は「宇宙艦」で何が悪いのでしょう。

・艦長
 これは、TOSとTNGの正しい理解がないと「船長」でも「艦長」でもいいと思うのでしょうね。
 しかし、TOS以前は「船長」なのです。TNG以降は「艦長」なのです。
 ただし、チェコフが呼びかけるときだけは、「船長」でした。ロシア訛りを表現するために「船長」と言い換えたというのは多少無理があると思います。訳者のささやかな抵抗だと、好意的に受け取りました。

・第一級優先事項(プライム・ダイレクティブとルビを振っていた)
 ご存じ「艦隊の誓い」の新訳でした。

以下は、斉藤伯好訳の誤謬が軌道修正されていたものです。
・タイベリアス
 斉藤伯好氏の訳に倣うという後書きだったが、「ティベリウス」ではなかった。
・医療室(シック・ベイとルビを振っていた)
 これも正しく直されていたと喜んでいます。
・船医
 艦医ではなかった。これも喜ばしいことです。



 ノベライズ版の「スター・トレック」も読んでみました。今となっては鬼籍に入られた方を鞭打つようで心苦しいのですが、故斉藤伯好氏の無茶苦茶な訳本に辟易していた私としては、新しい訳者に期待するところも少しありました。「後記」によると翻訳期間が1ヶ月もなかったらしいが、非常に残念なことに故斉藤伯好氏の訳語を踏襲されていた。オリジナルシリーズからの連続性を必死で守ってきた関係者の努力を愚弄することになるということに、未だ気がつかない日本SF界の軽薄さが残念でならない。よって、またしても指摘をしておくことにする。

「スター・トレック」
アラン・ディーン・フォスター 著
増田まもる、尾之上浩司、北原尚彦 訳

・ジェイムス・ティベリウス・カーク
 映画をご覧になった方は少年カークが警官に向かって、明瞭に「タイベリアス」と発音していたのに・・・。このシリーズの主役の名前を間違えるというのは、もう犯罪と呼んでもよい。

・ウフーラ
 オリジナルの訳語は「ウラ」でした。でも時代も変わったことだし、こちらの方が正しいのだから許しましょう。ただし、階級が中尉だったり大尉だったりと統一できてないのは残念。

・航宙艦
 これは斉藤伯好氏の最悪の訳語を踏襲したものと思われるが、残念。映画では「船長」と正しく呼ばれていたのに。

・艦長
 これも斉藤伯好流です。そう言いながらも、船、船尾、船内という訳語で通す矛盾。

主医療ベイ
 忠実に訳すとこうなるのだが、斉藤伯好氏の訳語に比べたら、許せるかな。

・チャーリー→スコット、カトウ→スールーはオリジナルの訳語の方が間違っていたので許すとしよう。ただし、混在させるのはだめですよ。




以下は、故斉藤伯好氏へのオマージュとでもしておきます。もううんざりしています。



「カーク艦長の帰還」上・下(原題 The Return 斉藤伯好 訳)早川書房
ウィリアム・シャトナー作


ストーリーは、映画「ジェネレーションズ」のラストシーンから始まる。
つまり、カークがピカードの手によって埋葬された直後から新たな物語が 展開するのだった。文庫の上下巻というかなりの長編で、知ってる物や人は 全部登場させるという、かなり乱暴(?)な小説ではあるがファンにとっては いっこうにかまわない。
また、作者がカーク役のシャトナーというのも、関心を呼ぶところでしょう。 スタートレックのすべてを知り尽くしている人ですから。
ただ、日本語訳の用語はいただけなかった。スタートレックを見たことのない人が 訳しているという感じで、読みにくかった。 いくつか、おかしな訳語を挙げておきます。
本来の訳語斉藤氏の訳語コメント
ロミュランロムラン原語の発音でもロミュランでしょ
宇宙船航宙艦こんな造語は別の本でしてくれ
ジャン・リュックジャン・ルークフランス語の発音ですか?
正確かどうかという議論の前に、訳語として長いシリーズの間馴染んでいるものを 変えないでほしいものです。



「サレックへの挽歌」上・下(原題 Avenger 斉藤伯好 訳)早川書房
ウィリアム・シャトナー作


前作「カーク艦長の帰還」の続きものとして、ストーリーは発展する。 またまた、知っている人は全部登場する乱暴さは同じだ。話のスケールは 惑星連邦崩壊の危機を取り上げているだけに、壮大なのだが環境問題等と リンクさせているため、私には物足りないものだった。ピカード艦長に敬意を 払うことはカーク船長にとって大事なことなのだろうが、この際どちらが 主役なのかをはっきりさせる意味でも、もうすこしカークにがんばってもらい たかった。
しかし、前作にもましてTOSのエピソードとの関連が取り上げ られているので、古くからのファンにはたまらない読み物ではある。 日本語訳は、訳者が同じなので前作同様気になってしまって非常に読みにくかった。 また、挿し絵が随所にあるのだが、これがぜんぜん似てないだけでなく、イメージ すら描けていないのには落胆した。
前作で取り上げてないものを少し紹介する。
本来の訳語斉藤氏の訳語コメント
ジェームス・タイベリアス・カークティベリウスST6では裁判でカークのフルネームをゆっくり、中学生でも分かるような明瞭な発音でタイベリアス Tiberiusと紹介している。訳者は間違いなく映画も見ていない!。
カーク船長カーク艦長カークは船長の訳語で馴染んでいたよ
カークの自称、私おれカークは紳士的にいつでも「私」でした
リプリケータ食品合成機原文は見てないけど、解説は不要だ
宇宙歴恒星暦次々とよくもまぁ、造語ができること
boldy go ....恐れることなく未踏の宙域をめざすあの名セリフもこの駄訳!TOSのカーク船長とTNGのピカード艦長のオープニングでの語り口もよかったけど、ST2でのスポックの口調もよかった。
宇宙域宙域こんな簡略化に何か意味があるのかなぁ
ブルーヒューこれは正しい訳。しかし日本ではブルーだったのだ。あの名作"I Borg"も見てなかったのね。
カーデシアカーダシア何をこだわっているのやら
コミュニケータ通信記章徽章なら分かるけど
ハイポスプレー高圧注射器どうしても漢字にしたかった?
このへんにしておこう。30年以上の長い時間親しんできた用語を突然変えられると 落ち着かないのだ。それが、正しい訳であっても。例えば、カトーは実際にはスールー だったけれども、2カ国語放送のない時代のテレビで親しんだ名前はそう簡単には 切り替えられない。ヴォイジャシリーズでも、それを尊重してカトー訳で放送して いた。この小説の訳者は、古いテレビシリーズは勿論、最新の劇場版ですら実際には 見ていない人物に違いない。学問的正鵠性を問うような物語ではないのだから、もっと スタートレックへの愛着を持った人に、次回からは訳者を変更して欲しいものだ。



「ヴェンデッタ」上・下(原題 VENDETTA 斉藤伯好 訳)早川書房
ピーター・ディビット作


訳者がまたしても斉藤氏なので、いらいらしながら読みました。内容ははっきり言って駄作でした。テレビシリーズの脚本を書いている作者なので雰囲気は掴んでいるのですが、やっぱり駄作でした。
しかし、恒例の駄訳は挙げておきましょう。放置すると認めたことになるので。例によって前述したものは除きます。
本来の訳語斉藤氏の訳語コメント
医療部長医務長訳語を敢えて変更する理由が分からない。
医療室医務室同上
機関部長機関長同上
保安部長保安主任あなたの流儀だと保安長でしょう?統一性に欠けているよ。
ポラスキープラスキークラッシャーが船外活動でトラブルに巻き込まれていた間の放送を見てないのだ!
ハイポスプレー圧縮注射器前回は高圧だったけれども、今度は圧縮だって
デルタ宇宙域デルタ象限シリーズを見てないと直訳しかない
恒星日誌航宙日誌これは悪質。TOSを一度でも見てよ
バーラウンジテン・フォワードこれは正しいけれどもねぇ。スタートレックはあなたの私物じゃないのですよ。
宇宙艦隊宇宙連邦軍ふぅっ
スタートレック本は斉藤氏に決めているようなので、以後は早川書房の 版物を避けるしかないか。



「鏡像世界からの侵略」上・下(原題 Spectre 斉藤伯好 訳)早川書房
ウィリアム・シャトナー作


早川書房の版物を避けるつもりでも、訳者がまたしても斉藤氏でも、シャトナー作となれば 辛抱できなくて買ってしまいました。当然、いらいらは募るばかり。用語や雰囲気の違和感 を割り引いたとしても駄作でした。TOS TNG VOYのレギュラーが次々と登場するというシャトナー作品のほほえましい乱暴さは相変わらずでした。
恒例の駄訳は挙げておきましょう。もう意地になってきました。例によって前述したものは除きます。
本来の訳語斉藤氏の訳語コメント
ベタゾイドベータゾイドわずかな違いですが・・・
ラフォージラフォージュこれもわずかな違いですが・・・
チャーリースコットTNGに再登場した時でも訳語はチャーリーでした。正確なのがいいというわけでもないのです。
ナチェフネチャーエフ原語を見てないけどたぶんNachayev、ピカードの天敵のあの女性のことでしょう
艦隊の誓い基本命令まさに直訳。ただし、これは賛成です。
ハイポスプレー高圧注射器前回は圧縮だったけれども、また高圧に戻った
ワープスピードワープ艦速艦医というのもありました。艦が好きなのですね。
その他にも、テレビシリーズではマッコィがカークに話すときは敬語は使わなかったけれども、 それを見ていない訳者は単純な上下関係しか知らないので、船長(艦長ではない)に対して敬語で訳していた。 この鏡像世界というタイトルも、違和感があります。このパラレルワールドの題材はTOSのMirror, Mirror (イオン嵐の恐怖)が下敷きになっていることを訳者は理解しているのだろうか。 スタートレック本の訳者の交代を早川書房は早急に考慮せよ。でも、訳者は日本SF界の大物のようなので 無理でしょうね。



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