日々折々

日々折々に思うことを書き連ねます

第19回 本当の個人情報とは


 試みに、情報と流出等のキーワードでググってみると、山のような漏洩情報が出てきます。 今回のベネッセの情報流出では、社長が200億円もの補償金を準備したというニュースが流れている。しかし流出したその情報が本当にそれほどの価値があるものだろうか。私たちは最近の個人情報に対するマスメディアの無定見な煽り報道に踊らされてはいないだろうか。
 ほとんどの日本人は、かつてはダイレクトメールという形で、近年はメールで、或いはフリーダイヤルの電話で、なぜか自分の現状に符合するタイミングで様々な商品勧誘を受けたことがあるだろう。その情報はどこで得たのだろうかと不審に思ったことがあるだろう。
 インターネットのブラウジング中に表示される広告が、なぜか自分の趣味に一致している等を感じたことはあるでしょう。これは行動ターゲティング広告というやつで、以前にこのコーナーで書いたが、批判するメディアはない。なぜならメディア自身が荷担しているからだ。ちょっとネット検索しただけなのに関連情報が次々にウェブページのあちこちに表示されるというのは気持ち悪いものだ。筆者は土足で家に上がり込まれているようで嫌なのだが、これもシャットアウトする術はほぼないのだ。
 そういう情報源の一端がベネッセの事件で垣間見えただけなのだが、今回は過剰に大騒ぎしている。最近ではヤフージャパンでデータベースがクラックされて、パスワードの変更を強制されたユーザも多かった。しかしその時に補償金の話はなかった。クレジットカード情報は暗号化されていたから大丈夫というヤフーのコメントに皆さん納得したからなのだろう。
 筆者が気になる個人情報というのは、銀行の口座情報、インターネットサイトに登録したクレジットカード情報などだが、今回の事件では住所、氏名や生年月日だった。そんなもの何に悪用されるというのだろう。銀行口座情報が漏れたら、自分の財産に直接影響する。クレジットカード情報も悪用されることは現実にある話だ。氏名や生年月日は行動ターゲティング広告で利用されることと大差のない影響しかないと、筆者は考える。  決して容認しているわけではない。ただ、過剰な反応は別の問題を生むことを考えなければならないのだ。地域のつながりが非常災害時には不可欠だと言いながら、実際には町内の名簿ですら「個人情報保護」の名の下に存在しなくなっている。普段は面倒な付き合いをしたくないという方には楽でいいだろうが、反面住んでいる地域への愛着が乏しくなる。これは、個人の孤立を助長し、社会性の崩壊に繋がるものではないだろうか。老人の孤独死、子供の犯罪被害、それらは社会性の崩壊がかなり進んでいることの象徴ではないだろうか。

 ここで、提言したい。本当に保護すべき、言い換えればプライバシーとして秘匿すべき情報と誰もが共有してもかまわない情報を見直す必要がある。住所や名前を駅前に張り出せと言っているのではない。しかし殊更知られたからと言って補償金を要求するような性質のものではないと考える。そうしないと郵便配達人が手紙をポストに投函したときに、自分の情報をなぜ知っているのかと問い詰めるようなことが起こるかもしれない。実際住民票の登録は役所にはするけれども日本郵便株式会社という企業に登録はしていないはずなのだ。このような事態を真剣に突き詰めれば、郵便事業は崩壊するだろう。現今のマスメディアは、徒に個人情報保護を取り上げているが、最終的にはそういう社会を形成しようとしているということに気がついて欲しい。マクドナルドで成功してベネッセの社長に転身した方が、金額まで上げて謝罪会見をしたときに、「それはやり過ぎだ」と諫めるくらいのジャーナリズムであって欲しい。  本当に必要な保護とはどれかということの吟味から始めて、それを守るためのセキュリティ意識を牽引するようなリーダーシップを期待したい。

 筆者は、この手の情報流出の態様を見ていて、情報に関する企業の安易な感覚も気になる。サーバの管理は素人にできるものではない。だから、派遣社員で技術のある人を雇用するという姿勢が一番の問題だと思う。情報機器の保守管理をする社員は、守秘義務を課すために正規社員にすべきなのだ。企業間の契約は末端の派遣社員やアルバイトにはきちんと浸透しない。さらに、見合う報酬を払う。情報がそれほど価値が高いというのなら相応の報酬を払って、社員のプライドを満足させる。くすねたデータで100万円を稼ごうとするような気を起こさないで済むだけの報酬を用意すべきなのだ。高い技術を持つ人を正規社員にして高い報酬を払っておけば、企業全体のセキュリティシステムにまで目配りをしてもらえるだろう。データの流出を防ぐことができるだけでなく、インターネット経由でハッキングしてくる輩に対しても高いファイアウォールとなってくれる可能性もある。米国ではハッキングのイベントを開催して、技術の高い人を見つけては雇用しているではないか。情報化社会と呼ばれて久しいのに、情報関連の技術者のステイタスが低すぎることがベネッセのような問題を生むのだ。


Night July 20 , 2014 綴


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