私の書棚

記憶に残る書籍について思うことを書き連ねます

第17回 隠蔽捜査
著者 今野 敏
出版 全8作 + 4作

 今野敏はエンターテインメントの作家として、私の好みの方の一人です。ご自身も武術の心得がおありの方で、空手や拳法もの、刑事物、オカルトもの、そして警察官僚ものと夥しい作品を上梓されています。軽妙な語り口と的確な描写力は、それぞれのシリーズによって使い分けられています。その中でも、本書はキャリア警察官僚が降格されるまでを警察内部の隠蔽体質をネタに描いたものです。以後に続くシリーズは降格された後の活躍を描いたものです。キャリア官僚として、現在の権力を存分に活用し、上位の権力者には果敢に対抗するという基本姿勢を崩さず、ストーリーは進行していく。
 多数の反骨的な小説は、権力者に対抗するために処分を覚悟の上で活動するという話が多いが、本書の主人公は相当な権力を持っているという設定である。従って、かなりの部分は自分の思ったことを実現できる立場にある。そのため物語の進行はかなり早い。むしろ権力を恐れる部下を自在に働かせることが出来るのです。多くの非管理職の人々が痛快に感じるような筋立てなのです。登場人物も、いかにも権力に反駁するタイプから、権力に阿る人まで、多彩な人物が出てきます。その人物達がシリーズが進むにつれて主人公に共感していくハートフルな部分もあります。
 警察小説とか暴力小説などは基本的に私の好みではないのですが、今野敏小説の全作品の通奏低音として、人の心を安心させる優しさがある。同じような警察小説を書いている誉田哲也などは、表現がどぎつく気持ち悪いだけです。

難解な書物を読んでいるととても疲れますが、そんな時このシリーズは心に安らぎをもたらしてくれます。

シリーズを以下に列挙する。
隠蔽捜査     初出:2005年9月
果断 隠蔽捜査2  初出:2007年4月
疑心 隠蔽捜査3  初出:2009年3月
初陣 隠蔽捜査3.5 初出:2010年5月
転迷 隠蔽捜査4  初出:2011年9月
宰領 隠蔽捜査5  初出:2013年6月
自覚 隠蔽捜査5.5 初出:2014年10月
去就 隠蔽捜査6  初出:2016年7月
棲月 隠蔽捜査7  初出:2018年1月
空席 隠蔽捜査外伝 初出:2018年11月 電子書籍
清明 隠蔽捜査8  初出:2020年1月
選択 隠蔽捜査外伝 初出:2020年11月 電子書籍
(電子書籍版以外は新潮社の出版のようです。私はすべて電子書籍版で読みました)

Before noon July 23 , 2021 綴

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